- 著者
-
岡田 功
- 出版者
- The Japan Association of Economic Geography
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, no.1, pp.73-89, 2020-03-30 (Released:2021-03-30)
- 参考文献数
- 26
近年,オリンピックの開催費用は増大する一方である.華々しい2週間余の祭典が幕を閉じると,今度は五輪施設の維持・運営費が開催都市にどこまでも付いて回る.とりわけ頭が痛いのは収容人数が通常7万人を超す夏季五輪スタジアムである.巨大な観客席を埋めるイベントの需要が限られるうえに,維持管理・修繕費が莫大な額にのぼるからである.しかし近年,「ホワイト・エレファント(無用の長物) 」として批判を浴びがちな五輪スタジアムに再投資することで地域活性化の呼び水にしようとする動きが一部でみられる.1976年夏季大会と2000年夏季大会の開催地モントリオールとシドニーである.モントリオールの五輪スタジアムの屋根を支える展望塔には2018年,大手金融機関の本部が入居し,1,000人以上が働くオフィスに様変わりした.シドニーでは2016年7月,ニュー・サウス・ウェールズ州政府が五輪スタジアムを所有・運営する民間企業から所有権を買い戻した.近代的なスタジアムに大改修するほか,2本の鉄道新線を建設し,接続させる.両都市が五輪レガシーの再生に踏み切った経緯や狙いを分析すると,ある共通点が浮かび上がった.それは五輪スタジアムが①都心部に近く交通アクセスに優れたオリンピック公園に立地する②所有者が従来から設備投資を怠らなかった③競合スタジアムが事実上存在しない④恒常的な赤字体質か,近い将来じり貧に陥ることが確実視されていた―ことである.