著者
岡崎 哲司 三原 敏敬 JoAnne S Richards Zhilin Liu 島田 昌之
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.102, pp.2, 2009

【目的】我々はブタ精液中の細菌数と精子運動性には負の相関関係が存在し、細菌感染の悪影響は細菌増殖抑制作用を示す抗生物質では効果はなく、グラム陰性菌膜成分のLPSを不活化させるPMBにより抑制可能となることを明らかとした。このことから、細菌から放出されるLPSが精子に直接的に影響を与えていると推察されるが、精子の細菌認識について、全く報告がない。そこで、本研究ではLPS及びグラム陽性菌膜成分を認識し、初期免疫応答を司るTLR4及びTLR2の精子での発現と、そのKOマウスを用いて、精子における自然免疫能の役割を解析した。【方法】8週齢の雄マウスの精巣上体から精子を回収し、LPSまたはTLR2リガンドPam3Cysで処理し、精子機能性解析のためのサンプルを経時的に回収した。また、一部の精子は体外受精あるいは人工授精に供試した。【結果】マウス精子においてTLR4とTLR2の発現がmRNA及びタンパク質レベルで認められ、TLR4は先体及び尾部に、TLR2は尾部に局在していた。WTマウスではLPSまたはPam3Cysの添加濃度依存的に運動・生存率は低下し、培養3時間までに先体損傷が観察された。さらに、これらの精子ではNFkBのリン酸化、Caspase-3の活性化が生じ、アポトーシスを誘起していた。一方で、<I>Tlr4-/-</I>マウス精子ではLPS、<I>Tlr2-/-</I>マウス精子ではPam3Cysによる運動性低下、先体反応は全く起こらず、Caspase-3によるアポトーシスも完全に抑制されたが、<I>Tlr4-/-</I>マウス精子にPam3Cys,<I>Tlr2-/-</I>マウス精子にLPS処理するとWTと同様の結果を示した。リガンドを暴露したWTマウス精子を用いた体外受精および人工授精では、受精・卵割率が有意に低下したが、KOマウスでは、それぞれのリガンドに対して受精能低下は起こらなかった。さらに、両遺伝子欠損マウスでは、精子の運動性は長期にわたり維持され高い受精率を示した。以上の結果から、精子は自然免疫能を司るTLR4、TLR2により精液中の細菌感染を認識し、自己の機能性低下やアポトーシスを起こすことで、受精能を低下させていることが初めて明らかとなった。