著者
岩橋 利彦
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度は、咳嗽および発声時における声門閉鎖の定量的解析法の確立を目標とした。まず、高速度撮影装置と電気声門図(electroglottography:EGG)の同期記録システムを用いて、片側声帯麻痺症例の咳払いにおける声門閉鎖の有無をEGG波形より間接的に評価できるかどうかについて検討を行った。健康成人例の咳払い時の圧縮相において、高速度撮影画像では、声帯、仮声帯、披裂喉頭蓋括約部の閉鎖が認められ、EGG信号では、EGG波形の一過性上昇が認められた。特に、高速度撮影画像における咳払い時の声帯突起の接触とEGG波形の一過性上昇が一致して認められた。そこで、このEGG信号の一過性上昇に着目し、片側声帯麻痺症例においても、声帯が閉鎖する場合にEGG波形の一過性上昇が認められると考え、その検証を行った。結果として、片側声帯麻痺症例においても、EGG波形の一過性上昇は声帯の閉鎖を反映していると考えられ、高速度撮影画像を用いた視覚認識による声帯の閉鎖の評価よりもEGG信号所見の評価の方が評価者間一致率が高い結果となった。片側声帯麻痺症例では麻痺側の披裂部が声門を覆うことがあるため、約3割の症例で声門を視認できない場合がある。そのため、本研究の結果は、咳払い時のEGG波形の一過性上昇が明確に声門を観察することができない片側声帯麻痺症例の咳払い時の声帯閉鎖能力を予測する有用な指標になり得ることを示した。今回の研究結果については12th Pan-European Voice Conferencesにて発表を行った。
著者
岩橋 利彦
出版者
日本喉頭科学会
雑誌
喉頭 (ISSN:09156127)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.53, 2016-12-01 (Released:2017-06-13)

【目的】大声発声および頻回の咳払いは声の衛生における問題行動とされている.その理由として,大声発声や咳払い時の声帯間の強い衝突が喉頭組織へ障害を与えることが考えられている.しかしながら,通常のビデオ画像(30frame/秒)では,急速な声帯の内転を断続的にしか捉えることができないため,実際にその衝突の速さを実測することは困難であった.今回我々は,高速度撮影装置を用いて,声の衛生上の問題行動である咳払いおよび大声発声に加えて,音声訓練に用いられるハミング発声時における声帯間角度・角速度の変化を連続的に解析し,通常発声時の変化と比較検討した.【対象と方法】健常成人20例を対象として,高速度撮影装置を接続した喉頭ファイバースコープを挿入した状態で,強弱の咳払い,持続母音/e:/の通常発声・大声発声およびハミング発声の5 つのタスクを指示し,喉頭の高速度動画(4000frame/秒)を記録した.動画解析ソフトDipp-Motion Proを用いて,高速度動画において前交連および左右の声帯突起上の計3点の定点を自動追尾させ,声帯内転時の声帯間角度・角速度の連続的変化を解析した.その後,声帯運動範囲の100–80%,80–20%,20–0%の各区間における平均角速度を算出した. 【結果】咳払いおよび大声発声時には声帯間角度の変化は多次関数曲線を描き,角速度の変化は加速し続けたが,通常発声およびハミング時には角度の変化はS字曲線を描き,角速度の変化は一旦加速した後に減速した.強い咳払いにおける平均角速度は通常発声と比較して全区間で有意に大きく,特に20–0%区間の平均角速度は2倍以上となった.ハミングにおける平均角速度は通常発声と比較して全区間で有意に小さく,特に20–0%区間の平均角速度は1/2以下であった. 【結論】高速度撮影装置の使用により声帯の内転角速度の連続的解析が可能となった.咳払い・大声発声における声帯内転速度は通常発声より速く,ハミングでは遅くなることが証明された.