著者
岡崎 和夫
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.96-111, 2008-01-01

確かな新資料の出現は、従来の研究にあらたな成果を導くものとして期待されるが、案に相違するばあいも少なからず認められる。小稿は、平安時代後期成立の仮名散文作品を中心に扱って、本文にかかわる先蹤の成果の質を問い、研究の課題をさぐることを主眼とし、次下の二点を指摘することを通して、資料研究の現在に、語学的側面から、また文学的側面にも及んで新たな視点を呈示する。はじめに、「暦日の吉凶」の意を持つ平安時代語と解されてきた諸語のうちその確かさが認定されるのは「ひついで」以外にないと考えられることを諸資料本文の追尋によって日本語学的見地から実証し、現在に至る資料研究のありよう、またその応用の現況にも修正を求める。これにあわせて『日本国語大辞典』『広辞苑』ほかの諸辞書の記述のありようの不確かさにも言及して修訂を求める。次に、これまで永く「たそに(誰そに)……」などと解されてきた『四条宮下野集』の当該本文を例にして、冷泉家本の仮名字体の検討から「たうに(答に)……」と論定すべきことをあきらかにし、本文の文脈と主意の理解、またそれに連動する文学的理解にも言及して従来の知見に修正を求める。
著者
岡崎 和夫
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.17-32, 2014-04

古代の暦日語のうち、『今昔物語集』本文の「吉日」につき、古鈔本本文の用例データの解析にしたがってその語形が「よきひ」とみなされること、また古鈔本の欠落をおぎない得る新写本本文にしたがって音読の語形の存在も推測されることを論証する。これにあわせて、従来の知見を批正しつつ、次下2つの事実をあらたに報告する。・『大鏡』の最有力古鈔本とされる東松本本文にもとづく「最吉日」の語について、これがけっして古今にわたる日本語資料中の孤例ではないこと。・中世後期の日本語資料に散見する「最上吉日」の語についても、従来知られた初例を遠くさかのぼる永長年間の確例のみいだされること。
著者
岡崎 和夫
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.33-48, 2011-07

この稿は、暦日の吉凶の謂いの表出をになう語の歴史的探究を目的とし、『高倉院厳島御幸記』、『古今著聞集』、『愚管抄』、『春のみ山路』、『鎌倉遺文』、『延慶本平家物語』など中世前期(鎌倉期)ごろの日本語を反映するとみとめられる諸資料を中心にその用例、またその用例に関する注釈的見解について検証を試み、(1)院政期までと同様、鎌倉期に至ってもなお「ひなみ」の暦日語としての確例は容易に見出し難いと判断される。(2)(1)にもかかわらず、『古今著聞集』や『愚管抄』など漢字表記例「日次」の認められる本文のばあい、従来の注釈的諸研究は、いずれも、その根拠を提示しないまま「ひなみ」の語としての認定がなされており、あらためて古代の暦日語彙のありようをふまえ、先入的認識を排除したたしかな知見の構築が求められる。(3)平安朝期全般にわたって、物語、日記、説話ほかの諸作品本文に暦日の吉凶の意をあらわす専用の語としておおくの確例のみとめられた「ひついで」は、なお、こののちも鎌倉期以降の資料においてもその確例をみとめ得るが、これまでのところ、管見に入った用例は何れも中世後期(室町末期)内に摂せられる。(4)(3)のいっぽう、「ひがら」は、暦日の吉凶の謂いの確実な古例がすでに鎌倉中後期にみとめられ、ひきつづいてのちの時期にも確例がみとめられるが、中世期全般を総じても、管見に入った総用例数は僅少である。の諸点をはじめとして日本語史にかかわるあらたな知見を呈示する。