著者
岩崎 泰頴 Yasuhide Iwasaki
出版者
熊本大学
雑誌
熊本地学会誌 (ISSN:03891631)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.2-9, 1976-07-15
著者
岩崎 泰頴
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.77, pp.205-"228-1", 1970-04-10

1966年初頭にルソン島Tayabas地区の地質構造調査を行った木村敏雄・徳山明両氏は, 保存は良くないが種々検討する価値があると思われる貝化石標本を, 2ケ所から採集し持ち帰った。産出層は下部Gumaca層の上部で中新統の由であった。さて標本類は二枚貝20種, 巻貝16種が識別され, 不確定の11種を除いてすべて既知の化石種・現生種に同定されている。特徴的な種として, Vicarya callosa, Anadara multiformis, Joannisiella cumingi, Paphia exarataなどを含み, 且ってMARTIN, SMITH等によって指摘されたフィリッピン及びインドネシア方面に広く分布する中新統下部の夾炭層に伴う浅海棲貝化石群に属すると見做し得る。一方の産出地Pitogo付近の2層から得られた標本類については, 不充分な材料ではあるが露頭における産出状態から自生の種群構成を復元することができる。この結果, 現地生に近いDosinia-Anadara群集と運搬されたと思われるBatillaria群集の両要素の混合したものと推定される。更に, この仮称"Pitogo fauna"は日本の黒瀬谷層などにみられるVicaryaを含む貝化石群と古生態的にも極めてよく類似している。両者を種群構成の上から比較すると, 両地の緯度の違いを反映して個々の群集の構成種の入れ替りは, 門ノ沢型における奥尻島と種子ケ島両地産の差よりも大きいが, まったく同一の生物地理区に属するとみて矛盾はない。従っていわゆる"門ノ沢型動物群"と比較できる, はるか南方延長上に存在する貝化石群として古生物地理の観点から見落せない。少くとも中新統下部の日本の貝化石群の古生物地理学的吟味は, 東南アジア地域をも対象にする必要があろう。本報告では層序はKIMURA et al. (1968)に基いた。また貝化石群としてみた場合は, 終始日本のそれと比較するという立場で取扱っている。