- 著者
-
川中 宣太
- 出版者
- 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2010
近年、PAMELAやFermiなどの観測を機に、宇宙線の電子・陽電子成分の起源とそのスペクトルの特徴を理論的に調べる研究が急速に進展している。申請者らは、もし超新星残骸において宇宙線が加速されているとすれば、その近傍に分子雲のような密度の高い領域があった場合、宇宙線陽子とガスとの相互作用によって陽電子が生成されるはずということに着目した。この陽電子が分子雲中で充分に冷却された場合、電子と対消滅する際に511keVライン光子が出ることが期待される。我々はこのライン光子の強度をFermiでガンマ線が確認されているような超新星残骸と分子雲について評価し、将来の観測で充分見える可能性があることを指摘した(Ohira et al. 2011a submitted)。このラインが見つかれば超新星残骸において陽電子がどれほど生成されているかを確実に知ることができると考えられる。また、我々は超新星残骸において加速された電子がどのように星間空間に逃走するか、その電子が作る放射スペクトルがどのような形になるかについても、加速中の放射によるエネルギー損失の影響も考慮に入れて調べた(Ohira et al. 2011b submitted)。これにより、宇宙線電子・陽電子源の有力な候補として考えられている超新星残骸から実際にどの程度電子が逃走できているかを知ることが可能になったと言える。また、超新星残骸とは別にガンマ線バースト(GRB)も宇宙線電子・陽電子の源として有力な候補とされている。このGRBが示す激しい光度変動は、相対論的なジェット中で起こる内部衝撃波で電子が非熱的な加速を受けたためと考えられているが、内部衝撃波が起こるようなジェットの非一様性の起源についてはまだ分かっていない。我々はGRBの中心エンジンとして星程度の質量のブラックホールとそれを取り巻く星程度の質量の高温降着円盤を考え、特にこれまで考えられていなかった円盤中の対流による円盤構造の変化について詳しく調べた。その結果、比較的低い質量降着率において円盤に不安定なブランチが存在することを示すことが分かった(Kawanaka & Kohri 2012)。この不安定性により円盤から駆動されるジェットの内部に非一様性が生まれたと考えられ、GRBの激しい光度変動に繋がったという仮説が成り立つ。