著者
馬場 雅行 山口 豊 岩崎 勇
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.293-303, 1984-10-01

受動喫煙と肺癌の因果関係を検討する目的でB_6C_3F_1系マウスを用い,微量タバコ煙長期暴露による気道上皮の変化を観察した。暴露したタバコ煙のCO濃度は80ppm〜30ppmで,人間の実際の受動喫煙環境に相当する濃度に設定した。実験1:6ケ月間の微量タバコ煙暴露の結果,末梢気管支上皮細胞の肥大,増生像がみとめられ,呼吸細気管支では上皮細胞の肺胞側への増生,侵入像がみとめられた。回復実験の結果,これらの所見は可逆性変化と考えられた。実験2:18ケ月間の微量タバコ煙長期暴露と,MNU投与を併用する実験を行なった。MNUは0.2mg/マウスを週1回,計26回腹腔内に投与した。投与終了後1週間で病理組織学的検索を行なったが,MNUの単独投与群では末梢気管支上皮細胞の増生が著明で,腺腫様増殖像も認められた。微量タバコ煙暴露を続けながらMNUを同時に投与した群では,より強い末梢気管支上皮細胞の増生所見がみとめられ,さらに1例(6%)に腺癌の発生がみられた。またタバコ煙暴露を中止したのちMNUを投与した群では,末梢気管支上皮細胞の変化がMNUの単独投与群と同程度であり,肺癌の発生も認められなかった。微量タバコ煙暴露は,同時に行なうことでMNU投与によるマウス肺癌の発生を増強したと考えられ,助癌原作用(cocarcinogenic action)をもつ可能性が示唆された。また,本実験のマウス肺癌の発生母地は末梢気管支上皮と考えられた。