著者
岡田 隆志
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.609-619, 2020-09-15 (Released:2020-10-10)
参考文献数
21

目的 都道府県の保健所(以下,県型保健所)における精神保健福祉業務は,住民からの相談等に加え,措置入院にかかる通報対応から退院後支援,地域包括ケアシステム構築に資する活動など,多岐にわたる内容が求められている。一方,職員数は全国的に減少が続いており,必要人員の確保は容易ではなくなっている。国の通知では,業務体制について単に人員確保だけでなく,単一の課等を設けることや多職種のチーム体制を敷くこと,専任職員を配置するなどの工夫を凝らすことを各都道府県に提案しているが,実際に都道府県がどのように職員を配置しているかを把握する全国調査は直近では見当たらない。そこで,本研究では既存資料と新たに実施された調査データを活用して,都道府県ごとの専従職員の配置状況を体系的に分類し,それぞれの精神保健福祉業務の実施状況の傾向を分析することを目的とする。方法 本研究では2つの仮説「2018年度の県型保健所専従職員の配置状況は2002年度と比べて変化している」と「精神保健福祉業務の実施状況は専従職員の配置状況の違いによって差異が生じる」を立て,その検証を試みた。対象データは,2018年における県型保健所精神保健福祉業務職員の配置状況を扱った調査と,2002年の配置状況を扱った調査,それぞれの先行調査データの一部を取り扱った。 分析方法は都道府県名と専従専門職員数の平均値の2変数でコレスポンデンス分析を行い,そのうえで,都道府県ごとの専従職員配置の類似性を表すためにクラスター分析を行った。さらに,平成29(2017)年度地域保健・健康増進事業報告を用いて,類型ごとの精神保健福祉業務状況を比較するためにKruskal-Wallis検定および多重比較を行った。結果 県型保健所の専従職員配置状況は,2018年度の配置数の方が2002年より0.61人分上回っていた。都道府県ごとの配置状況の特徴は,2002年度では2類型(「保健師協働型」,「福祉職協働型」)に分けられ,2018年度ではさらに「保健師専従型」が加わり3類型になると解釈できた。精神保健福祉業務の実施状況の差を類型別に比較したところ,「福祉職協働型」は専従職員一人当たりの相談・訪問の延べ件数,市町村援助件数で他の類型と比較して有意に高かった。結論 県型保健所がより効果的に業務を遂行していくために,保健師と精神保健福祉士など複数の専門職を配置する体制にすることが必要と考えられる。