著者
島内 司 西村 明幸 石川 達也 西田 基宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.6, pp.269-273, 2017 (Released:2017-06-14)
参考文献数
18
被引用文献数
1

医薬品の開発研究は,新たな薬剤を生み出す創薬研究と既存の薬剤の新たな作用を見出し応用する育薬研究に分けられる.創薬標的はますます複雑化の一途を辿り,新薬創出の研究に必要とされる時間とコストも膨れ上がっている.新薬開発に比べて既承認薬はヒトでの安全性,薬物動態が確立されており,他の疾患への治療薬として適応するにあたって大幅な時間とコストの削減が可能となる.このような新しい医薬品研究のあり方は「エコファーマ(またはドラッグ・リポジショニング)」として提唱されている.ミトコンドリアは分裂と融合を動的に制御することでその品質を維持している.ミトコンドリアの機能異常は様々な疾患の原因となるため,その品質管理が新しい治療標的として注目されている.我々は心筋梗塞後に心筋が早期老化を引き起こす前段階において,ミトコンドリア過剰分裂が起こること,およびこの原因が低酸素に依存したミトコンドリア分裂促進GTP結合タンパク質dynamin-related protein 1(Drp1)の活性化にあることを見出した.ラット新生児心筋細胞において,低酸素/再酸素化刺激は心筋細胞の早期老化を引き起こし,低酸素誘発性のミトコンドリア分裂を阻害することで再酸素化後の心筋早期老化が抑制された.低酸素刺激によるミトコンドリア分裂を阻害しうる既承認薬のスクリーニングを行った結果,ジヒドロピリジン系Ca2+チャネル阻害薬であるシルニジピン(cilnidipine:CIL)がミトコンドリア分裂を抑制することを見出した.CILはCa2+チャネル阻害作用と無関係にDrp1活性化を抑制し,心筋老化を抑制した.以上の結果は,CILがミトコンドリア過剰分裂に起因する様々な疾患の治療薬に適応拡大できることを強く示している.