著者
川上 麻世
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

【研究目的】健康な勤労者では、仕事による活動や緊張状態が続くことから、眠気の自覚が少なく、睡眠不足の蓄積によってもたらされる作業効率の低下を自覚していない可能性もある。本研究では勤労者を対象に、検査値から得られる“客観的な眠気”ならびに、質問票より得られた“主観的な眠気”も合わせて解析し、眠気が脳機能に及ぼす影響を解析することを目的とした。【研究方法】本研究参加の同意が得られた勤労者26名(男性10名、女性16名)を解析対象とした。昼間の眠気の調査には「エプワス眠気尺度日本語版」、検査時の眠気の調査には「カロリンスカ眠気尺度」を使用した。認知機能の調査には「注意機能スクリーニング検査 : D-CAT」を使用した。客観的な眠気の評価として短時間ポリソムノグラフィ検査を行って入眠までの睡眠潜時を測定し、また、「精神運動覚醒検査 : PVT」では反応時間の測定を行った。これらと認知機能との関連を評価し、勤務や睡眠習慣との関連を統計学的に解析した。【研究成果と考察】対象者の年齢、勤務時間、睡眠時間、エプワススコアはそれぞれ33.7±12.2歳、8.0±0.6時間、6.2±1.0時間、8.7±3.5点(平均±標準偏差)であった。睡眠潜時は3.5±2.0分(平均±標準偏差)で、すべての対象者が10分以内に入眠し、就寝時刻が遅い者ほど有意に睡眠潜時が短かった(β=-0.18, p<0.05)。認知機能との相関では、検査時のカロリンスカ眠気尺度が高いほどD-CATでの見落とし率が高かった(β=-2.63, p<0.05)。エプワススコアでの眠気がある群(11点以上)と眠気がない群(10点以下)との比較では、睡眠潜時もPVTも差を認めなかった。眠気の自覚がある、なしに関わらず入眠していることから、客観的な眠気と主観的な眠気が乖離していることが示された。本研究では解析症例数が充分でない事から、眠気と認知機能との相関について確定的なエビデンスは得られなかったが、今後、交代制勤務従事者や過重労働従事者を対象に含めた、より大規模な検討が必要と思われる。