著者
川井 彩音 熊谷 道夫
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

1. はじめに ミクラステリアス・ハーディは近年琵琶湖で発見された外来種のプランクトンであり2016年に琵琶湖で大発生し、2017年には小康状態となったが、2018年には再び大増殖した。 ミクラステリアス・ハーディは緑藻類ホシミドロ目ツヅミモ科ミクラステリアス属に位置付けられる。2つの半細胞で構成され、中央部に深い切れ込みがあり、この半細胞の側裂部は6本に見えるが大きく分けると3組の椀状突起からなっている。琵琶湖でもよく見られるミクラステリアス・マハブレッシュワレンシスと比較するとやや椀状突起が細くて、長いのが特徴である(一瀬諭 2016)。 これまでにミクラステリアス・ハーディの形状(大きさの計測)・鉛直分布(クロロフィルa濃度)・沈降速度について調べてきた。ミクラステリアス・ハーディが急激に増えたのは、近年の水温上昇と関連があるかもしれないと考えたので、本研究ではミクラステリアス・ハーディの水温依存性について培養実験を行った。2. 方法 キャピラリーを用いて試験管にミクラステリアス・ハーディを10個体ずつ入れ、その試験管を水温の違う水槽に入れ、1日おきに5回、全体で10日間の計測を行った。試験管の水には琵琶湖の水を100㎛でろ過したものを使用した。さらに、水槽ろ過装置を用いて水槽内に穏やかな水の動きを発生させ試験管を常時小さく揺らし続けた。◎準備したもの水槽3つ、試験管15本、試験管立て3つ、温度計、ミクラステリアス・ハーディ150個体、水温コントローラー2台、水槽ろ過装置3つ、キャピラリー琵琶湖の水1.5L(100mL×15本)、顕微鏡(実体顕微鏡・光学顕微鏡)3. 結果 ・2日目…室温:10個体 25℃:14個体 30℃:10個体 ・4日目…室温:14個体 25℃:27個体 30℃:18個体 ・6日目…室温:43個体 25℃:28個体 30℃:22個体 ・8日目…室温:28個体 25℃:12個体 30℃:22個体 ・10日目…室温:12個体 25℃:21個体 30℃:108個体 2日目から4日目にかけて25℃が14個体、27個体と順調に増え続けていたが、6日目に室温(18℃)が14個体から43個体と急激に増加した。30℃では8日目までは他の水温に比べて大きくは増殖しなかったが、10日目に大きく増殖した(8日目との個体差86個体)。また、クンショウモの仲間がとても多く増殖していた(20ml中に1047個体)。室温(18℃)では最初、増加傾向にあったものの6日目を境に減少した。100mlのサンプル1本を計測するのに3時間程度かかり、3本を計測しきるのにかなり時間がかかってしまった。4. 考察 ミクラステリアス・ハーディには水温によって増加の傾向が大きく異なる特性が見られることが分かった。ただ、試験管によって栄養の量が少しずつ違い、増殖スピードがずれた可能性があり、個々の試験管の個体数が変化したのかもしれない。30℃の試験管の8日目から10日目に大きく増殖したことから、増え続ける可能性がるため、10日目以降も調べてみたいと思った。30℃の試験管に多くクンショウモが増殖したことから、クンショウモの適性水温に近いのではないかと推測できた。5. 今後の展望 培養実験で個体数が減少するとは予想出来なかったので今後、深く突き詰めたいと思う。さらに、30℃の試験管でクンショウモが大きく増殖した原因を調査してみたい。また、今年は琵琶湖の呼吸ともいわれる全循環が各地点で十分に行われていないので、鉛直分布調査や観察を続け、ミクラステリアス・ハーディだけでなく琵琶湖のプランクトンやそれを取り巻く環境に及ぼす影響について調査していきたい。さらに、観察していく中で稀に見る奇形のミクラステリアス・ハーディの割合も調査してみたいと、とても興味をもった。沈降実験についても新たな実験方法を模索中であり、実験と同時にミクラステリアス・ハーディの体積なども調査できたらよいと思う。