著者
岩見 憲一
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.175-198, 2011-05

1955年,電化と日本の米食文化の接点で生まれた自動式電気釜は,当時,家事の面で最も影響が大きいといわれた「白物御三家」の内,唯一日本独自の発明品である。本稿では「竈と羽釜」に代わり,「生活の前提」を支える「ランドマーク商品」になった自動炊飯器の創造力と破壊力を検証する。誰でも失敗せずにご飯が炊け,釜についた煤や噴きこぼれや竈周りの後始末の手間もなく,特に,寝ている間にご飯が炊ける便利さは,女性のライフスタイルを一変させた。さらに,コンセントさえあればどこでも炊飯できることは,台所の風景を一変させた。反面,伝統的な竈炊きのおいしいご飯の味や炊く技が失われ,子供の手伝から学ぶことや躾を失なわれるという,見えざる負性を持っている。近年,自動炊飯器は,米食文化を有する国々で普及しつつある。自動炊飯器を使用するようになった香港の事例についても触れる。