著者
岡本 雅雄 大塚 尚 西本 昌義 天野 信行 守 克則 羽山 祥生
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.107-112, 2014

鈍的外力による四肢主幹動脈の内膜損傷は,放置すると遅発性の血栓閉塞や仮性動脈瘤の形成などが危惧される。しかし内膜損傷の自然経過は十分に解明されていないため,非閉塞性動脈の内膜損傷に対する治療方針には議論の余地がある。今回,鈍的外傷による下肢動脈の非閉塞性内膜損傷2例に対し保存療法を行い,良好な経過を示したので報告する。症例1:21歳の男性。injury severity score 29,墜落外傷例であった。近医で出血性ショックに対する集中治療を受けた際,偶然に左総大腿動脈内膜損傷を発見され,動脈再建目的で転送された。搬入時の末梢循環は問題なく,造影CTではintimal flapを伴った広範囲の壁不整像を認めたが開存していた。ショック離脱直後の状態であり緊急性もないことから保存療法を行った。受傷後5.3年,造影CTでは動脈は狭窄なく開存しているが,壁不整像が僅かに残存している。症例2:41歳の男性。喧嘩の仲裁に入った際,右膝を過伸展し受傷した。近医へ搬送され阻血徴候を認め,造影CTでは膝窩動脈の造影効果の欠如を認めたため血行再建目的で転送された。しかし搬入時には末梢循環は保たれ,再検査では内膜損傷を認めたが開存しており保存療法を行った。受傷後2.2年,造影CTでは動脈は開存しているが,僅かな壁不整像を残している。自験例2例は,下肢主幹動脈の阻血症状を呈さない非閉塞性内膜損傷であり,遅発性血栓閉塞に備え血行再建を即座に行える体制下で保存療法を行った。最終観察時に僅かな動脈壁不整像を残し,今後も経過観察を要するが,臨床的には良好な経過と考えられる。近年,画像機器が発達し四肢主幹動脈損傷の診断が簡便かつ詳細に行えるようになったが,これに伴い非閉塞性内膜損傷に遭遇する機会も増えると推察される。今後は,詳細な画像分析と長期成績に基づいた非閉塞性内膜損傷に対する治療指針の確立が望まれる。
著者
廣藤 真司 岡本 雅雄 瀧川 直秀 川島 啓誠 金 明博
出版者
中部日本整形外科災害外科学会
雑誌
中部日本整形外科災害外科学会学術集会 抄録集
巻号頁・発行日
vol.105, pp.385, 2005

【目的】頭頚移行部での外傷は致死的となるものが多く、生存例であっても重症頭部外傷の合併により見過されやすい.今回、生存し得た後頭環椎関節と環軸関節の亜脱臼を呈する外傷性頭頚移行部不安定症の1例を経験したので報告する.【症例】64歳、男性.自転車走行中、オートバイと衝突し3m下に転落し受傷した.搬送時、意識レベルはJCS10、vital signは安定していたが、呼吸はいびき様であった.四肢麻痺は認めなかった.合併損傷としてびまん性軸索損傷、両側多発性肋骨々折ならびに両側血胸を認めた.単純X線では、環椎軸椎間は後弓間距離が開大しADIのV-gapを呈していたが水平・垂直脱臼は認めなかった.CTでは後頭環椎関節前方亜脱臼と環軸関節亜脱臼、後咽頭腔と後方軟部組織の腫脹を認めた.MRIでは後咽頭腔と後方軟部組織に広範なT1低、T2高の輝度変化を認めたが、脊髄・脳幹部には明らかな輝度変化はなかった.受傷後2日目にハローベスト装着、21日目に後頭骨軸椎間固定術を施行.術後4カ月の現在、廃用性筋力低下に対し歩行訓練中である.【考察】本症例は搬送直後に頭頸部のCT撮影により早期診断が行え、適切な処置が可能であった.全経過を通して麻痺症状の発現を認めなかった.後頭環椎関節と環軸関節の亜脱臼の合併例は報告がなく、極めて稀な外傷と考えられる.本症例の受傷機転は、後頭環椎関節の前方亜脱臼と後方が開大する環軸関節亜脱臼の形態からは屈曲伸展損傷と推察された.