著者
岸本 昌子 森 貴久
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.61-68, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
31

ニホンヤマネGlirulus japonicusの体毛の特徴を,下毛と保護毛の密度と長さに着目して,アカネズミApodemus speciosusと比較した.さらにヤマネの体毛の特徴の地域的な差異を調べた.各地の博物館所蔵のヤマネの標本30体と採集したアカネズミ5個体を解析に用いた.ヤマネとアカネズミの体毛の密度と長さについて比較すると,ヤマネの方がアカネズミよりも全体の下毛密度と下毛割合が高く,長さも長かった.保護毛密度はアカネズミの方が高かった.また,ヤマネでは,胸の保護毛密度が他の部位に比べて低かった.さらに,ヤマネの体毛の特徴に基づいて標本をクラスター分析した結果,主に山形県,群馬県,埼玉県,岐阜県産からなる集団と鳥取県,静岡県,兵庫県産からなる集団の2つの集団に大きく分かれた.この集団は,これまでに知られている遺伝集団とは必ずしも一致せず,寒冷適応の程度と関係している可能性が示唆された.