著者
島田 哲男 飯泉 修
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.72-79, 1974-01-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
6
被引用文献数
1

静岡県富士市元吉原地区は,昭和44年度,SO2濃度が年平均0.075ppmが記録され,大気汚染が極めて高度である事が考え.られた.又同市は,クラフトパルプ製造工程中に:放出される臭気(ジメチルサルファイド,硫化水素,メチルメルカプタン等)により地域住罠の悪莫公害を受ける影響も憂慮された.我々は,昭和45年,昭和46年の2年間にわたり,富士市内で最も大気汚染の影響をうけていると考えられる地区の小学校児童を選び,周辺の比較的大気汚染の影響が少いと考えられる富士宮市内の小学校児童を対象として,鼻症状に関するアンケート用紙,及び鼻鏡検査から,学童の鼻副鼻腔疾患の頻度を調べ,汚染校と対象校に差があるか,どうかを検討した.さらに,絶えず悪臭にさらされている学童の嗅覚閾値は,対象地正の学童にくらべ,差があるのか否かも合せ検討した.なお,嗅覚閾値検査は,嗅覚斑会議で定めた10種基準臭の内,3種を用い,汚染,対象,両校とも全く臨床的に正常と考えられる児童を選び行った.結累:(1)慢性副鼻腔炎を有する児童は,対象校に比し,汚染校に高率であつたが,推計学的には有意差はなかつた.(2)慢性鼻炎を有する児童は,汚染校にやや高率であるが,推計学的には有意差はなかつた,(3)アレルギー性鼻炎を有する児童は,汚染校に高率であるが推計学的には有意差はなかつた.しかし,汚染の程度が最も高度である一校についてのみ検討すると,極めて高率であり,対象校にくらべ,推計学的にも有意差をみとめた.(4)3種基準嗅検査の内,2種の検査についてまで,汚染校児童は対象校児童にくらべ,嗅覚閾値低下の傾向を認め,嗅覚過敏状態にある事を認めた.