著者
山内 大輔 福田 安希 唐原 一郎 峰雪 芳宣
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.3-7, 2016 (Released:2017-04-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1

種子は一般的に乾燥状態で,その中に休眠している幼植物(胚)が含まれており,適当な条件が揃うと発芽する.発芽過程における種子中の形態的変化の観察では,その周りを覆う種皮が支障となり,光学顕微鏡観察のための切片作製では固定・樹脂包埋等による試料の変形も問題となる.そこで著者らは,種子を非侵襲で観察するために放射光施設SPring-8においてX線マイクロコンピュータートモグラフィー(CT)を利用している.マメ科ミヤコグサの種子をBL20B2で撮影した結果,胚の輪郭や将来維管束になる前形成層等を捉えることができた.この前形成層周辺にはX線の透過しにくい構造が散在していたが,それはシュウ酸カルシウム結晶であり,種子形成過程中期に現れ,吸水後10日目の子葉中でも消失しないで残ることがわかった.発芽種子の子葉には乾燥種子で見られないX線の透過し易い部分が散在していた.これは細胞間隙であり,吸水後60分になると出現することが分かった.一方,より高分解能での観察が可能なBL20XUを使ってシロイヌナズナ種子を撮影した.その結果,幼根から胚軸にかけての領域を構成する細胞の形が把握でき,胚の表皮,皮層,内皮を構成する大部分の細胞輪郭が抽出できるようになった.これら著者らの結果をふまえ,本総説ではX線マイクロCTの有効利用法や問題点についても言及したい.