著者
岸本 千佳司
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.27-43, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
27
被引用文献数
1

台湾は、1990 年代以降、半導体産業における「設計と製造の分業」のトレンドに逸早く乗じ、専業ファウンドリ (ウェハプロセスの受託製造業) という新たなビジネスモデルを打ち出し台頭していった。他方、日本半導体産業の衰退は「分業を嫌い続けた」ことが大きな原因と指摘されている。これは、ファウンドリの IDM に対するビジネスモデル上の勝利と見做されている。ところで、ファウンドリ業界の近年の特徴として、最先端プロセス開発とそれを踏まえた生産ライン構築の資金的・技術的難易度が上昇し、それを背景に業績格差、とりわけ業界 Top の TSMC と 2 位以下のメーカーとの格差が広がっていることがある。既存研究では、ファウンドリ業界内でのこうした格差については十分検討されていない。そこで本研究は、TSMC および同社と同じく台湾企業であり業界 No.2 でもある UMC の比較分析を通して、その点に光を当てる。具体的には、両社の収益性と生産能力、プロセス技術開発に関する数値データと関連資料を分析し、格差の実態とこれら要素間の関連性を検討する。これは同業界での成功要因を明らかにすることにも繋がる。その結果、生産能力増強と先端プロセス開発での競争でライバルに先んじることで顧客の支持と市場シェアを獲得し、そこから収益確保 (と株価上昇) へ、そして次世代の研究開発・設備投資へと繋がる成長の「正の循環」の存在を見出す。これが格差拡大の基本的背景でもある。さらに、格差を一層加速する半導体製造業界特有の事情として、①ムーアの法則 (微細化によるチップの性能向上と製造コスト低減が長期間にわたって幾何級数的に続き、それによって半導体メーカーの利益を確保しながら半導体ユーザーのニーズに応えられる環境) を背景とする不断の先端プロセス開発競争と近年その微細化が物理的限界に近づいたことによる技術的・資金的難易度の一層の上昇、および② Top ファウンドリ (TSMC) のプロセス技術が業界標準化し、同社を中心に半導体設計・製造のエコシステムが発展しているという状況を指摘する。
著者
楊 英賢
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.131-148, 2015

本研究では、台湾の自転車産業における A-Team と最大手メーカージャイアントを研究対象として、 製品アーキテクチャという新たな視点を導入することで、A-Team に関する成立背景と目的、そのパフォーマンス及び新たな能力創造、そして A-Team の特徴と従来型の組織間関係との差異などを明らかにしたい。以下、明らかになった点とインプリケーションについて述べる。<br>第一に、モジュラー型アーキテクチャの典型で、コモディティ化が一方的に進むと考えられてきた自転車産業において、ジャイアントは革新的で高付加価値の製品開発を実現した。これは A-Team における組織間協調や交流を通じた技術開発と知識の共有化・融合化の促進によって可能となった。<br>第二に、A-Team は、企業間に競争関係ではなくコーペティション(CO-OPETITION)関係を導入することで、有形資源の取引だけでなく、無形資源の共有化を実現し、さらにはコスト優位から差別化優位への能力転換などを実現させた。こうしたことが、革新的で高付加価値製品の開発生産性向上に結び付いた。これらは、従来型の中心・衛星工場システムといった取引関係では実現できなかったものである。このような、競争と提携が交錯したコーペティションという経営手法が、台湾の自転車産業独自の強みになっていると考えられる。<br>最後に、台湾の自転車産業は A-Team による新たな能力創造と製品アーキテクチャの変化に依拠して、従来のコスト優位から、差別化優位の戦略や能力の構築をさらに推進していく必要がある。中国はモジュラー型・オープン型アーキテクチャの技術開発を得意とするため、価格競争で優位性を持つ。この分野では、どの企業も中国に勝つための優位性を持つことは難しい。したがって、台湾の自転車産業は、日本型のすり合わせを特徴とする非標準的な付加価値の高いアーキテクチャ分野の製品を開発する必要がある。
著者
梅野 巨利
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.133-145, 2009-09-30 (Released:2017-06-30)
参考文献数
14

本稿は、1970年代初頭に立ち上げられた後、数々の苦難に直面して挫折したイラン・ジャパン石油化学プロジェクト(通称IJPCプロジェクト)の誕生過程を史的に分析するものである。IJPCプロジェクトは完成を見ることなく終わったことから、これまで「失敗プロジェクト」として見なされることが多かった。そうしたことが強く影響しているためか、本プロジェクトに関係した日本企業は、本件に関する企業資料の開示を一切行っていない。そのため、これまでIJPCについて書かれたものの大半はマスコミやジャーナリズムの手によるものであり、学術的視点からこの問題を取り上げ分析したものはほぼ皆無であった。本稿はこうした資料的制約を克服し、本課題に関する研究上の空白を埋めるべく、IJPC関係者への面談取材を積み重ねることで、これまでの既存文献資料では明らかにされなかった本プロジェクト誕生過程の事実関係の詳細と、そこにおける諸問題に焦点を当てようとするものである。本稿の結論は以下の3点である。第1点は、IJPCプロジェクトは、その誕生過程においてイランの突出した交渉イニシアチブに押される形で実現へと向かったということである。イランの積極的かつ巧みな交渉力に、日本側は石化事業の実行へと突き動かされた。第2点は、本プロジェクトの立ち上げ段階において、すでに日本側関係企業内部において利害相克や思惑の相違などが存在しており、本プロジェクトの立ち上げ初期段階において日本側が一枚岩ではなかったということである。したがって、日本側企業グループの代表的立場にあった三井物産は、イランとの関係ばかりでなく、同社自身の関連部門組織間ならびに参加化学メーカーどうしの利害調整という難しい課題を抱えながらプロジェクトをスタートさせたのである。第3点は、上述の状況下、本プロジェクトが不確かなフィージビリティを抱えたまま前進したのは、これが三井物産トップの持ち込んだ重要案件であったことに加え、石油資源確保という日本にとっての至上課題が優先されたこと、そして三井物産がイランとの条件交渉面において、後に何らかの譲歩が得られるであろうという希望的観測を持っていたためであった。加えて、三井物産とともに日本側パートナーを構成した化学メーカーは、自らの利害と三井物産との企業間関係を考慮して三井物産の意思決定に追随したのである。
著者
金 熙珍
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.37-50, 2016 (Released:2017-11-06)
参考文献数
34

定性研究(Qualitative Research)の方法論には共通して使われる「型」があるのだろうか。優れた定性研究とされる論文は、どのような方法論的手順を採用しているのだろうか。本研究の目的は、定性研究の方法論的頑健性を確保するために必要とされる要件を、既存研究から導出することである。国際経営のトップ3ジャーナルとされるJIBS、MIR、JWBに最近5年間掲載された定性研究92本の方法論を分析し、共通してみられる9項目を取り上げ、説明した。この9つの「科学的ケース・スタディの要件」を研究デザインや実行、論文執筆の段階に取り入れることで、より積極的に世界に発信できる定性研究が多く生まれることを願う。
著者
今川 智美
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.39-58, 2018 (Released:2019-10-12)
参考文献数
31

本研究は、ヤクルトグループの営業手法「ヤクルトレディシステム」が、なぜ新興国市場の開拓に有効であるのかを、事例による探索から検討した。ヤクルトは戦後日本でヤクルトレディシステムと呼ばれる独自のマーケティング手法を確立し、その手法を活用することにより、世界十数か国で安定的な市場を獲得している。しかしながら、その理念的な適合性が注目されている一方で、ヤクルトレディシステムが「なぜ新興国市場で安定的に成功を収められるのか」という競争合理的側面は必ずしも明らかとなっているわけではない。ヤクルトグループが世界十数か国の新興国市場で成功を収めているのであれば、ヤクルトレディシステムという世界的にもユニークなマーケティング手法には、新興国固有の競争環境に適合する何らかの競争合理的な仕組みが存在していると考えるのが妥当であろう。本稿はこうした特殊な一事例を学術的な態度で分析することを通じて、その背後にある論理性を明らかにしようとするのである。本研究の分析は、新興国市場を特徴づける「制度の隙間(institutional voids)」がもたらす様々な問題を解決する手段としてヤクルトレディシステムを位置づけられることを明らかにした。これまで、制度の隙間が新興国の経済や企業の行動にどのような影響を与えているかはよく議論されてきたし、またその一つ一つの隙間に対してどのような策が有効であるのかも検討されてきた。しかし、様々な制度の隙間が総体として織りなすものとして各新興国市場をとらえたとき、そこで機能するものとしての事業システムがどのようなものであるのかは、必ずしも明瞭にはなっていないのが現状である。本研究ではその一つの解としてヤクルトレディシステムを提案し、「制度の隙間の諸条件によらず、安定的に運用可能なシステムであること」を分析の中からその理由として提案した。
著者
兼村 智也
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.31-43, 2009-09-30
被引用文献数
1

中国における日系乗用車メーカーの生産が拡大するなか、これまで日本からの輸入に依存してきたプレス金型の現地調達が急速に進展している。これまで技術移転しにくいと言われてきた自動車用プレス金型の現地調達がなぜ急速に進展したのか、これは日本製金型と同等の品質水準になったことを意味するのか、それとも別の要因があるのかについて、その主たるユーザーである日系自動車1次部品プレスメーカーからの視点で明らかにすることが本研究の目的である。急速な進展の背景には、従来言われる「日本製との価格差」に加え、近年の日系乗用車メーカーの世界同時生産による影響がある。この「同時」を実現するため、世界生産拠点数の数だけ同一金型が「同時」に必要となるが、供給能力が不足する日本では生産の「同期化」が困難であり、膨大な数のローカル企業が存在する中国で「現地化」を進めざるを得ない。その中国製金型の品質についてだが、これには(1)「要求形状・精度の実現」といった基本的な役割の他にも(2)「加工時の生産性」、(3)「メンテナンス性」、(4)「型寿命」がある。これら品質を決めるのは、A.加工機械の精度、B.材料品質、C.設計力、D.加工データ作成力、E.トライアウト力、F.表面処理技術力となるが、中国ではB、C、Eに問題を抱え、それらと係わりが強い(2)〜(4)ではまだ劣位にある。この品質の問題は従来のユーザーである中国乗用車産業が持つ「1モデルあたりの生産台数の少なさ」という構造的特徴に起因している。つまり耐久性のある材料品質、生産性等が求められる市場環境のなかで中国金型産業が育成されてこなかったのである。それでもローカル調達を可能にするのは、品質劣位でも使いこなさざるを得ない日系自動車1次部品プレスメーカーの取り組みによる。具体的には、部品や生産台数による日本製金型と中国製金型の使い分け、加工材、加工部位、形状による日本製材料と中国製材料の使い分け、メンテナンス体制の強化と表面処理の活用、短寿命の中国製金型での更新などである。またプレス加工時においては、多少の生産性は犠牲にしても単純構造の金型を使ったシンプルなラインを許容、加工後の後処理で対応するなどである。
著者
中村 隆
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.33-44, 2014

新興国市場において、モジュール化が進展すると、日本企業の開発した製品は競争力を失う傾向がある。このような新興国市場における日本企業のジレンマを克服するためには、摺り合せの利点を活かしたプラットフォームを用いて品質と低コストを総合的に備えた製品を開発することが求められる。その具体例として、本稿は本田技研工業株式会社(以下「ホンダ」と略称)が開発したスーパーカブ(現地モデル)のタイ、ベトナム市場での事例を取り上げる。スーパーカブは、二輪車の中ではコモディティに近い製品ながら、新興国市場等で高い競争力を保持している。その背景には、摺り合わせ型のプラットフォームの完成度の高さに依拠する製品の品質の秀逸さと、サプライヤーとの組織間関係の革新による低コスト化の両立を図ったことがある。本稿の目的は、摺り合せ型プラットフォームにより品質等と組織間関係の革新による低コスト化を両立できれば、新興国市場でも競争力を保持できることを示すことにある。
著者
有村 貞則
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.1-17, 2009-09-30

「多様な人材を"競争優位"や"組織パフォーマンス向上"のために活かす」。肯定派・中立派・懐疑派を含めて、日本国内においては、米国生まれのダイバーシティ・マネジメントが発するこのメッセージに関心が集まることが多い。しかし、ここだけにとらわれると、かえってダイバーシティ・マネジメントの特質が見失われる危険性がある。本稿では、ダイバーシティ・マネジメントの創始者ともいえるRoosevelt Thomas(1991)に立ち戻り、ダイバーシティ・マネジメントは、決して競争優位や組織パフォーマンス向上といった「企業の成功」だけを意図している訳でないこと、それとともに「機会均等」をも実現しようとしており、そのためには長期継続的な視点で「すべての従業員に有効に機能する環境」作りを行わないといけない。これこそがダイバーシティ・マネジメントたるための極めて重要な特質であることをまず確認する。次にもうひとつの特質として「個人よりも組織の変革重視」があることを指摘するとともに、ダイバーシティ・マネジメントの本質をより深く理解するための一助として、障害についての新学問であるディスアビリティ・スタディーズとダイバーシティ・マネジメントの類似性に着目してみたい。特にここでは、先駆的米国企業のダイバーシティ・マネジメントとは「すべての従業員に有効に機能する環境」作りのために、ディスアビリティ・スタディーズが主張するところの「強制力をもった環境改変手段」、「強制力のある社会変革手段」、「実践モデル」に対応する各種の取り組みを同時並行的に展開している過程であることを描き出す。最後に一般的イメージとは異なり、日本企業の障害者雇用は、欧米企業よりも進んでいるかもしれない。したがって障害者の雇用という点では、日本企業にも欧米企業に勝るとも劣らないダイバーシティ・マネジメントの側面があるかもしれない。この可能性を示唆したい。
著者
楊 英賢
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.35-52, 2009-04-30

本研究の目的は、アーキテクチャのポジショニングの視点から、TFT-LCD産業の発展過程における台湾のキーコンポーネント(特にカラーフィルターとバックライト)産業を研究対象として、そのメーカーの製品ポジショニングのあり方とその移動戦略の選択を探索することによって、なぜ、台湾メーカーは、日本メーカーが依然として圧倒的な世界シェアを持っているキーコンポーネント分野に参入することができたのか、またはキャッチ・アップすることができたのかの要因を明らかにする。本研究の主な発見事実は以下である。第一に、TFT-LCD産業のキーコンポーネントは、もともとインテグラル型の製品だったが、パネル産業の発展とともに、日本の先行企業から技術提携や移転を通じて、外販による素材の市場化が形成され、その調達が容易化されてくることなどによって、部品間のインタフェースが産業内で広く標準化され、徐々にモジュール型構造になる傾向を持っている場合が多い。例えば台湾のバックライトメーカーは、製品のモジュラー化を一層進め、高度な開発や部門協調の費用を削減し、大幅に中国への投資生産を行なっている。また、同メーカーは、光学設計、金型開発、機構設計といった統合能力を持っているため、多様な顧客のカスタマイズ化の要求に迅速かつ低コストで応えている。第二に、アーキテクチャのポジショニングの移動戦略は、製品の内部構造や製品市場の組合の差異によって、四つの選択肢がある。しかし、これらの選択肢は自国や自社の得意な分野と適合するかどうかも重要であろう。このモジュラー型カスタマイズ戦略の選択は、台湾メーカーの得意なモジュール型の組立て分野と一致しているため、同キーコンポーネント分野のインテグラル型のカラーフィルターメーカーより、国際競争力をかなり発揮することができた。かつ、バックライト産業での市場シェアにおいて日本をキャッチ・アップすることができた要因だと考えられる。
著者
上野 正樹
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.45-57, 2019 (Released:2020-11-06)
参考文献数
14

インドのエアコン市場における16社5年の製品と販売台数データをもとに、成長性と市場競争力に優れる戦略タイプを明らかにした。結果は以下の通りである。各社の戦略タイプはハイエンド重視グループの「ハイエンドニッチ戦略」と「プレミアムゾーン戦略」、ミドルレンジ重視の「ボリュームゾーン戦略」、ローエンド重視の「ボトムゾーン戦略」に分類することができる。そして、年平均成長率CAGRと市場シェア変化率において、ハイエンド重視の二つの戦略タイプが他のタイプを圧倒している。これらの分析結果は、有効な新興国戦略が従来研究されてきた戦略から他のタイプへと転換したことを示している。
著者
藤本 隆宏 陳 晋 葛 東昇 福澤 光啓
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.35-46, 2010
参考文献数
14

グローバル化の時代における、微細な産業内貿易、企業の多国籍展開といった現象を説明する一つの論理として、組織能力とアーキテクチャの適合性を重視する設計立地の比較優位論がある。これまで、多くの日本企業が「生産は中国へ移し、設計は日本に残す」という、比較的シンプルな立地方針で日中生産・設計分業を進めてきた。これは、華南の低賃金・単能工・モジュラー生産というモデルを前提にした分業構想である。しかし、中国での賃金は高騰を続けており、東莞や青島などに進出した低賃金のみに依存する外国企業は、中国から撤退を始めているように見受けられる。このように、多国籍企業は、最適立地を見直す必要に迫られている。中国には、産業平均の定着率が比較的良い地域や企業の定着政策次第で、その離職率をさらに下げる余地のある地域がある。その典型例が大連をはじめとした東北地域であり、本研究では、日系企業2社の大連拠点の事例研究を行った。大連をはじめとした東北地域では、華南や長江と比べて賃金が低いことに加えて、賃金水準に対して低い離職率、豊富な設計技術者の供給など、インテグラル型製品に適した労働環境が存在する。そこでは、日本企業は、従来考えられていた日中生産・設計分業とは異なる形での企業内国際分業体制を構築可能である。ものづくり組織能力の偏在とアーキテクチャの適合の観点から中国への国際展開を考えた場合、インテグラル・アーキテクチャ寄りの設計業務の一部を中国で行うことが可能であるということが示唆される。
著者
後藤 将史
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.5-25, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
38

組織論における制度理論では、「同じ制度的圧力を受けても、個別の組織でなぜ反応が異なるか」を主要論点の一つとするが、先行研究では組織外との関係性や組織の外形要因に関心が集中し、組織内のプロセス要因の検討が不足している。本稿の目的は、制度がもたらす同型化圧力に対する組織の反応の決定要因について、意思決定プロセスの観点で探索することである。特に、「そもそも組織内部の意思決定プロセスも同型化に何らかの影響を及ぼすのか」、そして「もしそうであれば何がどのように影響因子となるのか」を検討する。この目的から、近年普及が進むグローバル人事制度の導入検討を題材に、B2B 事業で海外展開する中堅規模日系上場企業 7 社の、2000 年以後の本社における過程につき、インタビューを中心とした比較事例分析を行った。事例分析の結果、検討着手の早さ遅さは、「外的正当性に対する感度」の高さ低さとも呼ぶべき、意思決定プロセスに内在する要因に大きく影響されたことが明らかとなった。着手が早い組織は、意思決定において、外部規範こそ目指すべき道を示すものとして高く評価し探し求め、合理的必要性と関係なく自ら進んで同型化を目指した。着手が遅い組織は、正当性を最初から最後まで自組織内の合理的判断に求め、合理的必要性を認めるまで同型化を拒んだ。本研究の貢献は、第一に制度の影響下での組織行動の説明要素として、外的正当性に対する感度をはじめとする組織内プロセス要因の影響を確認したこと、第二にそれに伴って Tolbert & Zucker (1983) が提示した制度採用のモチベーションに関するいわゆる 2-stage model の反例を提示したことである。さらに、本研究の観察は、変革への着手のされ方 (「外的正当性に対する感度」の結果) によるその後の組織変革への影響等の、研究課題の広がりの可能性を示す。
著者
米澤 聡士
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.93-107, 2010
参考文献数
16

本稿の目的は、外航海運企業におけるクルーズ客船事業に焦点を当て、代表事例としてのケース・スタディと、主にサービス・マネジメント論の先行研究によって示された理論的フレームワークに基づいて、同事業部門におけるサービス・マネジメントを成功裏に展開するための船員戦略の要件を仮説として提示することである。本稿では第1に、サービス・マネジメント論の概念を用いて、クルーズ客船におけるサービス・マネジメントの本質を明確にする。第2に、日本の海運企業によるクルーズ客船事業の代表事例として、郵船クルーズ(飛鳥II)を取り上げる。本稿では、海運企業やクルーズ客船の現場におけるインタビュー調査に基づいて、同社のクルーズ客船事業を概観し、同社全体としての船員戦略、船舶の現場におけるサービス・マネジメント、クルーのトレーニングを中心とする現場レベルでの船員戦略を検討する。第3に、上述のケース・スタディと理論的フレームワークに基づいて、クルーズ客船事業のサービス・マネジメントを成功裏に展開するための船員戦略とは何かを帰納的に考察する。その結果、クルーズ客船事業の特異性を踏まえ、以下2点の仮説を提起した。第1に、海運企業が、マンニングの段階において、船員組織における各Divisionの業務特性と、世界レベルで各マンニング・ソースから雇用するクルーのコンピテンシーを適合化すること。これによって、多様性をもつクルーのサービス・デリバリーが円滑に遂行され、サービス品質が高度化する。第2に、海運企業が、継続的雇用と固定配乗をベースとするクルーイングとトレーニングによって、クルーのサービス品質を全社レベルで標準化すること。これによって、サービス・デリバリーの不均質性を克服すると同時に、現場におけるトレーニングを効率的に行うことが可能となり、サービス品質を高度化させることが可能となる。
著者
楊 英賢
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.131-148, 2015 (Released:2015-10-20)
参考文献数
44

本研究では、台湾の自転車産業における A-Team と最大手メーカージャイアントを研究対象として、 製品アーキテクチャという新たな視点を導入することで、A-Team に関する成立背景と目的、そのパフォーマンス及び新たな能力創造、そして A-Team の特徴と従来型の組織間関係との差異などを明らかにしたい。以下、明らかになった点とインプリケーションについて述べる。第一に、モジュラー型アーキテクチャの典型で、コモディティ化が一方的に進むと考えられてきた自転車産業において、ジャイアントは革新的で高付加価値の製品開発を実現した。これは A-Team における組織間協調や交流を通じた技術開発と知識の共有化・融合化の促進によって可能となった。第二に、A-Team は、企業間に競争関係ではなくコーペティション(CO-OPETITION)関係を導入することで、有形資源の取引だけでなく、無形資源の共有化を実現し、さらにはコスト優位から差別化優位への能力転換などを実現させた。こうしたことが、革新的で高付加価値製品の開発生産性向上に結び付いた。これらは、従来型の中心・衛星工場システムといった取引関係では実現できなかったものである。このような、競争と提携が交錯したコーペティションという経営手法が、台湾の自転車産業独自の強みになっていると考えられる。最後に、台湾の自転車産業は A-Team による新たな能力創造と製品アーキテクチャの変化に依拠して、従来のコスト優位から、差別化優位の戦略や能力の構築をさらに推進していく必要がある。中国はモジュラー型・オープン型アーキテクチャの技術開発を得意とするため、価格競争で優位性を持つ。この分野では、どの企業も中国に勝つための優位性を持つことは難しい。したがって、台湾の自転車産業は、日本型のすり合わせを特徴とする非標準的な付加価値の高いアーキテクチャ分野の製品を開発する必要がある。
著者
鈴木 章浩
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.59-74, 2015 (Released:2016-02-05)
参考文献数
51

本稿の研究課題は、日系多国籍企業の海外研究開発 (R&D) 拠点が、R&D 活動に関わる知識・技術・情報を日本の本社や R&D 拠点へ移転させる要因を探ることである。海外拠点から本国へ知識・技術・情報を移転させることは、“Reverse Knowledge Transfer”と呼ばれ、グローバル・ビジネス研究分野では高い関心を集めている。本稿はこの知識逆移転についての実証研究である。具体的には 137 の海外 R&D拠点から集めたアンケート調査結果をもとに、日本への R&D 知識の逆移転を従属変数とする階層的重回帰分析を行った。 本研究の特徴は知識逆移転を、拠点の役割、人材の国際移動、拠点の自律という 3 つの面から考察した点である。まず、拠点の役割については、先端的な研究・先行テーマに取り組んでいる拠点と、それ以外の役割の拠点とに分けて知識逆移転への影響のちがいを考察した。つぎに、人材の国際移動に関しては、日本から海外へ、反対に海外から日本へ、研究開発者の 3 ヶ月以上の派遣がどのくらい行われているかを調べ、知識伝達するうえでの人材移動の効果の有無を確かめた。さいごに、拠点の自律性については多くの企業で現地人材の裁量を広げていくなどの動きがみられ分析上重要なファクターであると考えられる。ところが、自律の知識逆移転への効果を探った研究では、逆移転を促進するという結果もあれば阻害するという結果もあり、両方が混在している。そこで、自律を単独ではなく、先端的研究に従事している拠点では自律度をどうすべきか、人材の国際移動を頻繁に行っている拠点では自律度をどうすべきか、というように他変数との兼ね合いの視座から検証した。 分析の結果、先端的な研究テーマに取り組んでいる拠点はそれ以外の拠点と比べ、日本へ多くの知識を逆移転していることが明らかになった。また、日本から海外へ研究開発者を密に派遣している拠点も知識逆移転が多い。さらに、先端的研究に従事している拠点ではその自律度を低くすることで、日本から海外への人材の国際移動を頻繁に行っている拠点ではその自律度を高くすることで、知識逆移転が促されることが見出された。
著者
鈴木 章浩
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.59-74, 2015

本稿の研究課題は、日系多国籍企業の海外研究開発 (R&D) 拠点が、R&D 活動に関わる知識・技術・情報を日本の本社や R&D 拠点へ移転させる要因を探ることである。海外拠点から本国へ知識・技術・情報を移転させることは、&ldquo;Reverse Knowledge Transfer&rdquo;と呼ばれ、グローバル・ビジネス研究分野では高い関心を集めている。本稿はこの知識逆移転についての実証研究である。具体的には 137 の海外 R&D拠点から集めたアンケート調査結果をもとに、日本への R&D 知識の逆移転を従属変数とする階層的重回帰分析を行った。<br> 本研究の特徴は知識逆移転を、拠点の役割、人材の国際移動、拠点の自律という 3 つの面から考察した点である。まず、拠点の役割については、先端的な研究・先行テーマに取り組んでいる拠点と、それ以外の役割の拠点とに分けて知識逆移転への影響のちがいを考察した。つぎに、人材の国際移動に関しては、日本から海外へ、反対に海外から日本へ、研究開発者の 3 ヶ月以上の派遣がどのくらい行われているかを調べ、知識伝達するうえでの人材移動の効果の有無を確かめた。さいごに、拠点の自律性については多くの企業で現地人材の裁量を広げていくなどの動きがみられ分析上重要なファクターであると考えられる。ところが、自律の知識逆移転への効果を探った研究では、逆移転を促進するという結果もあれば阻害するという結果もあり、両方が混在している。そこで、自律を単独ではなく、先端的研究に従事している拠点では自律度をどうすべきか、人材の国際移動を頻繁に行っている拠点では自律度をどうすべきか、というように他変数との兼ね合いの視座から検証した。<br> 分析の結果、先端的な研究テーマに取り組んでいる拠点はそれ以外の拠点と比べ、日本へ多くの知識を逆移転していることが明らかになった。また、日本から海外へ研究開発者を密に派遣している拠点も知識逆移転が多い。さらに、先端的研究に従事している拠点ではその自律度を低くすることで、日本から海外への人材の国際移動を頻繁に行っている拠点ではその自律度を高くすることで、知識逆移転が促されることが見出された。
著者
中村 隆
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.33-44, 2014-04-30 (Released:2017-07-04)

新興国市場において、モジュール化が進展すると、日本企業の開発した製品は競争力を失う傾向がある。このような新興国市場における日本企業のジレンマを克服するためには、摺り合せの利点を活かしたプラットフォームを用いて品質と低コストを総合的に備えた製品を開発することが求められる。その具体例として、本稿は本田技研工業株式会社(以下「ホンダ」と略称)が開発したスーパーカブ(現地モデル)のタイ、ベトナム市場での事例を取り上げる。スーパーカブは、二輪車の中ではコモディティに近い製品ながら、新興国市場等で高い競争力を保持している。その背景には、摺り合わせ型のプラットフォームの完成度の高さに依拠する製品の品質の秀逸さと、サプライヤーとの組織間関係の革新による低コスト化の両立を図ったことがある。本稿の目的は、摺り合せ型プラットフォームにより品質等と組織間関係の革新による低コスト化を両立できれば、新興国市場でも競争力を保持できることを示すことにある。
著者
岡田 仁孝
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.15-29, 2013-09

The base of the economic pyramid(BOP)に関して討論が盛んに行われている。以前は、リスクやコストが高く、利益が得にくい発展途上国での貧困層を対象としたビジネスは、ほとんどの多国籍企業にとり興味の対象外であった。では、なぜBOPビジネスが重要になってきたのか。持続可能性の概念が個人や組織に大きく影響を与え、それに一番脅威となる貧困と貧富の差の問題を解決することが、不可欠となってきたからである。その解決策として、富の再分配ではなく、市場原理を基にした価値創造による方法が模索され、開発と企業活動が融合する領域であるBOPビジネスが重要視されるようになってきた。また、持続可能な発展を実現するには、包括的な考え方が必要になり、市民社会は、企業を社会に依存する組織として認識し、社会における合法性と正当性、人権の擁護、そして、公平性.透明性.説明責任等を伴うガヴァナンスの実施を強く要求した。結果、企業市民として、また、これらの要求に沿って行動している証として、企業のBOPビジネスが重要になってきたのである。持続可能性実現への動きの中では、数々の新しい制度が創られ、組織変革を起こした。そして、これらの新しい動きと連携することにより、企業はリスクと取引コストを下げることができるようになり、以前はビジネスとして成立しえなかった領域においてさえも、ビジネス機会が増え、BOPビジネスが可能になってきた。当然、このような変革から、必要とされるビジネスモデルも変わってきた。貧困層が持つ分散知識への理解がBOPビジネスの発掘を助け、そして、彼らの合理的行動を理解することが、彼らをビジネス活動に参画させる方法を見出すのに役に立っている。当然、これらのノウハウは開発関係の諸組織に集積しており、彼らとの協働というクロス・バウンダリー・コラボレーションが重要になり、その手法は、リスクをヘッジさせ、取引コストを下げ得ることから、非常に効果的なビジネスモデルと理解されるようになってきた。このことは、全く新しい考え方、ノウハウ、経験がBOPビジネスに必要になって来たことを意味し、特に、分散知識に基づいた価値観の多様性、分散知識を動員する能力、そして、現地合理性への理解が不可欠になってきた。その結果、企業がこのような動きに対応できる価値観や組織の適応能力を持っているかどうかまで試されるようになってきた。