著者
増田 亮一 早川 昭 河野 澄夫 岩元 睦夫
出版者
農林省食品総合研究所
雑誌
食品総合研究所研究報告 (ISSN:03019780)
巻号頁・発行日
no.52, pp.p36-46, 1988-03
被引用文献数
2

温州ミカンは選果工程中に落下衝撃,輸送中に振動衝撃が加わることがある。これらの物理的損傷が温州ミカン果肉の有機酸代謝に及ぼす影響について検討した。カルボン酸分析計により有機酸含量を求め,また,この値を主成分分析法で解析し,次の結果を得た。1. 落下衝撃によってクエン酸,リンゴ酸とも対照区に比べ含量の減少割合が大きくなるが,落下回数に比例した減少はみられない。一方,振動衝撃の影響は,クエン酸,リンゴ酸とも一定の傾向はみられず,保存7日後より3日後の変化の大きい場合があった。2. 少量の有機酸のうち,α-ケトグルタル酸,ピログルタミン酸,コハク酸,ギ酸に落下処理による含量の増加がみられた。振動処理ではピログルタミン酸,ギ酸で含量の増加が認められ,1.5Gでコハク酸,イソクエン酸がかなり増加した。他の有機酸はこれらの処理では明確な傾向は示さなかった。3. 落下処理を加えると,α-ケトグルタル酸,ピログルタミン酸含量の増加に加え,遊離アミノ酸含量の増加がみられた。このことから,衝撃によってTCAサイクルの代謝に変化が起き,通常の呼吸によるクエン酸の消耗とは異なった経路が働き出した可能性も考えられた。4. 11種の有機酸の分析値を主成分分析したところ,第3主成分までで68%の情報を集約できた。第1主成分は,有機酸総量を表す。第2主成分は,少量の有機酸含量の変化を,第3主成分は,コハク酸,ギ酸,α-ケトグルタル酸含量の変化を表している。5. 第1主成分と第3主成分による散布図上,収穫直後のミカン果実の落下処理7日後は,同3日後,対照区および振動処理区と区別できた。6. 温州ミカン果肉の有機酸含量に及ぼす影響は振動処理よりも,落下処理の方が大きく保存に伴いより増大した。