著者
中澤 高志
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.285-305, 2016-12-30 (Released:2017-12-30)
参考文献数
69
被引用文献数
4

「地方創生」論の特徴は,人口減少による「地方消滅」と東京の「極点社会」化という終局を回避する手段として,大都市圏から地方圏への人口の再配置による出生率向上を重視している点にある.とりわけ東京は,世界都市にふさわしい競争力を保持すべきとされ,その足かせになりかねない高齢者もまた,地方圏への移住が推奨される.そこには,東京を国民経済推進のエンジンとして,地方圏を子育てと高齢者医療・介護というケアの空間として,それぞれ純化させる論理が潜んでいる.「地方創生」論において,地域は国民経済や人口を量的に維持・拡大するための装置とみなされ,地域間格差の是正という社会的公正に対する意識は欠落している.     「地方創生」論の批判的検討を踏まえ,本稿では,ライフコースを通じた自己実現の過程における制約と機会という観点から地域間格差をとらえ直す.自己実現のための諸機会の多くは土地固着的であるため,いかなる地域政策をもってしても完全な地域間の均衡化は達成できない.したがって,住み続ける自由に加えて,移動の自由をも含めた地理的制約からの自由の拡大を目指すべきである.本稿では,カール・ポランニーの議論を敷衍し,資本主義社会に生きる者にとって不可避な「権力と市場」の空間的形態として,地域構造を認識する.そして,社会的自由の拡大という基準に照らしてより望ましい地域構造を構想することが,地域政策論の目的となり,理念となると論じる.
著者
大城 直樹
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.49-59, 2020-03-30 (Released:2021-03-30)
参考文献数
23

本稿では,東京で行われた(る) 二つのオリンピック大会に関連した都市(再) 開発の様相の異同について簡単な検討を行った.1964年と2020年の間には大きな差異が存在する.一言で言うならば,後者におけるイベント自体の商業化の進展と公的空間の大規模な再開発にともなう収益装置化,つまり公的空間の価値の使用価値から交換価値への転換に他ならない.都心部のみならず沿岸部の埋め立て地でも同様のことは行われている.他方,1964大会の特徴は,東京都心部の諸インフラの大々的な改造・建造であるが,事業は1960年代の高度経済成長期の状況ににわかに対応させたものであったため,今日では,諸々の建造環境が逆に都市成長の桎梏となり果てている.また,都市表象ないしは景観表象についても,衛生観念と結びついて,美化キャンペーンのもとで,ゴミやポスター,汚水・下水の不可視化が徹底された結果,人々の意識を大きく変容させることとなった.
著者
中澤 高志
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.312-337, 2019-12-30 (Released:2020-12-30)
参考文献数
90
被引用文献数
1

本稿は,再生産の経済地理学に関する試論である.人口地理学と労働の地理学の相互交流を契機として再生産に対する地理学者の関心が高まってきたが,世代の再生産が長期的に保証されていることを暗黙の前提としてきた.資本・国家は,再生産の過程に介入しこれを統制しようとしてきたが,「資本主義の黄金時代」の終焉によってそれは困難となり,再生産は不調を来した.政府は,子育ての障害の除去に努め,再生産の期待を国民に負託するが,ボイコットに直面している.少子化対策は,経済支援や子育て環境の整備のように,経済主義あるいは環境決定論の色彩を帯びる.いずれも一定の条件が整えば場所とは無関係に世代の再生産が達成されると想定するが,現実には出生率の規定要因は無数にあり,その関係性自体が場所によって異なるため,画一的な少子化対策の効果は限定的である.一国の領域内での再生産が困難になると,再生産の空間スケールはグローバル化する.日本は,外国人労働者をスポット買いできる労働力と位置づけてきた.現行の処遇を続けても,外国人労働者にとって日本が選ばれる移動先であり続けられる保証はない.再生産の困難性は,再生産が人間の主体的な意思決定に委ねられていることに起因する.このことは,私的利益の追求が全体にとって最適の結果を必ずしももたらさないという個人と社会のアポリアを示すが,結婚や出産に関する自己決定権を捨てて,社会に殉じる必要はないし,そうすべきでもない.
著者
佐藤 正志 瀬川 直樹
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1-23, 2018-03-30 (Released:2019-03-30)
参考文献数
52

本稿は製紙業を対象に全国的な立地変動とその要因の解明を通じ,国の政策的調整が後退した後の成熟産業における企業を中心とした再編メカニズムの動態を論じた.日本の製紙業は1990年代以降,国内需要低迷による成熟産業化と企業合併による寡占化が進んでいるが,国内工場の立地と生産の推移をみると,2000年代以降,印刷・情報用紙を中心とした紙では,合併前の各企業主力工場への集約化と生産規模拡大と共に,小規模工場や大都市圏中心部の工場を中心に閉鎖や生産縮小が進められていた.一方で,衛生用紙や雑種紙,板紙では消費地に近く輸送コストの低い大都市圏近郊の工場を中心としながら,地方圏でも中規模工場での生産を継続している.     製紙業の立地変動や生産量増減の要因について,抄紙機への設備投資と用水に着目した結果,合併後生産量が増加している基幹工場の多くは,元々コストが安価な河川表流水・伏流水を大量に使用できた工場であり,新鋭の大型抄紙機の導入により生産効率の向上を図っていた.対して,閉鎖や縮小の対象になった工場は,工業用水道使用割合が高く,かつ古く生産能力の劣る抄紙機を使用していた.特に印刷・情報用紙における生産拠点の再編では,企業間競争の激化により,用水を中心とした生産コスト低減と効率的な生産を目指しつつ,企業合併による寡占化を通じて地域別に配置された基幹工場に集約が進められることが示された.
著者
小泉 諒
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.90-111, 2020-03-30 (Released:2021-03-30)
参考文献数
38

本稿は,2020年オリンピック東京大会の会場計画において「ベイゾーン」と位置付けられている東京臨海部について,その開発の経緯を追い,時々に作用した時代の効果を整理しながら考察した.東京臨海部の埋立地は,江戸期以降,河川の浚渫や港の整備,ごみ処分などにより造成され,その後,東京都によるテレポート構想を元にした臨海副都心計画や,国策による都市再開発構想の舞台となった.1980年代に進められたそれらの構想は,バブル経済やその崩壊,都政の変化などから,その内容を変えた.1990年代後半以降には都市再生が国策と位置付けられ,都市改造がIOCの「レガシー」戦略とも合致するようになったことで,東京都のオリンピック招致は進められた.このように東京臨海部は,周辺と摩擦を起こしうるものも含めて様々な名目が動員され開発が進められる,東京の拡大に必要な場所であったと言える.
著者
阿部 康久 林 旭佳 高瀬 雅暁
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.117-132, 2019-03-30 (Released:2020-03-30)
参考文献数
33
被引用文献数
2

本稿では,広汽トヨタ社を事例として日系自動車メーカーの中国市場におけるディーラーの分布と修理・メンテナンス用部品の管理体制について検討していく.調査手法として,広汽トヨタ社のあるディーラーを通じて,ディーラーの全国的な分布状況と部品物流倉庫の立地状況,修理・メンテナンス用部品のストックの状況や配送システム等についての情報を入手した.調査結果として,同社は全国に437店舗のディーラーを持つが,人口比を考慮すると,店舗の分布が沿海部に偏っており,近年,自動車の需要が高まっている内陸部への進出が遅れている.その一方で,地域別のGDP総額と店舗数の間には高い相関関係があり,同社では比較的経済規模が小さい内陸部の消費者向けに低価格な車種を販売するよりは,経済規模が大きい沿海部の大都市で高価格車を販売することを重視しているといえる.また同社において店舗数の拡大が進まない要因として,同社が重視する十分なアフターサービスを行えるディーラーを確保することが難しい点も挙げられる.同社では,ディーラーには修理・メンテナンス用部品のうち,最低でも1,500点以上をストックさせる方針を採っている.また,メンテナンス用部品を交換する際には,顧客に十分な説明と同意を得ることで顧客満足度を高めることを要請している.そのため,同社のディーラーには長期的な視点で事業を続けられる資金力が必要になるが,このようなディーラーは限られていることや,メーカーとディーラーの間での利益配分も難しい点が指摘できる.
著者
前田 陽次郎
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.69-83, 2021-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1

長崎県対馬市は韓国との国境地帯に位置する.近年では1999年に対馬釡山間に定期高速船航路が開設されたことを契機に,日韓両国間の人の行き来が増えた.特に韓国からの観光客が多く,2018年には韓国人入国者が年間40万人を越えた.観光客は1999年から2010年までは徐々に増加したものの,年間5~6万人程度で落ち着いていた.その後2011年の原発事故による韓国人の日本旅行客減少を受け,博多釡山間を運航していた会社が,距離が近く運賃が安い対馬に博多から航路を振り替えたことを契機に対馬への入国者が一気に増え,観光関連事業への投資が活発になった.ところが日本政府による韓国への輸出規制厳格化を受け韓国内で起こったボイコットジャパン運動の影響で2019年7月から入国者が激減した.さらに2020年3月にはCOVID-19の感染拡大を受け,韓国から対馬への入国が禁止されたため,入国者数は0になった.対馬の観光業は大きな打撃を受けたが,他産業から観光関連産業への就業者移行は進んでおらず,地元の住民への影響はそれほど大きくなかった.急激な観光客の増大は産業構造の大きな変化は起こさず,観光業を産業の中心に据えたいのであれば,もっと長期的な施策が必要になる.
著者
藤塚 吉浩
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.320-334, 2017-12-30 (Released:2018-12-30)
参考文献数
45
被引用文献数
1

本稿では,ロンドンとニューヨークと東京の産業別就業者の動向について比較検討した.金融保険業と不動産業は,ロンドン,ニューヨークに比べて東京はやや低いが,専門技術サービスはロンドンとニューヨークに比べて東京の比率は半分以下であった.東京の外資系企業は,港区に最も多かった.職業別外国人就業者数についてみると,専門技術職は中心部や西部にその割合が高く,サービス職は北東部や南部に多く,生産工程は,足立区や大田区,江戸川区に多いことから,外国人就労者の居住地は,職業別に分極化していることが明らかになった.     グローバリゼーションとジェントリフィケーションについては,中央区湊と港区白金を研究対象地区とした.中央区湊では,地価高騰期に立ち退きさせられた区画が1990年代半ばに低未利用地となり,その後高層の共同住宅が建設された.超高層住宅では,月額50万円を超える家賃の住戸があり,従前に居住していた世帯の手の届くものではなく,居住者には外国人の居住世帯もみられた.港区白金では,多くの中小工場が立ち退きとなり,民間共同住宅が建てられた.白金1 丁目では,再開発により超高層オフィスビルと超高層住宅が建てられ,オフィスビルには外資系企業が入居し,周辺には多くの外国人居住者が増えた.研究対象地域におけるジェントリフィケーションには,グローバリゼーションの影響のあることが判明した.
著者
中村 努
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.210-228, 2016-09-30 (Released:2017-09-30)
参考文献数
36
被引用文献数
1

本稿では,台湾における医療供給体制の空間特性と,公平性の確保に向けた政府の役割を明らかにした.     台湾においては,日本と同様,単一の医療保険制度が採用され,私的医療機関を中心とした医療供給が実現している.台湾では全住民の医療データが電子化されるとともに,それぞれの医療機能に基づいて,センター病院を中心とした階層的な医療供給体制が構築されている.さらに,山間部や島嶼部など僻地においては,遠隔診断の手段としてクラウド医療情報システムが試験的に運用されるなど,医療機関への物理的なアクセシビリティの改善が図られている.     こうした制度設計は,日本統治時代における日本の医療制度を軸とした制度的遺産によるところが大きい.一方,日本の医療供給体制との相違点として,戦後の権威主義的な政府の経済成長を優先した施策が,私的医療機関の都市部への集中と,山間部および島嶼部の医療供給不足という地域格差を生じさせた点が指摘できる.こうして,それぞれの時代における政府の行動に規定されるかたちで,都市部と山間部および島嶼部とで異なる供給空間が重層的に形成されるに至った.現在の医療供給体制の空間的態様は,そうした政府による政策対応と,設立主体ごとの医療機関の立地行動とが繰り返された地理的帰結ととらえられる.
著者
川瀬 正樹
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.291-302, 2018-12-30 (Released:2019-12-30)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本報告では,1985年以降の広島,特に近年の広島の動向について,人口移動,通勤・通学,商圏調査等の人口流動データの分析に加え,交通網の整備,近年の各施設の開発状況について報告し,広域中心都市・広島の変容について考察した.    1985年以降,広島市の人口は,特に丘陵地を切り崩して住宅開発が行われてきた郊外の区で増加し,周辺県からの転入と大都市圏への転出が大幅に減少した.また,商業面では中心市街地の中心性が2004年以降著しく低下した.代わって郊外のショッピングセンターに客足を奪われ,もはや中心-郊外の対立から郊外同士の競合に変化してきている.広島駅前の再開発エリアでも,オフィスビルではなくタワーマンションが増えており,現段階で業務機能が集積したと言えない.     あらゆる観点からみて郊外化が進んできた一方で,広域中心都市としての広島の地位は低下しつつある.支店の統廃合が進んだことなどにより東京一極集中が進む一方で,近年発展を遂げる福岡よりも東京・大阪寄りに位置する広島の「支店経済都市」としての性格は弱まっていると言わざるを得ない.一方で,広島では最近,ホテル建設が増えており,広島の都市としての性格が変容しつつある.今後,広島が広域中心都市としての地位を維持し続けられるかどうかの岐路に立たされていると言える.
著者
成瀬 厚
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.3-28, 2020-03-30 (Released:2021-03-30)
参考文献数
135
被引用文献数
5

本稿は,英語圏におけるオリンピック研究を整理したものである.本稿で取り上げたオリンピック研究の多くは,上位分野であるメガ・イベント研究に位置づけることができ,学際的な観光研究から発したこの分野には都市社会学や地理学の貢献が大きかった.オリンピックという複雑で大規模なイベントの性質上,本稿では多様な研究分野を扱っているが,オリンピック研究における都市研究を含む広義の地理学的な主題を探求するのが本稿の目的である.     IIIでは初期のイベント研究における社会的インパクトの分類―経済,観光,物理的,社会・文化的,心理的,政治的―に従って,多様な分野におけるオリンピック研究を概観した.IVでは地理学的主題をもった研究に焦点を合わせ,オリンピック都市,グローバル都市間競争,都市(再)開発,レガシー・環境・持続可能性,市民権と住民参加という分類で整理した.     地理学者によるオリンピック研究は2000年前後から,過去の開催都市を概観する形で,それ以降盛り上がりをみせる地理的主題を持つオリンピック研究を牽引したといえる.当初から国際的なイベントであった近代オリンピック競技大会は,今日において大会招致がグローバル都市間競争の一端となり,大会関連開発は新自由主義的な都市政策の下で官民連携によって行われている.さまざまな問題を抱え,オリンピックはどこに向かうのだろうか.
著者
作野 広和
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.10-28, 2019-03-30 (Released:2020-03-30)
参考文献数
42
被引用文献数
5

本稿は,2016年以降に語られはじめた関係人口の概念を改めて整理し,その意義について新たな見解を提示した.従来,関係人口は「交流人口と定住人口の間に位置する第3の人口」と捉えられていた.本稿で検討した結果,関係人口のそうした性格は否定しないものの,3つの人口概念を段階性でのみ説明することは誤解を招きかねないとの結論に至った.すなわち,関係人口を交流人口と定住人口との間のステップとしてのみ捉えるのではなく,新しい時代における都市地域と農山漁村地域との関わり方の一つとして捉えるべきである.また,関係人口が有する多様性についても明らかにした.本稿では,都市農村関係から関係人口を4つに類型化し,それぞれの類型が有する性格を整理した.従来の関係人口に関する言説では,地域支援志向型と地域貢献志向型の関係人口に多くの注目が集まっていた.一方で,地域を維持していく上では「地域を守る」行動を継続的に行える人材が必要である.本稿では,そのような人材を非居住地域維持型の関係人口であると整理した.そのような意味では,社会学で整理されている修正拡大家族の概念も,関係人口の一部として積極的に評価すべきであると考える.
著者
小栁 真二
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.303-318, 2018-12-30 (Released:2019-12-30)
参考文献数
19

札幌市・仙台市・広島市・福岡市の4市は,三大都市圏に次ぐ居住・経済・政治の機能集積を有し,地方ブロックの中心的地位にある地方中枢都市として,しばしば一括して扱われてきた.しかしながら近年の社会・経済指標によれば,福岡市は他の3市と比べて顕著な集積を示し,この群から抜け出しつつある.     本稿ではまず,福岡市の成長が顕著な人口について,その主な増加要因である国内の人口移動に着目して分析した.福岡市における就職期の転入超過は4市のなかで最も大きく,就職期に大きい東京圏への転出超過が縮小傾向にある.このような人口移動を支える要因として,所得機会の存在に加え,居住地としての魅力の高さが重要と考えられる.     支店経済と並び福岡市の経済的中心性を特徴づけてきた商業機能については,九州新幹線博多~鹿児島中央間全線開業を契機に大型商業施設の出店が続いているにもかかわらず,その広域中心性は低下している可能性がある.代わりに,近年顕著な伸びを示しているのがMICEや訪日外国人の受け入れなど集客機能であり,市経済の新たな牽引役となることが期待されている.     さらに,支店経済からの脱却を目標に,福岡市ではスタートアップ企業の支援に力を入れている.ただし,取り組みは端緒についたばかりであり,将来の市経済の牽引役となる企業が現れるか,また規模拡大時にも福岡市に立地し続けるかは,現時点では未知数である.
著者
遠藤 貴美子
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.151-176, 2019-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
31
被引用文献数
2

本研究は,東京を中心に広域な生産システムを構築している丸編ニット製衣服産業を対象に,情報伝達および関係性にもとづくコミュニケーションに着目して,企業間・企業内事業所間の連関構造を解明するとともに,東京における集積がどのような機能を担っているのかについて検討した.その際,生産システム上でオーガナイザー役を担っている東京のニットメーカーを分析の主眼とした.     ニットメーカーは都区内における受注先や,既存の工業集積内における資材購買先・各種加工業者群との間で,その空間的近接性を活かして迅速で円滑な暗黙知の伝達・共有や意思決定を活発に行っており,ファッション化の進展やデザインの高度化,小量生産化,短サイクル化のもとで集積の意義が強められている側面が明らかとなった.地方圏や海外といった遠隔地との間では遠隔通信手段によるコミュニケーションが主であるが,物理的距離,場合によっては心理的距離を隔てての意思疎通を可能にしているのは,ニットメーカーと地方圏・海外の生産拠点との間の長期取引および過去の対面接触の蓄積によって構築された,相互理解でもあることが明らかとなった.こうしたニットメーカーの調整機能は取引費用の削減に貢献しており,生産システムの地理的広域化がなされた現在,これまで以上にその機能が重要になっているといえる.
著者
山川 充夫
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.130-140, 2016-06-30 (Released:2017-09-07)
参考文献数
26
被引用文献数
3

福島県商業まちづくり条例は,売場面積6,000 m2 以上をもつ大規模小売店舗を「特定」し,その新設立地に関しては郊外での抑制と中心市街地への誘導を行うという土地利用の視点からコンパクトなまちづくりを推進することを目的として,2006年に制定された.この条例は翌年の改正まちづくり三法の制定に大きな影響を与えただけでなく,地方の道県に対して同種の条例あるいはガイドラインの制定を促進した.そして福島県条例は,実際に郊外における特定大型店の新規立地を抑制し,消費者買物行動が郊外から中心商業地に転換する効果を発揮してきている.     2011年3月,東日本大震災と原子力災害が岩手県・宮城県・福島県の太平洋沿岸地域を襲った.被災地では被災者や避難者の日常生活を支えることを大義とし,商業拠点形成が居住地再編の要として位置付けられ,国の圧倒的な支援を受けて,復興が進められている.しかしそこではコンパクトなまちづくりが謳われているが,その実態は大型店を中核とする市街地整備が進められ,従前の商店街とは異なった商業集積が再生されつつある.特にいわき市小名浜地区では津波被害を契機とし,港湾地区の土地利用の変更をしてまで,巨大なショッピングセンターが誘致されることになっており,ショック・ドクトリンのもとで県条例は空洞化の危機に直面している.
著者
大貝 健二 水野谷 武志 浅妻 裕
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.29-44, 2019-03-30 (Released:2020-03-30)
参考文献数
7

北海学園大学経済学部では,2017年度から学生フィールドワーク科目として,「地域インターンシップ」を導入している.この科目は,比較的長期にわたって地域に入り込み,地域で生活する人たちとのコミュニケーションを通じて,地域の課題や可能性を見つけ出し,課題解決に向けて実践することを目的としている.このような科目を導入するに至った経緯は,地域経済の疲弊や縮小に対して,大学として特に人材育成の観点から地域経済社会に貢献することを企図したことがある.また,本科目の特徴としては,外部コーディネーターにも関わってもらい,全体の利害調整や情報発信のほか,学生へのアドバイスも行ってもらっている.     2018年度で,パイロット期間を含め3年が経過するが,受入団体との信頼関係を築きながら,当事者が頭を悩ませつつ手探りで実施していることが実情である.しかし,3年間継続する中で,当初の「地域の人たちのお手伝い」から,学生提案型のプロジェクト(『天売島生活史』の作成,空店舗活用による交流空間の創出)へと,参加学生の交替を伴いながら,現地で取り組む内容を発展的に変化させてきている.そうした変化とともに,学生と地域の人たちとの関係や,地域の人たちの意識の面においても徐々に変化が見られ始めている.
著者
山川 充夫
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.129-137, 2018-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
47
被引用文献数
1

本稿では東日本大震災,とりわけ東京電力福島第一原子力発電所事故の被害が今なお残る福島県の復興過程における諸問題を振り返ることで,熊本震災復興への示唆を考える.熊本震災の復興のあり方をめぐって,東日本大震災から学ぶべき教訓は「ふるさとの価値」再生を保障する視点を震災復興政策にきちんと位置付けなければ,少子高齢社会においては被災者の生活再建や被災地の復興が費用対効果の低いものにとどまらざるを得ないということにある.東日本大震災後に実施された創造的復興政策は,財政投資が被災地域へのインフラ整備に過度に偏ったものとなったため,被災者の生活再建への保障が十分ではなかった.そのような政策は,熊本震災復興でもかえって人口の域外流出を高めてしまう恐れを含んでいる.
著者
岡田 功
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.73-89, 2020-03-30 (Released:2021-03-30)
参考文献数
26

近年,オリンピックの開催費用は増大する一方である.華々しい2週間余の祭典が幕を閉じると,今度は五輪施設の維持・運営費が開催都市にどこまでも付いて回る.とりわけ頭が痛いのは収容人数が通常7万人を超す夏季五輪スタジアムである.巨大な観客席を埋めるイベントの需要が限られるうえに,維持管理・修繕費が莫大な額にのぼるからである.しかし近年,「ホワイト・エレファント(無用の長物) 」として批判を浴びがちな五輪スタジアムに再投資することで地域活性化の呼び水にしようとする動きが一部でみられる.1976年夏季大会と2000年夏季大会の開催地モントリオールとシドニーである.モントリオールの五輪スタジアムの屋根を支える展望塔には2018年,大手金融機関の本部が入居し,1,000人以上が働くオフィスに様変わりした.シドニーでは2016年7月,ニュー・サウス・ウェールズ州政府が五輪スタジアムを所有・運営する民間企業から所有権を買い戻した.近代的なスタジアムに大改修するほか,2本の鉄道新線を建設し,接続させる.両都市が五輪レガシーの再生に踏み切った経緯や狙いを分析すると,ある共通点が浮かび上がった.それは五輪スタジアムが①都心部に近く交通アクセスに優れたオリンピック公園に立地する②所有者が従来から設備投資を怠らなかった③競合スタジアムが事実上存在しない④恒常的な赤字体質か,近い将来じり貧に陥ることが確実視されていた―ことである.
著者
亀山 嘉大 侯 鵬娜
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.191-209, 2016-09-30 (Released:2017-09-30)
参考文献数
31
被引用文献数
4

本稿は,中四国・九州地域の地方公共団体( 16県5政令指定都市) の調査をもとに,地方公共団体の情報発信を端緒としたシティプロモーションがインバウンドとどのような関係にあるのかを探り,その意義を地域の視点から議論したものである.     観光の情報発信は,シティプロモーションという(地域にとって) 公共財・サービスになるので,市場の失敗による過小供給の抑制のために,地方公共団体が役割を担うことは合理的である.また,観光の情報発信は,旅行者の購買プロセスと関連付けて理解できる.     これらをもとに,地方公共団体の情報発信を端緒としたシティプロモーションをPhase a) 発地における交流や経験を介した着地側の情報発信,Phase b) インターネット媒体を介した着地側の情報発信,Phase c) 着地における交流や経験を介した着地側の情報発信,Phase d) 従来型の国際交流事業に基づく着地側の情報発信の4局面に分類した上で,SWOT分析によって調査結果を整理した.地方公共団体の施策は,Phase a) やPhase d) で違いがあり,SWOT分析の内部環境の強みであるPhase a) で海外事務所を展開したり,職員を海外の地方政府へ派遣したりし,さらに,SWOT分析の外部環境の機会であるPhase d) で20~30年に及ぶ国際交流を展開している.地方公共団体の情報発信を端緒としたシティプロモーションは,旅行先の魅力を高め,旅行先の言語の障壁や安全安心といった心理的な障壁を低減(軽減) し,サーチコストをともなう旅行者の手間隙の軽減を通じて,輸送費を低減させ,インバウンドの誘致に影響を与えているものと考えられる.
著者
阿部 和俊
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.335-342, 2017-12-30 (Released:2018-12-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1

本論は大企業の本社を指標として日本の主要都市を検討し,とくに大阪について焦点をあてるものである.上場企業を大企業とみなして, 登記上の本社数をみると1950~2015年の間,東京の本社数比率は40~50%を占め,大阪は14~15%である.しかし,2010年と2015年では,東京の比率は43.9%であるのに対して,大阪の比率は2010年では12.6%,2015 年では11.8%にまで低下した.複数本社制に注目し,第2本社の方を実質的な本社と考えると2015年では,東京の本社数比率は全企業の50.7%にまで上昇し,大阪は9.8%にまで低下する.さらに本社数に従業者数でウエイトをかけると大阪の値は1960年では東京の54.4%だったが,2015年では9.1%にまで低下する.