著者
岡田 仁孝
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.15-29, 2013-09

The base of the economic pyramid(BOP)に関して討論が盛んに行われている。以前は、リスクやコストが高く、利益が得にくい発展途上国での貧困層を対象としたビジネスは、ほとんどの多国籍企業にとり興味の対象外であった。では、なぜBOPビジネスが重要になってきたのか。持続可能性の概念が個人や組織に大きく影響を与え、それに一番脅威となる貧困と貧富の差の問題を解決することが、不可欠となってきたからである。その解決策として、富の再分配ではなく、市場原理を基にした価値創造による方法が模索され、開発と企業活動が融合する領域であるBOPビジネスが重要視されるようになってきた。また、持続可能な発展を実現するには、包括的な考え方が必要になり、市民社会は、企業を社会に依存する組織として認識し、社会における合法性と正当性、人権の擁護、そして、公平性.透明性.説明責任等を伴うガヴァナンスの実施を強く要求した。結果、企業市民として、また、これらの要求に沿って行動している証として、企業のBOPビジネスが重要になってきたのである。持続可能性実現への動きの中では、数々の新しい制度が創られ、組織変革を起こした。そして、これらの新しい動きと連携することにより、企業はリスクと取引コストを下げることができるようになり、以前はビジネスとして成立しえなかった領域においてさえも、ビジネス機会が増え、BOPビジネスが可能になってきた。当然、このような変革から、必要とされるビジネスモデルも変わってきた。貧困層が持つ分散知識への理解がBOPビジネスの発掘を助け、そして、彼らの合理的行動を理解することが、彼らをビジネス活動に参画させる方法を見出すのに役に立っている。当然、これらのノウハウは開発関係の諸組織に集積しており、彼らとの協働というクロス・バウンダリー・コラボレーションが重要になり、その手法は、リスクをヘッジさせ、取引コストを下げ得ることから、非常に効果的なビジネスモデルと理解されるようになってきた。このことは、全く新しい考え方、ノウハウ、経験がBOPビジネスに必要になって来たことを意味し、特に、分散知識に基づいた価値観の多様性、分散知識を動員する能力、そして、現地合理性への理解が不可欠になってきた。その結果、企業がこのような動きに対応できる価値観や組織の適応能力を持っているかどうかまで試されるようになってきた。