著者
岡西 奈津子 木藤 伸宏 秋山 實利 山本 雅子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100352, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】妊娠中および産後に腰痛,骨盤帯痛,尿失禁に悩まされる女性は多く、これらは妊娠に伴う姿勢変化が発症要因として報告されている。しかし,妊婦の姿勢について,脊柱平坦化,骨盤前傾または後傾等一定の見解はみられない。我々は昨年の同学会にて,腰仙椎の弯曲と立位時の傾斜が姿勢評価の指標となることが示され、非妊婦群と比較して妊婦群は腰仙椎後傾することが明らかとなった。しかし,姿勢変化と身体症状の関係について明確なエビデンスは存在しない。そこで本研究は,妊婦の姿勢と身体症状の関係について,スパイナルマウスから得られる脊柱弯曲指標と静止画像から得られた姿勢指標を用いて明らかにすることである。【方法】被験者は,医師により研究参加許可の得られた妊娠16 週− 35 週の妊婦20 名とした。切迫早産や内科的疾患等の妊娠継続が困難となり得る合併症,その他明らかな骨関節疾患等の疾患がある者は除外した。姿勢評価では,デジタルカメラで矢状面より撮影した静止画像を,画像解析ソフトImage J 1.42(NIH)を用いて体幹と骨盤のなす角度,体幹と下肢のなす角度を計測した。併せて,スパイナルマウス(R)(Aditus Systems Inc.,Irvine)を用いて,頚椎から仙椎までの脊柱アライメントを計測し,仙骨傾斜角,胸椎前弯角,腰椎後弯角,立位時の傾斜角を算出した。得られたデータからSPSS for Windows 15.0J(SPSS Japan Inc.)を用いて,主成分分析を行った。求めた主成分得点より,妊婦群と非妊婦群の姿勢の特徴を比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】研究に先立ち,研究内容およびリスク,個人情報の保護,研究成果の学会発表,研究参加中断可能であることについて,十分な説明を口頭にて行った。すべての被験者において同意が得られ,同意書に署名を頂いた。また,本研究は広島国際大学倫理委員会の承認を得た。【結果】被験者のプロフィールは年齢31.4 ± 4.3 歳(平均±標準偏差),身長157.4 ± 5.2cm,体重54.9 ± 7.1kg,妊娠週数23.6 ± 6.2週,初産婦13 名,経産婦7 名であった。身体症状では腰痛の経験がある者17 名,骨盤痛10 名,尿失禁9 名であった。主成分分析の結果,固有値が1 以上を示したのは第1 主成分は腰椎後弯-0.88,第2 主成分は仙骨傾斜角0.71,第3 主成分は胸椎後弯0.63 で高い負荷量を示した。また,累積寄与率は84.8%であった。以上の結果より,第1 主成分および第2 主成分は腰仙椎の弯曲の強弱,第3 主成分は胸椎の弯曲の強弱を示していた。脊柱アライメント指標である仙骨傾斜角は,大きな正の値なら骨盤前傾,小さな正の値または負の値であれば骨盤後傾を意味する。腰椎後弯角は,角度が正の値なら後弯,負の値なら前弯を示す。立位時の傾斜角は、角度が負の値の場合は全体の姿勢が後傾を表す。体幹と骨盤のなす角度は、角度が小さいと体幹後傾を表す。これに基づき第1 主成分と第3 主成分の主成分得点より姿勢を分類し,症状の有無での特徴を検討したところ,骨盤痛と尿失禁を有する者は腰仙椎が前弯減少・後傾し,胸椎は後弯する者がそれぞれ7 名ずつ分布していた。腰痛については症状のない被験者が2 名と少なく,特徴が不明だった。【考察】本研究の結果、腰仙椎の弯曲と胸椎の弯曲の強弱が、姿勢評価の指標となることが示され、骨盤痛と腰痛を有する妊婦は腰仙椎後傾と胸椎後弯を示すことが明らかとなった。妊婦は増大する腹部を保持し抗重力姿勢を保つために,体幹の質量中心を後方へ変位させなければならない。そのためには,脊椎と骨盤の形状を変化させる必要があり,腰仙椎後傾と胸椎後弯により対応していることが推測された。それに伴い腹部の安定化機構であるインナーマッスルの機能不全が生じやすく,結果として骨盤痛や尿失禁という腹部の筋機能不全による症状が発生していると推測された。【理学療法学研究としての意義】妊婦の姿勢と身体症状との関連性を明らかにすることで,身体症状の改善やその発症を予防するための理学療法介入方法が明らかとなることにつながる。そのため,本研究の結果はその根本的な指標となりうる。また,本研究を通して日本のウーマンズヘルスケアにおける理学療法士の職域拡大に寄与できるものと考える。