- 著者
-
岩下 和輝
- 出版者
- 筑波大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-26
卵白はタンパク質含有量が多く、優れたゲル化特性をもつ食品である。実際に、卵白は畜肉加工品や水産練り製品などに添加物として利用され、これらのゲルの物性を向上させている。この卵白ゲルの粘弾性や保水性といった物性はタンパク質凝集体のネットワークに起因する。本研究では、卵白加熱ゲルの物性の起源となる凝集体のネットワーク形成の分子機構を明らかにすることを目的とする。卵白を加熱してできるゲルに関する研究を定量的に進めるため、当該年度は卵白の成分を混合した条件での研究を進めた。具体的には、卵白タンパク質の主成分であるオボアルブミンとオボトランスフェリン、リゾチームの3種を用い、その混合系の熱凝集過程を調べた。まず、オボアルブミンとリゾチームを加熱したときに形成する共凝集が、どのように進むかをサイズ排除クロマトグラフィーや円偏光二色性スペクトル、透過型電子顕微鏡などの方法を組み合わせて調べた。その結果、オボアルブミンは可溶性凝集体ができること、両者を混合してできる凝集体にはいずれのタンパク質も含まれることが明らかになった。詳細を調べると、まず両タンパク質が静電的に会合することで小さな凝集体ができた。この小さな凝集体は電気的に中性であるため、さらなる凝集体の成長には疎水性相互作用が関連することがわかった。このように構築した実験系を用いて、次に、オボトランスフェリンとリゾチームの共凝集を調べた。両者は、殺菌処理に相当する55℃程度の低温加熱で共に凝集してしまうことが以前より報告されていた。その結果、同様に静電的な引力による小さな凝集体の形成と、その後、凝集体同士の会合が階層的に進むことが明らかになった。一定以上の大きさの凝集体になれば不溶化することがわかった。いずれの成果もきわめて定量的な測定に成功しており、凝集体の成長機構モデルを描くことができた。