著者
岡谷 慶子 Keiko OKAYA
出版者
静岡産業大学情報学部
雑誌
静岡産業大学情報学部研究紀要
巻号頁・発行日
no.9, pp.187-202, 2007

EUの経済統合においてチョコレートの呼称を使用するに際して、イギリスのチョコレートの品質と大陸のチョコレートの差異をめぐる論争が1973年に始まり世界の注目を浴びた。また昨今ロアルド・ダールの名作『チャーリーとチョコレート工場』が再映画化され(2005)、人気を博している。その人気は作者のチョコレート嗜好だけでなくイギリスの子ども、ひいてはイギリス人のチョコレートへの愛着を物語るものである。イギリスの巨大チョコレート・メーカーはどのように誕生、発展し、イギリス人の味覚を決定づけるに至ったか。なかでもイギリスのクエーカー教徒はチョコレートの普及に大きく貢献した。彼らの禁酒運動への情熱から19世紀初頭には紅茶、コーヒー、ココアを提供するようになり、チョコレート産業に関わることになる。以後200年にわたりイギリスのチョコレート産業を占拠した。フライ、キャドバリー、ラウントリー、テリーはいずれもクエーカーであった。クエーカーの事業主は宗教上の信条から社会改革に積極的に関わり、産業発展期において他の事業主の下よりは従業員の待遇がはるかに良好であったことが特徴である。