著者
島田 将喜 岡本 都紅紫
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.171-179, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
50

オニグルミ(Juglans mandshurica,クルミ科)は,ノシメマダラメイガ(Plodia interpunctella)の幼虫により果仁を食害される.東京都西多摩郡におけるクルミパッチの林床上には健全/虫害堅果が混在するため,クルミを集中的に利用するニホンリス(Sciurus lis)は破殻・運搬行動に至る前に堅果の状態を判別できれば,採食効率を高めることが可能であると予想される.本研究は健全・虫害堅果の設置実験を行い,オニグルミ堅果を利用するリスとタヌキ(Nyctereutes procyonoides)の堅果の状態の判別方法を明らかにした.健全堅果は虫害堅果に比べ採集月にかかわらず体積・重さともに有意に大きかった.リスはタヌキと異なり接触の開始時点で健全堅果を有意に高い割合で選択し,また虫害堅果に接触した場合はタヌキより早く放棄した.リスの堅果接触時の行動推移のパタンは,堅果の状態に応じて変化した.健全堅果接触時は堅果を回転させ,咥え,その後運搬するという推移が多く生じたが,虫害堅果接触時は,においを嗅ぐとすぐに放棄するという推移のみが観察された.タヌキは堅果の状態にかかわらず,堅果のにおいを嗅ぎ,堅果を咥え運搬するという推移が多く生じた.リスは,林床上に常に高い割合で混在している虫害堅果を採食・運搬・貯食するリスクを減らし,効率的な採食行動を行っていると考えられる.一方タヌキには,堅果の状態を判別する行動は認められなかった.