著者
神戸 千幸 岩浅 孝 逆井 利夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.329-334, 1978 (Released:2008-11-21)
参考文献数
12
被引用文献数
5 5

当社工場で製麹した麹を,実験室にて食塩濃度が17%になるようにして仕込んだ20試料の諸味について,熟成期間中における各種有機酸について検討を加え,次の結果を得た. (1) 仕込経過に伴って増加する酸はピログルタミン酸,乳酸,酢酸,コハク酸で,減少する酸はリンゴ酸,クエン酸であった. (2) 各試料によって乳酸量が大幅にばらついており,最高9.02mg/mlから最低1.06mg/mlまで9倍近い差が認められた.また,乳酸の多い醤油には酢酸が多く,逆にリンゴ酸,クエン酸の存在は認められなかった. (3) 有機酸の個々の成分の中では,乳酸と酢酸の間に高い正の相関が認められ,醤油中のかなりの量の酢酸が乳酸菌によって作られていることが示唆された.また,乳酸とクエン酸の間には高い負の相関が認められ,醤油乳酸菌によるクエン酸の代謝が考えられた. そこで,醤油諸味より分離した12株の醤油乳酸菌を炭素源をグルコース,クエン酸,リンゴ酸の3種に変えて純粋培養し,その代謝産物をしらべたところ, (4) グルコースを代謝した場合には,1モルのグルコースから1.71モルの乳酸, 0.28モルの酢酸, 0.17モルのギ酸が生成されていた. (5) クエン酸を代謝した場合には,生成有機酸の種類はグルコースを代謝した場合と同様であったが,おのおのの酸のモル比は大幅に異なり,1モルのクエン酸が資化されたときに, 0.16モルの乳酸, 1.86モルの酢酸, 0.59モルのギ酸が生成されていた. (6) リンゴ酸を基質にした場合は,菌の生育はたいへん緩慢となり,また,リンゴ酸の消費はほとんど認められなかった. (7) 上記のグルコース培地あるいはクエン酸培地で生成した乳酸のD, L-型分別定量を行ったところ,いずれの株の生成する乳酸も100%L型でありD型乳酸は事実上,認められなかった.