- 著者
-
岡尾 恵市
- 出版者
- 立命館大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1996
3年間を通じての研究成果は、別紙『報告書』に掲載した論文および諸資(史)料・翻訳を通じて示したが、以下の様に要約される。(1) 近年の女性の陸上競技選手たちの樹立する記録の水準の高さには驚かされる.1998年段階での女性選手の成就している世界記録は、一部の例外を除けば、1936年の「オリンピック・ベルリン大会」当時から戦後の1950年代に出された男性の世界記録に匹敵するとともに、日本記録と比較すれば、1964年の「オリンピック・東京大会」当時の男性の出した記録をも凌駕しているものさえある。(2) こうした世界レベルの女性競技者による記録の飛躍的進展は、女性の身体的特性の研究に立脚した科学的トレーニング方法の急速な進歩とともに、今日世界に普及・発展した「陸上競技」を実践する数千万人という女性競技人口があるからに他ならない。(3) しかし、世界の陸上競技界にとって「女性の陸上競技」が組織として公然と活動を開始するのには幾多の「茨の道」を歩んできた.男性の近代陸上競技は、1850年代の英国に萌芽が見られ、1860年代の後半に「規則」が整備され、組織が確立して、今日の基礎になる姿を示すが、女性の競技は、米国の女性プロ選手による「賭け」競技として一部行なわれていた形跡が見られるものの、19世紀末までその出発を待たねばならなかった。(4) しかも、当初は「女性が競技をする」事に対し、男性の側からの蔑視や非難・妨害が多々あり、第一次大戦以降、当時の先駆的な女性たちが「女権獲得・選挙権獲得」等の運動と連動させながら、組織を創って立ち向かう中から今日の活動の基礎を築いてきたを忘れてはならない。(5) しかしその競技内容は1920年代以降、今日に至るまで約80年間にわたって、男性に「追いつけ追い越せ!」の思想の下で、用器具の軽量化・短小化・距離の短縮化等を行なうことによって男性種目の女性種目への転用をはかった、いわば「男性種目のミニコピー化」であったことが明かとなった。(6) 今後、「女性陸上競技」が、21世紀に入ってもその路線を継承・発展させていくべきか、それとも「女性独自」の種目や内容の陸上競技を創出していくべきかについては、競技スポーツの本質を決定づける問題であろうが、筆者はこの研究を通じて、女性の身体特性に合致した「女性独自の競技種目」をこそ新たに創出・誕生させなければならないとの確信を持つに至った。