著者
岡部 雅子 堀内 かおる
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<b>〈研究の目的〉 <br></b>&nbsp; 小学校家庭科の教科書には、汎用性の高い基本的な手順や知識と、個々の状況により加減が必要な時間等のめやすが記述されている単元が多いが、子どもたちはそれらを区別して読み取ることができず、すべて教科書に書かれたとおりに行えばうまくいくと考えている。<br>&nbsp; そこで本研究では、炊飯の単元において、実習を通して学んだことや、自分の経験から言えることを、自分たちの言葉で表現し、教科書の炊飯のページに吹き出し型に付け加えていく形でまとめて、オリジナルの教科書ガイドを作ることを試みた。そして、子どもたちにどのような炊飯のときにもあてはまる内容と、状況によって加減する必要のある内容とが書かれていることに気づかせたいと考えた。その後グループで、作ったガイドをもとに「どんなごはんが炊きたいのか」という思いを共有し、それらを実現する具体的な方策を考え、次時の実習に臨ませた。そうすることで学習がより子どもたちの生活に生き、考えながら実践し続ける態度につながると考えたからである。こうした活動を通して、教科書を子どもたちの生きた教材として使いこなす方策を探ることを本研究の目的とする。<br><br><b>〈方法〉<br></b>&nbsp; 授業実践は国立大学法人附属小学校5年生3学級において平成28年2月に行った。そのうちA組(児童数32名)での実践を報告する。単元名は「いつものごはんを見直そう」で、授業数は全10時間、授業の流れは次のようである。<br> ・「いつものごはんとは」について考え、話し合い、学習課題を確認する。(1時間)<br> ・ビーカーと文化鍋で炊飯をする。(各2時間)<br> ・実習したことなどをもとに、グループでオリジナル教科書ガイドを作る。(2時間)<br> ・オリジナル教科書ガイドを発表しあい、次時のおにぎり作りに向けて自分たちの作戦を立てる。(1時間)<br> ・作ったガイドを生かして炊飯をし、おにぎりを作る。(2時間)<br><br><b>〈結果と考察〉</b> <br>&nbsp; 単元の導入では、「いつものごはんとは」について考えさせた。考えを交流する中で、子どもたちは、ごはんの炊きあがりを左右する炊飯の要素がさまざまあること、また、おいしさの基準は人によってちがうこと等に気づいた。その上で単元を通して「どうすれば自分の思い通りのごはんが炊けるのか」を追究することを確認してから、2回の調理実習を行った。<br>&nbsp; 単元最後のおにぎり作りの実習の前に、炊飯の実習を通して学んだことや自分の経験から言えることを、自分たちの言葉で表現し、教科書の炊飯のページ(開隆堂「小学校私たちの家庭科」pp.46-47)に吹き出し型に付け加えていく形でまとめて、グループで一枚のオリジナル教科書ガイドを作った。ガイドの吹き出しには、米や水のきちんとした計量、洗米の仕方、浸水時間の保障といった汎用性の高い知識に関する追加記述のほかに、水の量や火加減の調節など、自分の思いや米による違い等によって加減する必要のある作業があることについての記述が見られた。また、まとめのおにぎり作りの実習時には「どんなごはんが炊きたいか」という思いと具体的な方策を考えて臨んだグループがほとんどであり、これまでの実習に向かう姿勢との違いが見てとれた。<br>&nbsp; このように、教科書をカスタマイズして作ったオリジナル教科書ガイドは、あいまいさや加減の要素を併せ持つ生きたテキストになり、教科書を教材化する有効な方策であるということができた。<br> (なお、本研究は、小玉亮子お茶の水女子大学教授と堀内かおる横浜国立大学教授との共同研究の成果の一部である。)