- 著者
-
嶋武 博之
青木 継稔
- 出版者
- 東邦大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1992
myc系がん遺伝子としてC-myc遺伝子が多くの腫瘍や正常組織で発現しているのに対し、N-myc遺伝子は、特定の小児がんのみ発現しており、その発現の有無を調べることにより、がんの診断が可能になる。そこで本研究は、小児がん診断に役立てるためN-mycタンパクの定量測定法を可能にし、更に、早期発見のための方法を確立しようとするものである。神経芽腫においては、N-mycの遺伝子増幅について数多く調べられており、遺伝子増幅と神経芽腫の予後との関係が明らになっている。しかし、遺伝子増幅を伴わない予後不良例も報告されており、遺伝子レベルでの解析だけでは不十分であることが最近、指摘されている。また、網膜芽腫では、調べられた殆ど全症例においてN-myc遺伝子が増幅していないにもかかわらずN-mycタンパクの発現が見られるため、これらのがんの診断・予後の判定のためには、N-mycタンパクを検出し定量測定することが望まれる。この目的のために、N-mycタンパクの免疫学的定量法に必須の道具となる六種類の人工タンパクを、大腸菌発現ベクターを用い遺伝子工学的に作成し大量精製した。《1)N-myc特異抗原 2)pan-myc特異抗原 3)N-pan-myc特異抗原 4)抗ヒトN-mycタンパク特異抗体 5)抗pan-mycタンパク特異抗体 6)抗体吸収用cII-Nタンパク》 これらのタンパクはいずれも、N-mycタンパクの免疫学的定量を行うにあたり、特異性・力価が充分であることを確かめた。N-mycタンパクのサンドイッチ型ELISA法による免疫学的定量には、抗N-mycタンパク抗体を第一抗体とし、抗pan-mycタンパク抗体を第二抗体とした方が、その逆の場合よりも反応の特異性および効率の点で優れていることが明かとなった。この方法により、現在、培養細胞株および臨床材料を用いてN-mycタンパク量の定量測定を行いつつある。