著者
羽田 清貴 加藤 浩 井原 拓哉 中野 達也 深井 健司 辛嶋 良介 宮本 崇司 森口 晃一 嶋村 剛史 岡澤 和哉 奥村 晃司 杉木 知武 川嶌 眞之 川嶌 眞人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0237, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】臨床において,歩き始めに膝痛や不安定感などの症状を訴える変形性膝関節症(以下,膝OA)患者は少なくない。膝関節へのメカニカルストレスの指標として外部膝関節内反モーメント(以下,KAM)が注目されており,膝OAの病態進行の危険因子の1つとして考えられている。また,膝OA患者に対して体幹や骨盤の回旋運動を改善させる理学療法を実施すると,歩容の改善だけでなく膝痛が減少する患者を経験する。そこで本研究の目的は,膝OA患者の歩き始めにおける胸椎・骨盤回旋運動とKAMとの関連性について検討することである。【方法】対象は膝OA患者7名(平均年齢70.3±10.9歳。以下,膝OA群)と健常成人15名(平均年齢35.0±11.7歳。以下,対照群)で全例女性であった。課題動作は5mの歩行路上の自由歩行とした。計測下肢から一歩目を踏み出し,床反力計を踏むように指示した。一歩目の歩幅の距離は被検者の身長の40%になるように設定した。歩行時は目の高さに設置した前方の目標物を注視させた。動作は5回実施した。計測方法は,赤外線カメラ8台を備えた三次元動作解析装置Vicon-MX13(Vicon Motion Systems社製)と床反力計(AMTI社製)1基を用いて実施した。三次元動作解析装置,床反力計のサンプリング周波数は100Hzとした。直径14mmの反射マーカーを身体51箇所に貼付した。得られたマーカー座標から胸椎セグメント,骨盤セグメント,両大腿セグメント,両下腿セグメント,両足部セグメントの8剛体リンクモデルを作成し,胸椎・骨盤の絶対及び相対回旋角度変化量,KAM第1ピーク値と第2ピーク値を算出した。統計学的解析はDr.SPSS II for Windows 11.0.1 J(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,正規性の有無に従って,2群間の比較には2標本の差の検定を,KAMと胸椎・骨盤回旋角度変化量の関連性の検討にはPearsonの積率相関係数,またはSpearmanの順位相関係数を用いた。なお有意水準は5%未満とした。【結果】KAMの第1ピーク値と第2ピーク値[Nm/kg]は,対照群でそれぞれ0.35±0.09と0.31±0.09,膝OA群でそれぞれ0.57±0.16と0.53±0.16であり膝OA群が有意に高値を示した。胸椎相対回旋角度の変化量及び骨盤絶対回旋角度の変化量[deg]は,対照群で18.39±7.20と14.89±6.57,膝OA群で10.79±3.97と7.79±5.05であり膝OA群が有意に低値を示した。また,胸椎相対回旋角度の変化量及び骨盤絶対回旋角度の変化量は,KAMの第1ピーク値及び第2ピーク値と負の相関関係が認められた。【結論】歩き始めにおけるKAMは膝OA群が大きかった。臨床において,歩き始めに膝痛を訴える膝OA患者は,KAMの増大が疼痛の誘発原因の1つになっている可能性が示唆された。また,胸椎や骨盤の回旋可動域の低下は,KAMを増大させる一要因になる可能性が示された。膝OA患者のKAMを減少させるための理学療法戦略として,歩行時の胸椎や骨盤の回旋運動に着目する必要性があるかもしれない。