著者
岡 美貴子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.586-609, 1973-05-20 (Released:2008-12-16)
参考文献数
69
被引用文献数
1 1

目的:耳鼻咽喉科領域にいて,言語機能と聴覚とを結びつけた研究はほとんど行なわれていなかつた.著者はKey-tappingによる大脳半球優位性テストによつて,言語機能と聴覚機能との関連性について研究を進めた.言語機能の局在側は和田法によって確認し,聴覚検査結果とWada法との結果を対比し,聴覚による大脳半球優位性テストの臨床的意義について検討を加えた.検査対象:手術,精査の目的で東女医大脳外科に入院した患者44名について,次の検査を行こなつた.(1) 純音オージオメトリー,(2) 語音明瞭度検査,(3) Key-tappingによる大脳半球優位性テスト,(4) 数字加算による大脳半球優位性テスト,(5) 歪語音検査,(6) 和田法による言語位側の決定.結果:(1) 和田法によつて,言語優位側は44例中38例(86.4%)が左脳優位,5例(11.4%)が右脳優位1例(2.3%)は左右差がなかつた.(2) 脳外科で左脳損傷と診断された24例のうち,障害側が優位のものは22例,右脳優位のものは2例であつた.右脳損傷,脳幹部損傷,開頭精査で脳損傷を認めなかつた20例のうち右脳優位のものは3例,左脳優位のものは17例であつた.(3) 和田法とtappingによる優位性テストの対応を求めると,44例中母音"あ,,に対して右耳(左半球)1KHZ純音に対しては左耳(右半球)優位のnormal patternを示した17例では,和田法による言語優位側は全例左脳であつた.normal-contra型の2例は和田法でも右脳優位の成績が得られ,normal-pattemを示す例では両者の成績は一致していた.no-difference型のもの11例では全例左脳優位を示した.左側または右側への病的Shiftを示した13例(左脳へのShift 3例,右脳へのShift 10例)では偏位側と言語の局在とは無関係であつた.(4) 脳外科診断による脳の障害半球側とtapping法による障害半球側との対応関係は左脳への病的Shiftを示した3例うち,2例は右脳損傷.1例は多発硬化症であつた.右脳への病的Shiftを示めした10例では全例左脳障害であり,優位性の病的Shiftは片側脳の障害を見い出す根拠となり得ることがわかつた.(5) 数字加算法による大脳半球優位性テストの結果は,左脳優位23例,右脳優位2例,左右差のないもの13例,テスト不能6例であつた.左脳損傷例24例のうち,和田法で左脳優位は21例であつたが,このうち19例は数学加算法で左脳優位の成績を示し,tapping法によるよりもより言語機能と関連が深いことが知られた.