著者
檜山 充樹
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究における目的は、鱗翅目シジミチョウ科の小型の蝶であるヤマトシジミの北限個体群において多数確認された翅の色模様修飾の出現要因を探ることを目的としている。その要因解明のため、1、野外個体における色模様修飾形質の遺伝性、2、色模様修飾と低温耐性の同時進化、3、色模様修飾個体における選択圧の有無という3つの視点から、去年度に引き続き研究を進めてきた。今年度の実験として、ヤマトシジミの生息北限において採集された斑紋修飾個体および非修飾個体からそれぞれF1、F2、F3を得たのち、各世代における色模様修飾個体の出現頻度を比較したところ、修飾個体が有する斑紋が遺伝することが確認され、北限個体群において生じた色模様変化形質が一部の個体では遺伝的に固定されていることが明らかとなった。また、配偶者選択における、雌個体の色模様修飾に伴う選択圧の有無を調べるため、北限個体の雄を用いて、修飾個体と非修飾個体とを選択させる行動実験を行ったところ、北限個体では南方の個体群と同様の選択性を示し、斑紋修飾が雄の配偶者選択に大きな影響を及ぼさないことが明らかとなった。以上の成果から、ヤマトシジミの北限個体群において生じた色模様修飾型の出現機構がほぼ明らかとなり、その過程は以下のようであったものと考えられる。すなわち、生息環境の北進に伴う未経験の低温環境が生じ、そのような低温環境に耐えるだけの低温耐性を持つ個体において、副次的に生じた色模様修飾が、低温環境が継続されることにより遺伝的に固定され、さらに色模様修飾個体に大きな選択圧がかからなかったことにより個体群内に浸透した結果、北限個体群において、色模様修飾個体の大量出現が生じたものと考えられる。以上の研究結果は、表現型可塑性が生物の進化の直接的な原動力になる可能性があることを示す、非常に貴重な研究事例であるものと考えられる。
著者
池田 譲
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

鏡に映る自分を認識する能力である「自己認識」は、ヒトを含む一部の大型類人猿とバンドウイルカにのみ認められる高度な知性であり、発達した社会性を背景に進化を通じて獲得されたと考えられている。本研究は、イカ類が発達した神経・感覚系および無脊椎動物最大の脳を有し、かつ、高度な記憶・学習能、発達した社会性をもつことに着目し、イカ類が自己認識を有しているとの発想にたち、水産重要種であるアオリイカを対象に、自己認識と社会性の発達に関わる以下の研究を行った。初めに、自己認識検知のためマークテストを試みた。その結果、アオリイカは視認不能部位にマークが付けられると鏡の前で静止するという行動を示した。次に、アオリイカを隔離飼育し、隔離個体に鏡を提示して自己鏡像に対する行動を観察した。隔離個体は鏡面に対して一定の距離をフリーズする、または鏡に張り付くといった通常では見られない行動を表出した。これらの実験から、本種には自己認識の萌芽があり、それは同種他個体の存在という社会的要因に可逆的に影響を受けることが示唆された。次に、アオリイカ卵を育成し孵化個体を得、孵化後間もなくから孵化後約120日までの個体について、自己鏡映像へのタッチ行動発現の過程を記録した。その結果、アオリイカは孵化直後から鏡に接近して鏡面を滑るように腕先端でかすかに触る行動が見られた。孵化後30日には成体同様に鏡面に対して明確に定位する個体が認められた,成体期におけるタッチ行動に比べるとその頻度は低かった。孵化後50日以降では、タッチ行動を示す個体の数も増え、個体によっては成体期と同レベルの頻度を示すものも見られた。以上の観察から、アオリイカにおける自己鏡映像へのタッチ行動は、孵化直後から認められるものの、それは孵化後の生育に伴いより顕著になっていく過程であり、類人猿における鏡像自己認識と類似する点が認められることが明らかになった。
著者
石崎 博志
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本年度の研究は、朝鮮語・漢語・ヨーロッパ言語など外国語資料による琉球語研究がこれまで如何なる形で行われてきたのかを振り返り、それらを批判的に検討を加えることによって外国資料が示す琉球語の音韻体系が如何なるものであったかを明らかにすることを目標とした。現在、その存在が知られる琉球語を記述した外国語資料には、朝鮮語(ハングル)による資料、漢語(漢字)による資料、ヨーロッパ言語(ローマ字)による資料の三つのタイプがあるが、これら一次資料とこれらを使った琉球語研究に関する先行研究を広範に網羅し、「外国語による琉球語研究資料」および「琉球における官話」文献目録」(『日本東洋文化論集』第7号2001)と題してその成果をまとめた。ここでは、これまでの琉球語研究史を扱った文献目録から除外されてきた外国語資料による琉球語資料とその研究論文を新出資料も交えて盛り込んだ目録である。「漢語資料による琉球語と官話研究について」(『日本東洋文化論集』第7号2001)は、外国語、ことに漢語による琉球語研究の歴史及び琉球で学ばれた漢語の研究史を振り返るとともに、これまでの研究の特徴や問題点を指摘し、そこに新たな知見を加えたものである。中国資料に関しては、「琉球館譯語」と陳侃『使琉球録』所載の「夷語」成立時期の先後関係について、「琉球館譯語」が最も早期の琉球語資料であるとの説を批判的に検討し、さらに「日本館譯語」と陳侃「夷語」との関係について論じた。そして、琉球官話と呼ばれる一群の琉球における漢語資料についてはこれまでの「官話」の基礎方言に関する議論を展開しながら、中国における官話研究の状況と併せて論じた。
著者
石川 千恵
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

転写因子NF-κB/AP-1の核内輸送にはインポーチン(IPO)蛋白質が重要である。HTLV-1感染が原因の成人T細胞白血病(ATL)の治療標的としてIPOを検証した。感染T細胞でIPOβ1の発現が亢進し、IPOβ1のノックダウンやIPOβ1阻害剤インポータゾル、IPOα/β1阻害剤イベルメクチンは感染T細胞株の増殖や生存を抑制した。両阻害剤はNF-κB/AP-1の核内移行を遮断し、両転写因子制御下の細胞周期関連蛋白質やアポトーシス阻害蛋白質の発現を抑制した結果、G1期での細胞周期停止とカスパーゼ依存性アポトーシスを誘導した。さらに、ATLマウスモデルでイベルメクチンは抗腫瘍効果を発揮した。
著者
立原 一憲 大城 直雅 林田 宜之 西村 美桜 伊藤 茉美
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

琉球列島におけるバラフエダイ、バラハタ、ドクウツボの年齢と成長を解析し、各年齢と体重におけるシガテラ毒の含有量を分析した。その結果、寿命は、バラフエダイ79歳、バラハタ20歳、オジロバラハタ15歳、ドクウツボ25歳であった。いずれの種も高齢魚・大型魚ほどシガトキシンの含有量が多い傾向が認められた。バラフエダイでは、体長500㎜、体重4kg、年齢20歳以上になると強毒個体が出現し、宮古諸島のものが特に高い値を示した。バラハタとオジロバラハタでは、強毒個体は、いずれも1個体のみであった。ドクウツボでは、強毒個体は出現せず、大量摂取しなければ中毒を発症する恐れは少ないと判断された。
著者
小野沢 あかね
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2005年度には、以下の1,2,3の研究成果をあげることができた。1 戦時における地方純潔運動に関する論文「軍需工場地帯における純潔運動」を『戦時日本の経済再編成』(日本経済評論社、2006年3月31日)に掲載することができた。この論文では、軍需工場地帯となった群馬県において顕著であった青少年工や徴用工の欠勤や不良化、闇取引や軍需工場がらみの経済犯罪に対抗しておこなわれた、同県の社会事業家らによる純潔運動の展開を明らかにした。本稿では、同運動が、国策と実際の戦時社会の荒廃との間の乖離を鋭く批判し、統制経済の指導者批判、人口政策批判を展開したことを明らかにした。本稿をふまえて、来年度にはこれまでの拙稿をまとめた著書を発表する予定である。2 戦後沖縄におけるAサインバー・ホステス経験者に対する聞き取りの成果をもとに論文、「戦後沖縄におけるAサインバー・ホステスのライフ・ヒストリー」を執筆した。この論文では、沖縄本島北部出身のある女性からの聞き取りに基づき、米軍統治時代末期の沖縄における米兵向け水商売で働いていた女性従業員の労働、賃金、労働意識、暮らし、生い立ち、人物像などを明らかにした。1960年代末の米兵向け水商売では、前借金などから相対的に自由なホステスも存在していたこと、借金をしないで労働することのプライドが息づいていたこと、本土での進学・労働経験の持つ意味の重要性などが浮かびあがってきた。
著者
我部 政明
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的を達成すべく,在日米軍基地についての歴史的文脈の把握,現状分析,そして将来構想の三つの視点より研究を進めた。本研究期間中に,日本国内及び米国へ出張し、安全保障問題の研究者及び専門家との意見交換を行い,日米安保に関する資料収集を重ね,さらに米国の国立公文書館において史料収集を行い,それらの分析を試みた。研究成果報告書において述べたように,沖縄問題はすぐれて日本外交の問題であるとの認識を深めた。つまり,在日(沖縄を含む)米軍基地の存在によって,安全保障上の日本本土と沖縄との間における「ねじれ」が生れ,戦後50余年の間に,拡大再生産されてきた。そこで欧米提言として,米海兵隊の削減と普天間基地の県内移設計画の見直しを挙げた。なお,『沖縄返環とは何だったのか』(NHK出版,2000年)は本研究の成果の一部である。
著者
石田 肇 百々 幸雄 天野 哲也 埴原 恒彦 松村 博文 増田 隆一 米田 穣
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

オホーツク文化人骨の形態解析とDNA分析の結果、北東アジア、とくにアムール川流域を起源としていること、mtDNAのハプログループYは、アムール川下流域集団の祖先からオホーツク文化人を経由してアイヌへともたらされたことが示唆された。また、食生活では栄養段階の高い大型魚類や海生ほ乳類を主要なタンパク質として多く利用していたことが示された。変形性関節症の頻度分布からも、生業との関連性が示唆された。アイヌ民族のイオマンテ型儀礼は続縄文文化・オホーツク文化にまでさかのぼる可能性が大きいことを示した。
著者
上間 陽子 仲嶺 政光 望月 道浩 芳澤 拓也 辻 雄二 長谷川 裕 打越 正行
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

沖縄の貧困を解明するために、本助成をうけることで次の3つの調査を行うことになった。まずひとつは沖縄の風俗業界で働く若者のインタビュー調査を実施した。この調査では、彼らの生育環境、友人関係、結婚、就職、文化などについて調べた。次に全国学力・学習状況調査の沖縄の結果の分析(2013年、2014年)を行った。最後に沖縄の教員が、貧困世帯の子どもをどのように捉えて、関わりを作ったのかについて、各年代ごとにどういった傾向があるのかについて分析した。
著者
吉田 茂
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1-123, 1983-11-19

The Purpose of this study is to analyze the economic structure of local, regional and national hog markets in the self-sufficient region. In Okinawa, the local and regional hog markets play a very important role compared with the national hog market. Therefore, in this study the market economic conditions for the local and regional hog markets in Okinawa were made clear. The hog marketing in Okinawa was chosen as the subject of the study of the following reasons : Hog production is one of the most important income sources for the agriculture in Okinawa and also pork is the most popular and has the most important position among meat. While the hog market in other areas is characterized by the national market, that in Okinawa depends mainly on the local and regional markets traditionally. The outline of the discussion of this study is as follows : 1. Consumption structure The quantity of pork consumption per person a year in Okinawa is larger than that of national average. For example, the quantity of pork consumption per person a year in Okinawa in 1979 was 7.9 kilograms which exceeded about 50% that of national average. And the percentage of the quantity of pork consumption in the whole meat of national average is 47% while that in Okinawa is 57%. 2. Production structure The percentage of hog farmers in the whole farmers in Okinawa is larger than that of national average, however hog numbers on a farm in Okinawa are smaller than those of national average. There exist still many small sized hog farmers in Okinawa. A small number of hogs is produced by agricultural holdings other than farm households in Okinawa in comparison with that of national average. The hog production cost in Okinawa is higher than that outside of the prefecture. Higher feed prices and laber costs in Okinawa than in other areas bring about this situation. In Okinawa, small sized hogs are produced and sold locally, on the contrary, in other areas, consumers prefer large sized hogs to small sized hogs. Therefore, it is difficult to sell hogs produced in Okinawa to other areas. 3. Market structure One of the characteristics of the hog and pork marketing in Okinawa is that a slaughterer performs most of the hog and pork marketing functions between the producer and the consumer. Areas where a slaughterer buys hogs and sells pork are usually fixed in the local and regional markets. Therefore, there are no marketing routes formed for the national market. Hog market in Okinawa (regional market) is composed of three local market areas individually. They are Okinawa Island market area, Miyako Island market area, and Ishigaki Island market area. Hogs produced in one local market area are usually consumed within that area. In the case of shortage or surplus of hogs in one area, that area enters into business with other area to keep the balance of supply and demand for hogs. When the hog supply and demand in the regional market is out of balance, the regional market will be spread out into the national market for the adjustment of the unbalance of supply and demand. 4. Price Hog prices on farms in Okinawa are higher than those of national average, but the difference is not big enough to import hogs to Okinawa from other areas. 5. Adjustment policy of supply and demand Several export subsidy systems have been putting into operation to keep the balance of supply and demand for hogs in case of an oversupply of hogs in Okinawa. For example, there was "The hog price stability act" before the reversion to Japan and there are many assistant programs for hog by "Okinawa Prefecture Livestock Corporation" after the reversion to Japan.
著者
翁長 謙良 吉永 安俊 趙 廷寧
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.149-155, 1998-12-01

歩測は現在まで依然として重要な測量方法の一つである。歩幅を確定し, 身長との関係を明らかにすることは, 人間の体型と歩行習慣を知る上で, また, 野外調査などにおける概略の測距に便利である。1985年から学生の測量実習を通じて, 琉球大学農学部に在学中の男子190名, 女子46名の身長と歩幅の資料を収集し, それらの相関について検証した。本研究では, 多元回帰分析方法によって, 身長による歩幅の予測式を作成し, 下記の結果を得た。男子 : Y=0.38X+0.09(r=0.738) 女子 : Y=0.36X+0.16(r=0.754) 全体 : Y=0.26X+0.31(r=0.706)
著者
中須賀 常雄
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.413-519, 1979-12-11
被引用文献数
7

マングローブ林は熱帯および亜熱帯の海岸および河口の泥土上に生育する特殊な群落である。本群落は日本では九州本島南端の鹿児島県を北限とし, 南下するにつれて発達し, 南限の西表島で最も発達した群落を形成している。本論文ではこれまでほとんど明らかにされていなかった日本各地の大小のマングローブ分布地の確認, 分布状況の調査をおこない, 更に方形区調査も合せておこなった。即ち, 九州本島, 種子島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄本島, 久米島, 宮古島, 伊良部島, 石垣島, 小浜島および西表島の各島において生育地を確認し, 各生育地では生育樹種およびその生育状況(胸高および根元直径, 樹高, 生殖器官の有無)および生育面積について調査した。次に種子島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄本島, 石垣島および西表島の各生育地に合計73箇の調査区を設定し, マングローブ林の林分構造を明らかにした。また, これらの調査区において生立木の平面的個体分布の解析をおこない, 更にこの結果よりマングローブ林の成立および発達過程について考察をおこなった。現存量に関する調査は沖縄本島のメヒルギ林と石垣島のオヒルギ林およびヤエヤマヒルギ林において層別刈取法を使って現存量測定をおこない, これら林分の現存量および生産構造について解明した。以上のマングローブ林の分布状況と林分構造およびその成立, 発達過程, 現存量についての調査研究は総合的な観点からの解析, 考察より次のようにまとめられた。1.日本に分布するマングローブ構成種はメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギダマシ, ヒルギモドキ, マヤプシギ, ニツパヤシの7種である。2.日本におけるマングローブ分布地は九州本島に3箇所, 種子島に4箇所, 屋久島に1箇所, 奄美大島に3箇所, 沖縄本島に34箇所, 久米島に1箇所, 宮古島に5箇所, 伊良部島に2箇所, 石垣島に30箇所, 小浜島に1箇所および西表島に24箇所, 合計108箇所である。なお, この他に南大東島に1箇所マングローブ分布地がある。3.日本のマングローブ生育北限地は鹿児島県川辺郡大浦町である。これは世界的にみても分布北限にあたる。各マングローブ種の自生北限はメヒルギが種子島西之表市湊, オヒルギが奄美大島住用村, ヤエヤマヒルギが沖縄本島東村, ヒルギモドキが沖縄本島金武村, ヒルギダマシが宮古島平良市島尻, マヤプシギが八重山群島の小浜島である。ニッパヤシが西表島の船浦である。4.日本における各マングローブ種の生育地を北から南へみてゆくと, 九州本島, 種子島および屋久島にはメヒルギのみ, 奄美大島にはメヒルギとオヒルギ, 沖縄本島にはメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギモドキの4種, 宮古島にはメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギダマシの4種, 石垣島にはメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギダマシ, ヒルギモドキの5種, 西表島には上記5種にマヤプシギとニッパヤシを加えた7種が分布している。沖縄本島以北の生育地ではメヒルギが優占し石垣島と小浜島および西表島ではオヒルギが優占している。宮古島と伊良部島はその中間に位置し, 特に優占する種は認められない。従って, 日本のマングローブ林は九州本島, 種子島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄本島および久米島がメヒルギ優占地域, 石垣島と小浜島, および西表島がオヒルギ優占地域という2つの地域に区分される。また, マングローブ林は林床に他の植生を有せず, 既に述べたマングローブ種のみから成りたっている。5.メヒルギおよびオヒルギはその生育個所から樹形の違いを加えて異なる型に区分された。メヒルギではメヒルギI型は海側前面および流路側林縁に生育するもので矮生で前縁型とした。メヒルギII型はメヒルギI型とメヒルギIII型との中間の生育個所を占め, 中間的樹形を示し中間型である。メヒルギIII型は最も内陸側に生育するもので樹高の高いもので内陸型である。オヒルギはマングローブ林において普通最も内陸側に生育することが認められたが, 海岸側前面に生育する矮生のものも生育している。前者は内陸型, 後者は前縁型と区分された。6.マングローブ林は上層を占める主要種から種々の林分型に区分される。メヒルギ優占地域のマングローブ林は1)メヒルギI型2)メヒルギII型3)メヒルギIII型4)メヒルギ・オヒルギ型5)メヒルギ・(オヒルギ)型6)オヒルギ・(メヒルギ)型7)オヒルギ型8)ヤエヤマヒルギ型の8林分型に区分された。また, 同様にオヒルギ優占地域のマングローブ林は1)オヒルギ型2)ヤエヤマヒルギ型3)ヤエヤマヒルギ・オヒルギ型4)メヒルギ型5)マヤプシギ型6)ヒルギダマシ型の6林分型に区分された。7マングローブ林において構成種のすみわけが海岸または流路から内陸へ向って認められた。メヒルギ優占地域ではヤエヤマヒルギ・ヒルギモドキ⟶メヒルギ・オヒルギの順である。前述のメヒルギ区分ではメヒルギはメヒルギI型⟶メヒルギII型⟶メヒ
著者
五十嵐 由紀 緒方 茂樹
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学教育学部障害児教育実践センター紀要 (ISSN:13450476)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.109-123, 2001-03-31

本研究では、特に知的障害特殊学級に在籍する自閉的傾向を伴う知的障害児の事例について、教科としての音楽の枠組みにとらわれずに、学校生活全般にわたる各場面で音楽を活用した取り組みを行った経過とそれに伴う子どもの発達についてまとめ、事例を通して障害児教育における「音楽を活用した取り組み」の有効性について検討を加えた。小学校1年生から本児を実際に担当した2年間の取り組みの内容から、音楽や歌遊ぴを活用した取り組みを続けることで、自閉的な傾向をもつ知的障害児の全般的な発達を促すことができた。すなわち、歌に含まれる歌詞の意味を少しずつ理解することで、ある程度他人の気持ちを理解できるようになり、その結果として対人関係の改善がみられた。また当初は覚えているだけで言葉として理解されていなかった歌詞の内容が、教師との歌遊びを通じて有意味なものに変化するなかでコミュニケーション能力の発達が促され、場に応じた言葉の使い方などを身につけることができた。その他にも算数や図工の教科の時間に、数や色の概念を含んだ歌を歌いながら指導することで教科の内容の理解が進んだ。本児は歌を歌うことにきわめて大きな興味・関心を示す特異的な事例であったが、自閉的な傾向を伴う知的障害児に対する音楽を活用した取り組みの有効性が示されたと考えられる。
著者
金城 政勝 東 清二
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.311-316, 1991-12-04

1. 西表島に分布する8属9種のセミの分布を種ごとに図示した。ヤエヤマニイニイの分布は,リュウキュウマツの分布と重なることが多い。リュウキュウクマゼミは島の周縁部の林や,里山に生息する平地性のセミである。ヤエヤマクマゼミ,イワサキヒメハルゼミ,タイワンヒグラシの3種は,里山から内陸部の林地に見られ,イシガキヒグラシは内陸部の原生林のみに見られた。イワサキゼミは各地に見られる広域分布型であり,ツマグロゼミの分布域は狭いようである。イワサキクサゼミは道路沿いのイネ科草地の種である。2. 西表島では,3月から12月までの10ヶ月間,いずれかのセミが見られ,7,8,9月の3ヶ月に発生する種の多いことがわかった。西表島のセミの出現期を沖縄の他の種と比較すると,出現期の遅れる種があることがわかった。3. 1988年9月12日,船浦において5種のセミの発音日周活動を調査し,その結果を示した。
著者
翁長 謙良
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.111-209, 1986-12-05
被引用文献数
10

農地における土壌侵食現象に関しては国の内外を問わず古くから大きな社会問題とされてきた。侵食の機構やその対策に関してはこれまでも世界各地で多くの研究があるが, 各地域によって侵食要因の特性が異なり, その間に普遍性は見出せない。これは侵食量に影響をおよぼす各因子が複雑に錯綜するので, 定量的把握は困難であることによる。したがって侵食度の高い沖縄地方においても現地に即した研究が必要である。本研究は沖縄島北部地方の降雨侵食の要因についての実態調査に基づく実証的研究である。まず沖縄島北部地方における侵食の概況について記述する。沖縄島の地形, 地質を概観すると, 中南部は緩傾斜地であるが, 北部は山岳地帯でミクロ的には傾斜地が多く, 谷密度が高い。従って降雨による表流水は速やかに河海に達する。また土壌は, 受食性の高い赤・黄色土が卓越しており, 降雨量も中南部より多く, 年雨量の平均が約2,300mmである。このような自然条件の下で区画の大きい農地を造成する際は改良山成工が採用されるので土壌の大量移動が伴う。従って土壌構造が破壊され, 脆弱化され, 降雨による分散, 表流水の運搬に対する抵抗性が弱くなる。しかも, 受食性作物とされるパイナップルが植栽されているので侵食は益々受け易くなる。以上のように沖縄島北部地方は降雨による土壌侵食性のポテンシャルが高い。このことを現場における実態調査結果から要約するとつぎのとおりである。農地の造成中は, 砂防施設等の滞砂や濁水浄化の機能が十分に発揮されてなく, 大量の土砂が河川や沿岸に流失し流域環境の悪化を招いている。河川の中流域で浮遊土砂量を観測した結果, 1雨(97mm)で100トン余に上る土砂量(乾燥重量)が流亡した事例があり, 造成初期の畑地において, 600mmの雨により, 2haの圃場から433m^3の土砂流亡が観測され, 造成後やや落着いた農地からでも5ケ月間で1,000mmの雨量によりその表土層が1.1cmも侵食される事例もある。さらにパイナップル畑での流出水の濁度観測では濁度のピークが10,000ppmにも達することも認められ, 土壌侵食はかなり顕著に出現している。侵食の実態調査結果からこのような現象を出現させる要因を検討すると, 人為的作用によるほかは, 主として土性, 降雨, 傾斜要因であることが考えられたので, これらの要因についての解析結果をつぎに述べる。(1)土性 沖縄地方は湿潤亜熱帯のアジアモンスーン地域に位置している。それ故その地域の気候を反映して本土と異なる特殊な土壌(赤黄色土 : 国頭マージ)が分布している。中でも沖縄島北部や石垣島, 西表島などではこの種の土壌が卓越している。国頭マージは沖縄県の国頭(北部)地方に分布する赤い土という意味の沖縄方言による呼称であるが, 土壌の大分類では赤色土・黄色土とされている。細分類としては13の土壌統に区分され, それぞれの特徴づけがなされているが, 造成・整備農地ではその性質が異なる種々の土壌が混在している場合が多い。したがって物理性の記述に関しては国頭マージとして扱った。この土壌の侵食に関与する2,3の物理性について広範な調査に基づき, 粘土含有量, 団粒化度, 分散率, 浸入能を検討すると次の結果が得られた。1)粘土含有量は9.0∿58.5%の広い範囲にまたがっており, 土性が砂土から植土まで多岐にわたっている。2)沖縄の主要な土壌について団粒化度を調べた。その結果島尻マージ(暗赤色土)10試料中, ジャーガル(灰色台地土)8試料中については団粒化度80%以上のものがそれぞれ9試料, 6試料であったのに対し国頭マージは35試料中わずかに7試料であり, 耐水性団粒が極めて少ないことがわかった。3)分散率について, わが国の基準にしたがって分類すると, 分散率が40以上の受食性域にある土壌は国頭マージ, ジャーガル, 島尻マージでそれぞれ, 34試料中16,13試料中4,22試料中2であった。4)浸入能について本州土壌のそれと比較すると浸入の初期においては大差はないが時間の経過につれて小さくなり, ベーシックインテークレートはかなり低くなる。なお4時間後の浸入能を比較すると国頭マージ(4試料)では7mm/h∿95mm/hの範囲にあるが本州土壌(5試料)では81mm/h∿360mm/hの範囲にある。また現地裸地圃場での散水インテークの試験結果では畑面勾配が3°, 降雨強度65mm/hのとき耕起, 不耕起別の浸入能は散水開始後それぞれ, 17∿18分, 12∿13分で, 降雨強度以下になり表面流出が見られた。さらにパイン畑では9mmの雨でも大量の流亡土が観測されるなど, 圃場条件によってもかなりの差があることが認められた。以上によりこの地方のとくにパイナップル畑では土壌の受食性が高いことが明らかになった。(2)降雨エネルギー 降雨の侵食能力はそのエネルギーである。このエネルギーは雨滴の分布型と降雨強度に左右され, 当然, 地域特性をもつものである。沖縄の降雨に関して約12万個の採取雨滴の
著者
小野沢 あかね
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1 戦時戦後の廃娼運動・売春反対運動・売買春の実態に関して、以下の史料収集・調査・執筆準備を行なった。(1)戦時売春問題・廃娼運動に関して、昨年に引き続き群馬県立図書館などで史料収集を行なうと同時に、『廓清』『婦人新報』などの戦前雑誌から関係史料を抽出・入力し、論文執筆の準備を行なった。戦時労働力動員を背景とした売買春の実態と戦後への連続性、新体制下の遊興取締の実態、廃娼運動の担い手と方面委員制度・社会福祉・国民精神総動員運動・大政翼賛会・優生学との関係、戦時における廃娼の主張の地域社会への拡大の回路などに関して新たな知見を獲得しつつあり、論文の構想を深めている。(2)戦後の沖縄県における売買春の実態に関して、バーの元経営者、元ホステスなどからの聞き取り調査を行なうと同時に、新聞史料調査を行なった。2 戦間期の廃娼運動・公娼制度政策に関して、以下の論文を執筆、学術雑誌に掲載した。「公娼制度廃止問題の歴史的位置-戦間期日本における勤倹貯蓄と女たち-」『歴史学研究特集 性と権力関係の歴史(I)』764号、2002年7月、2〜12頁。3 「女性史研究の運動と方法-1950〜60年代の可能性(仮)」というタイトルの論文執筆をすすめている。本稿は『展望日本歴史1 歴史学の現在と未来』東京堂出版(近刊予定)に執筆依頼されたものだが、近年の女性学研究が完全に見落としている1950〜60年代における日本の女性史研究の問題意識とその可能性を論じたものである。
著者
野瀬 昭博
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-70, 1986-12-05
被引用文献数
1

パインアップルは, 沖縄においてサトウキビにつぐ主幹作物のひとつである。当作物は, Crassulacean acid metabolism(CAM)植物に属する数少ない作物のひとつでもある。CAMとは, 高等植物に認められる3種類の炭素固定経路のひとつで, そのCO_2吸収が夜間に行なわれることなどから, 乾燥地適応型の炭素固定経路として知られている。当経路はC_4光合成の発見にともなって注目され始めたもので, 光合成経路として研究され始めたのは1970年代になってである。パインアップルも含めたCAM植物の物質生産機構については, 不明な点が多く残されている。CAM植物の生産性は一般に低い状態にあるが, パインアップルは通常の作物に匹敵するような高い生産性を示す植物である。本研究においては, 植物の物質生産において最も基本的な現象である, 光強度とパインアップルのCAM型光合成の関係についてとりあげた。この光強度とCAM型光合成の関係は, 以下に述べる研究の基本的な手段として組み入れた。次に, 日長とCAM型光合成の関係をとりあげ, 日長と日射量の両面から光環境の問題に検討を加えた。CAM型光合成は, 乾燥地適応型炭素獲得系と考えられることから, 土壌水分条件とCAM型光合成の関係について調査した。また, 近代農業技術の基本ともいうべき窒素栄養の問題をとりあげ, 根圏と葉内の窒素濃度がCAM型光合成に及ぼす影響を調査した。さらに, パインアップルのCAM型光合成における炭素フローとその基本的な制御機構について考察を加えたのち, パインアップルの物質生産の制御とその限界について論じた。最後に, 沖縄におけるパインアップル栽培について, 本研究の成果に基づき物質生産の観点から, 日射環境に重きをおいて検討を加えた。本研究で得られた結果は以下のとおりである。1.明期の光強度とCAM型光合成の関係 1)明期の平均光強度が上昇すると, 明期におけるCO_2放出速度が小さくなり, CO_2放出期間(phase 3)も短くなった。さらに, 明期の後半(phase 4)のCO_2吸収と, 暗期の(phase 1)のCO_2吸収速度も増大した。その結果, 1日のCO_2収支は, 明期の平均光強度が30∿40klxに達するまで, 光強度の上昇に伴い増大し, その後に定常値に達した。2)昼の日射量の増大は, 昼の終わりの葉内のリンゴ酸レベルを低くし, 夜の終わりのリンゴ酸レベルを高くするような様式で, リンゴ酸の日変化に影響を与えた。昼のリンゴ酸消失速度は, 100∿150cal/cm^2/5hの日射量の下で定常値に達した。夜のリンゴ酸蓄積量の増大は, 昼の日射量の上昇とともに生じた。しかし, 本研究の範囲では, 上限値を認めることはできなかった。昼のリンゴ酸消失速度が定常値に達した100∿150cal/cm^2/5hという日射量は, 平均20∿30klxの照度に対応し, CO_2交換の実験室内で得た飽和光強度とよく対応した値であった。2.日長がCAM型光合成に及ぼす影響 パインアップルのCAM型CO_2交換は, 短日条件下で活発になった。短日条件下においては1日のCO_2収支が増大し, この増大はphase 1のCO_2収支の増大を通して行なわれた。長日条件下においては, phase 4でのCO_2吸収速度が活発になったが, 1日のCO_2収支は低下した。短日条件下におけるCO_2吸収の増大は, phase 1における葉内のCO_2固定能力の増大に由来していることが明らかになった。3.土壌水分がCAM型光合成に及ぼす影響 パインアップルは, 他の植物では萎凋を生じ枯死にいたる, 初期萎凋点や永久萎凋点の土壌水分下でも, 正のCO_2収支を示し, 極めて耐乾性にとんでいることが認められた。水利用効率を表す蒸散比も, 20∿150と小さく, 水利用効率の高さも明らかになった。しかし, 1日のCO_2収支の最大値は生長有効水分域(pF2∿3)で得られ, パインアップルの生育を旺盛にするためには, 適当な土壌水分の維持が必要であることが明らかになった。4.窒素栄養がCAM型光合成に及ぼす影響 根圏の窒素濃度を277ppmに維持したとき, 1日のCO_2収支は最大となった。1日のCO_2収支は, 葉身の全窒素含量, 可溶性タンパク, クロロフィル含量と正の有意な相関を示していた。また, 1日のCO_2収支に占めるphase 1のCO_2収支割合, つまりCAM性も葉身の全窒素含量と正の有意な相関を示していた。窒素栄養の改善にともなうCO_2収支の増大は, phase 1のCO_2収支の改善を通して行なわれることが明らかになった。5.パインアップルの物質生産の制御とその限界 CO_2収支からみたパインアップルの物質生産の改善の方向は, そのCAM型炭素フローの特性から, phase 4のCO_2収支の増大を通して成されるべきであろうと推論された。CAM性を指標にして, 環境要因がパインアップルのCO_2収支に及ぼす影響の仕方を整理したところ, 仮定のとおりCAM性の低下を通してCO_2収支の改善にかかわる環境要因と, 逆にCAM性の強化を通してCO_2収支の改善にかかわる環境要因の2種類に, 環境要因の影響は類別できるものであった
著者
喜納 育江
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度は、前年度に調査、収集した資料をもとに、19世紀アメリカにおけるアメリカ先住民女性の作家として、いかにして当時の白人中心的イデオロギーと折衝する言説を作り出しているかという点を検証の中心課題とした。特に、本年度においては、米国国会図書館の特別資料閲覧室で収集した19世紀から20世紀にかけてアメリカの大衆文化の中心的役割を果たしたダイムノベル(Dime Novels)に関する資料から、ダイムノベルが、モーニングドーブの文学的創造性にどのように関わっているかに着目した論文を作成することに専念した。ダイムノベルとは、印刷と流通のシステムの近代化による文化の物質的な変容によって誕生したいわゆる三文の大衆小説であるが、量産され、大衆化される文学の中で作り出される言説は、同時に、そこで好んで描かれた西部やアメリカ先住民などのイメージをステレオタイプ化する大衆の意識を形成するプロセスにも加担していた。白人文化の優勢の結果として形成された大衆意識に対し、拙論文では、まず、ダイムノベルによって作り出されたアメリカ先住民の大衆的イメージとは具体的にどのようなものであったかを示し、次に、社会的他者の作家であるモーニングドーブにとって、そのようなステレオタイプに抵抗する意識が、小説の定義する問題とヒロイン像決定の重要な背景になっていたことを究明した。以上の成果を、「ダイムノベルと20世紀初頭の大衆的イメージへのモーニングドーブの文学的抵抗(“Dime Novels and Mourning Dove's Literary Resistance to Turn-of-the-Century Mass Images")」と題し、1998年10月にカナダ、アルバータ州で開催された西部文学会(米国)とカナダアメリカ研究学会の合同学会で口頭発表した。
著者
田村 公子
出版者
琉球大学
雑誌
留学生教育 : 琉球大学留学生センター紀要 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.23-39, 2005-03

本稿では,宮沢賢治が「法華経」に帰依するきっかけとなったものは,島地大等著『漢和對照妙法蓮華經』であることを主張する。具体的には,以下のことを指摘する。(1)大等の「大乗起信論」講義と『漢和對照妙法蓮華經』の解説が,賢治を「法華経」に開眼させた。(2〜6節)(2)『漢和對照妙法蓮華經』の解説中の日蓮への言及が,賢治に日蓮への関心を抱かしめた。(8節)(3)その結果,「浄土門」への懐疑が生じ,日蓮の「唱題」を選ぶようになった。(7節)(4)大等と賢治の「大乗起信論」の理解の仕方に相違がある。(9節)