著者
岡田 郁之助
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.325-335, 1944

1. 實驗に用ひた罐詰は枇杷,林檎,和梨,洋梨,桃(アーリー・エルバーター),桃(傳十郎),栗,蜜柑(試料A),蜜柑(試料B)トマトジュース,トマト(ソリツドパツク),オレンジジュース,クリームスタイルコーンの13種類及び林檎ジュース壜詰1種である.<br> 2. 罐詰中のビタミンCは果肉の完全な蜜柑罐詰(試料A)に最も多く,その液汁中には36.96mg%を含み,崩肉蜜柑罐詰(試料B)の2倍以上も含有してゐる.即ち蜜柑罐詰に於ては内容果肉の完全なものの方が含有量が多い.トマト(ソリツドパツク)罐詰は23.75mg%を含み,トマトジュース,栗,オレンジジュース,クリームスタイルコーン罐詰の順に含量は低下してゐるが尚相當の量を含有してゐる.林檎,和梨,桃(アーリーエルバーター),桃(傳十郎)罐詰は極く少量を含有し,その量は3~4mg%である.枇杷罐詰及び林檎ジュース壜詰には含有しない.林檎及び桃(アーリーエルバーター)罐詰は液汁には含有するが,果肉には存在しない.<br> 3. 罐詰中のビタミンCは+0.020~-0.040voltにて酸化波を生じた.<br> 4. 林檎罐詰果肉は-0.162voltにて,又林檎ジュース罐詰液汁は-0.123voltにて多少の酸化波を生じた.これは他のものに比較して約0.1volt以上その酸化壓が異り,ビタミンC以外の物質の存在によるものと思はれるので,少量のアスコルビン酸を添加して見た見處2段の酸化波を生じた.即ち-0.162volt及び-0.123voltに生ずるものはビタミンCの酸化波ではないことが確められた.これによつて見るに林檎中には何等かビタミンCに附隨して而もビタミンCに似た酸化壓を示すものの存在が豫想される.<br> 5. 本研究はビタミンCの還元型のみに就いて行つた結果である.<br> 本研究を行ふに當り常に御懇篤なる御指導を賜つた京都帝國大學教授舘先生に對し深く感謝し,終始實驗に助力されし小池三郎氏に對し謝意を表す.<br> 本研究に用ひたる罐詰は農商省農村工業指導所に於て製造されたものであつて,同所岩崎技師並に農商省食品局技師横山博士の御盡力により提供されたものである.兩氏に對し深謝の意を表す.