著者
高橋 恒夫 村上 雄 岡田 千里 藤井 則久
出版者
一般社団法人 日本鉄鋼協会
雑誌
鉄と鋼 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.71, no.15, pp.1818-1824, 1985-11-01 (Released:2010-01-18)
参考文献数
15
被引用文献数
4

14世紀,17世紀に作られた日本刀四振を切断し調査する機会に恵まれた.その結果を総括しながら注目された事項を述べると以下のとおりである.1)組成的には炭素以外の元素が極たて少ない高純度炭素鋼である.このことは既に知られていることではあるが,高純度であることが,刃金,芯金,皮金,あるいは棟金それぞれの鍛接性を良くしているのであろう.また,これが耐食性を高たているという報告もある.高純度化はあるいは靱性向上への寄与もあるのかもしれない.現代工業的に生産される鋼とオーダーの違う純度とみなせるもので,現代の工業材料を高純度化することで何か画期的特性が期待できるのではなかろうか.2)非金属介在物の量が極めて多いことに驚かされた.この量は現代の工業用鋼の1~2桁多い量といえよう.このような多量の介在物が存在するにもかかわらず日本刀独特の強靱性を有するということは,すべての介在物を皆無にする必要はなく,ポイントを抑えた生産技術を採用することの重要性を教えられる気がする.3)SHERBYはダマスカス刀,日本刀を範として超高炭素鋼(例えば1.6%C鋼)と極低炭素鋼の複合材を現代工業材料として用いることを提案している,まさに同感である。今回調査した刀のうち,政光,忠廣は明らかに低炭素成分の芯金を高炭素の刃金,皮金で覆つたマクロ的複合材である.一方,忠重の作法はダマスカス刀に似た.高炭素,低炭素材を折り返し折り返し鍛造したものと推定される.高炭素,低炭素組成のそれぞれの特徴を生かした複合材として刀としての特性は似かよつたものであろうが,製法は全くちがつたものと思われる.このような推論も現代の材料技術へ反映させうるひとつのヒントとならないかと考える.