- 著者
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岸岡 歩
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
恐怖条件付け学習では、音と電気ショックは視床の異なる核を経由してそれぞれ扁桃核に入力し、この領域で連合され、記憶として保持されるという単純な神経回路が考えられていた(Le Doux.2000,Annu.Rev.Neurosci.23:155-184)一方で、これまでの研究から線条体は弱い電気ショックを与えたときの恐怖条件付けに関与することが示唆された(Kishioka et al., 2009)。そこで本年度は、線条体と扁桃体の機能の違い、および両者の関係を明確にすることを目的とし、以下の検討をおこなった。(1)C57BL/6系統のマウスの扁桃体Lateral Amygdala(LA)の両側にMuscimol(MUS)を投与し、神経活動を抑制した。このマウスを用いて0.3mAの弱い刺激条件で恐怖条件付けを行ったところ、3時間後(STM)と24時間後(LTM)ではいずれも有意に学習が障害された。これにより、弱い刺激条件での恐怖条件付けの記憶獲得には扁桃体が関与することが明らかとなった。(2)次に、あらかじめ0.3mAの弱い刺激条件で条件付けをしたC57BL/6系統マウスの扁桃体LAの両側にMUSを投与することで神経活動を誘導し、扁桃体の長期記憶への寄与を検討した。3時間後のSTMと24時間後のLTMを計測した結果、いずれも有意に学習が障害された。これより、扁桃体の神経活動は学習後の記憶の固定の過程にも重要であることが示唆された。(3)さらに、線条体神経細胞除去マウスを用い、0.3mAで恐怖条件付けをおこない、24時間後の長期記憶のtestの前にMUSを両側の扁桃体LAに投与した。LTMを計測した結果、有意な差は見られなかった。続いて、このマウスの線条体をRU投与により除去したところ、RU投与群の学習は障害される傾向にあった。このことから、長期記憶の表出には扁桃体は関与しない一方で線条体は関与する可能性が示唆され、それぞれの部位の恐怖記憶への関与の違いが明らかになった。