著者
村瀬 公胤 岸本 琴恵
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.97-107, 2019-03-31 (Released:2020-04-01)
参考文献数
23

本研究の目的は,教育実践における二つの道徳的価値「規則の尊重」と「相互理解,寛容」の相克について,ケアの倫理を導入することによってこれを乗り越える方途を探ることである。そのために,中学校の事例に基づいて問題の構制を分析するとともに,佐伯(2017)の「二人称的かかわり」および「三人称的かかわり」を参照しながら「規則の尊重」と「相互理解,寛容」の概念の再定義を試みた。事例を通して明らかになったのは,まず,「三人称的かかわり」が「規則の尊重」と「相互理解,寛容」の相克をもたらしており,「二人称的かかわり」がそれを乗り越える契機となり得ることである。次に,「二人称的かかわり」の中で,生徒が主体的な規則の担い手として育つ過程が示された。「規則の尊重」とは,私があなたとどのような関係でありたいかという,二人称的な自律性の発露として捉えることができる。 他方,「相互理解,寛容」としてのケアとは,一方的な保護で現状を無条件に肯定し放置する甘やかしとは異なり,成長の文脈において現状を受けとめることであった。多様な個によって担われる規範と,多様な個が成長するためのケアは,学校が道徳的空間であるための必要な要素である。この理解に基づいて,日々の生徒指導や学校経営が進められる可能性が示唆された。