- 著者
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島野 翔
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2008年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.219, 2008 (Released:2008-07-19)
1.はしがき
地理学では古くから、歴史的・文化的に価値のある景観に関する研究が行われてきた。しかし近年、景観に関する諸問題が生じているのは、むしろ歴史的・文化的な景観を持たない一般の地域においてである。この一般の地域、特に都市の市街地の景観形成に関する助言こそが、景観を研究対象とする学問分野に求められている。建築計画学の分野では、部分的な街路形態の特徴に注目し、それを一般の地域における景観形成の拠り所とする研究が増加している。街路には、かつての地形的、土木技術的な制約による屈曲や勾配、狭まりが視覚的に認識できる状態で残されており、建築物の更新頻度が高いわが国では、こうした街路が地域の歴史を語る際の手がかりとなる。景観を「目に映ずる同様の特徴を有する地表の一部」(山口、2007)と定義し、目視で各地の景観を分析してきた地理学においても、街路形態に視覚で認識可能な資源を見出すことは、地理学の手法を景観形成に役立てるうえで意義があると考えられる。そこで、本論では「Y字路角地」という、一般の地域に普遍的に見られる街路形態の景観構成を調査・集計し、計量分析を用いて類型化を行い、一般の地域における景観形成の資源としていかに活用することが可能であるか、そのモデルを掲示することを目的とする。
2.Y字路角地とは
都市内の交差点は、交通流動や土地利用の合理性が志向されるため、できるだけ直角に近い角度で交わり、角地が矩形となった十字路、T字路を形成している場合が多い。しかし、諸事情により鋭角で交差するものもあり、(1)土地利用や建築物に形態的な制約がかかり、特徴的な景観が現れる、(2)角地に対面する道路から眺めたとき、角地の中央が強調され印象的なアイ・ストップとなるといった特徴を有している。本論では鋭角の角地のうち、交差角度が45°以下の交差点の角地を「Y字路角地」と定義し、景観観察を行った。
3.東京23区におけるY字路角地の分布
東京23区内のY字路角地(合計5875箇所)の位置を電子地図上にプロットし、カーネル密度推計法を用いて等値線を描いた。その結果、Y字路角地は1933年~1945年に行われた耕地整理以前とそれ以後の道路が混在し、かつ両者の方向が異なっている地域に多く分布していることが分かった。本論ではそのうち、JR池袋駅から1kmほど北西に位置する地域でY字路角地の景観観察を行った。
4.景観観察の手法とその結果
建築計画学で使われている「表層」の概念を援用し、調査地域のY字路角地163箇所に対し、対面道路から見える範囲を観察した。観察項目は(1)交差角度、(2)隅切り、(3)接道部と建築物の距離、(4)接道部の見通し、(5)土地利用、(6)建築物の階層、(7)配置物である。その結果、(2)、(3)、(4)は交差角度の影響を強く受けていることが判明した。
5.Y字路角地の景観構成の類型化
景観観察で得られたY字路角地163箇所における、34種類の変数を用いて数量化III類分析とクラスター分析を施し、Y字路角地の景観構成を類型化した結果、「(1)残余地のある低層建築型」、「(2)幹線道路型」、「(3)植栽・駐車スペース型」、「(4)残余地のない低中層建築型」、「(5)非建蔽地・公有地型」の5つの類型を得ることができた。
これらの類型は、(2)以外は分散して立地している。すなわちY字路角地の景観は、経済原理よりもその土地固有の諸事情によって決定されている可能性が高いことが判明した。その他、景観形成の資源として、それぞれの類型のY字路角地がいかなる価値を持ちうるかを考察した。