著者
吉村 政樹 内山 良則 岩井 謙育
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.320-327, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
19

脳器質性病変によって生じた盲視野内幻視症例は, 開眼時に幻視を見ることが多い。われわれは髄膜腫術後に閉眼時にのみ幻視を見た 2 例を経験したので報告する。   症例 1 : 64 歳女性, 5 年前から特定の頭位によって生じる複視を自覚していた。左側頭頭頂部円蓋部髄膜腫を摘出してから, さまざまな有形性幻視が閉眼時にのみ見えるようになった。症状は術後 3 日間のみで消失した。複視は術後消失した。術後 MRI で脳損傷を認めず, 術 1 ヵ月後の 99mTc-ECD SPECT では腫瘍摘出部に血流低下のみ認めた。症例 2 : 66 歳女性, 無症候性の右頭頂部傍矢状洞部髄膜腫に対する摘出術が行われ, 術後から辺縁部分が点滅し内部が緑色のL 字のような形状の物体が閉眼時に無数に見えるようになり, 徐々に黒く, 丸くなって術 4 日目に消失した。術後 MRI で脳損傷なく, 術後 9 日目の 123I-IMP SPECT では両側楔部に血流増加を認めた。2 症例ともに意識清明で視野欠損はなく, せん妄や痙攣発作も認めず, 神経心理学的所見に異常を認めなかった。   幻視の発生機序に関して, 文献上脳血流変化が関与していることが示唆されている。腫瘍摘出後には時にぜいたく灌流が生じるため, これがいずれかの視覚関連領域に生じた場合に幻視が出現する可能性がある。盲視野内幻視と異なり, 閉眼時に幻視として現れる機序としては, 閉眼による外的刺激入力の遮断が関与している可能性がある。