著者
岩根 泰蔵
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

国内河川および下水における医薬品物質の動態把握のため、これまで都内を対象に調査を進めてきた。その結果、下水処理場からの放流水が主要な負荷源であると推測されたため、本年度は多摩川流域の下水処理場を対象としてその汚染要因を究明すべく下水幹線試料も含めた詳細調査を実施した。試料は、東京都青梅市および瑞穂町からの下水幹線試料(13地点)と下水採水地域を管轄する下水処理場の流入水ならびに放流水(各12試料)を用いた。測定対象はカルバマゼピン(CBZ)、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、インドメタシン(IMD)、メフェナム酸(MEF)、イフェンプロジル(IFP)、ベンザルコニウム(BAC)、オフロキサシン(OFLX)の8物質である。調査の結果、これら8物質は下水処理場の流入水および放流水の全試料から検出された。下水処理場の流入水では、OFLX(幾何平均値580ng/L)、CAM(530ng/L)、BAC(350ng/L)、EM(280ng/L)が主要成分であり、放流水ではCAM(390ng/L)、OFLX(250ng/L)、EM(200ng/L)が顕著であった。BACの放流水中濃度は17ng/Lと流入水に比べて1桁低く、OFLX、MEFに関しても下水処理前後で有意差(1%)が確認された。下水幹線試料においては測定対象物質の各濃度に変動があったが、いずれの地点においてもBACは高濃度(240〜16000ng/L)で検出された。BACは殺菌消毒剤(逆性石鹸の成分)であり家庭からの寄与は想定し難く医療機関での使用が中心と考えられる。調査区域は都内でも様々な医療施設が集中していることから、これらの施設からの環境負荷も予測された。