著者
岩田 夏弥
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

近年、集光強度が10^<20>W/cm^2を上回る極短パルス高強度レーザーが実現され、これを用いた高エネルギー粒子加速をはじめとする様々な応用研究が進展している。本研究では平成24年度、位相空間ラグランジアンに基づく数理手法を当該分野に新しく導入し、高い非線形性・非局所性を有する高強度レーザー物質相互作用において重要な役割を果たすレーザー光の動重力の高次非局所効果を記述する方程式を導くことに成功した。また、集光強度10^<20>W/cm^2を超える輻射減衰領域でのレーザー物質相互作用がもたらす極限物質状態を再現する大規模数値実験の実現を目指し、粒子計算コードEPIC3Dの開発を行った。これらを基礎として本年度は、非局所動重力理論の重要性を明らかにする応用研究を行った。ここでは、相互作用の微細制御への有用性が期待される、ビーム軸近傍で平坦な強度分布を持つレーザーを考え、これに対し従来の局所理論と今回導いた非局所理論を比較すると、レーザー場と単一粒子の相互作用時間に1桁に及ぶ差異が現れることを見出した。さらに、本研究で開発を進めてきた計算コードEPIC3Dを用いてプラズマ及びクラスター媒質中での高強度レーザー伝播シミュレーションを行い、平坦な集光構造を持つレーザー場中では非局所動重力によるプラズマ粒子の掃出しとそれによる静電場生成の結果、レーザー場が変調を受け低エミッタンスの電子ビームが生成されることや、クラスタークーロン爆発や相対論的イオンの効果が相乗的に作用して高エネルギーイオン加速が実現することなどを明らかにした。これらの結果は学術雑誌Physical Review Lettersに掲載され、国際会議IFSA2013の口頭発表に採択された。以上の研究は、高強度場科学に新しい理論手法を提示し学術・応用研究の進展に貢献するとともに、大規模数値計算を通して計算機科学の進展に資するものである。