著者
中村 剛也 渡邊 琴文 石川 可奈子 熊谷 道夫 宮原 裕一 犬塚 良平 横田 憲治 小熊 惠二 朴 虎東
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.153-165, 2013 (Released:2013-11-21)
参考文献数
46
被引用文献数
1

2007年の8月から9月に琵琶湖北湖に位置する磯漁港で飼育していたアイガモ30羽のうち22羽が斃死亡した.鳥類斃死の要因として鳥ボツリヌス症も検討したが,ボツリヌス毒素の急性毒性は確認できなかった.磯漁港の水試料からMC-RR,LRが確認され,アイガモ肝臓組織から560 ng g-1 DW(178 ng g-1 FW)という高濃度のMC-LRが検出された.MC-LRは藍藻毒素の中でも特に毒性が高く,肝臓組織含有量は先行研究と比較して高いことから,アイガモの斃死に藍藻毒素MC-LRの高濃度の蓄積が関わっていたことが推察された.本研究は日本において斃死した水鳥遺骸から藍藻毒素MCの蓄積量を示した最初の研究である.
著者
川井 彩音 熊谷 道夫
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

1. はじめに ミクラステリアス・ハーディは近年琵琶湖で発見された外来種のプランクトンであり2016年に琵琶湖で大発生し、2017年には小康状態となったが、2018年には再び大増殖した。 ミクラステリアス・ハーディは緑藻類ホシミドロ目ツヅミモ科ミクラステリアス属に位置付けられる。2つの半細胞で構成され、中央部に深い切れ込みがあり、この半細胞の側裂部は6本に見えるが大きく分けると3組の椀状突起からなっている。琵琶湖でもよく見られるミクラステリアス・マハブレッシュワレンシスと比較するとやや椀状突起が細くて、長いのが特徴である(一瀬諭 2016)。 これまでにミクラステリアス・ハーディの形状(大きさの計測)・鉛直分布(クロロフィルa濃度)・沈降速度について調べてきた。ミクラステリアス・ハーディが急激に増えたのは、近年の水温上昇と関連があるかもしれないと考えたので、本研究ではミクラステリアス・ハーディの水温依存性について培養実験を行った。2. 方法 キャピラリーを用いて試験管にミクラステリアス・ハーディを10個体ずつ入れ、その試験管を水温の違う水槽に入れ、1日おきに5回、全体で10日間の計測を行った。試験管の水には琵琶湖の水を100㎛でろ過したものを使用した。さらに、水槽ろ過装置を用いて水槽内に穏やかな水の動きを発生させ試験管を常時小さく揺らし続けた。◎準備したもの水槽3つ、試験管15本、試験管立て3つ、温度計、ミクラステリアス・ハーディ150個体、水温コントローラー2台、水槽ろ過装置3つ、キャピラリー琵琶湖の水1.5L(100mL×15本)、顕微鏡(実体顕微鏡・光学顕微鏡)3. 結果 ・2日目…室温:10個体 25℃:14個体 30℃:10個体 ・4日目…室温:14個体 25℃:27個体 30℃:18個体 ・6日目…室温:43個体 25℃:28個体 30℃:22個体 ・8日目…室温:28個体 25℃:12個体 30℃:22個体 ・10日目…室温:12個体 25℃:21個体 30℃:108個体 2日目から4日目にかけて25℃が14個体、27個体と順調に増え続けていたが、6日目に室温(18℃)が14個体から43個体と急激に増加した。30℃では8日目までは他の水温に比べて大きくは増殖しなかったが、10日目に大きく増殖した(8日目との個体差86個体)。また、クンショウモの仲間がとても多く増殖していた(20ml中に1047個体)。室温(18℃)では最初、増加傾向にあったものの6日目を境に減少した。100mlのサンプル1本を計測するのに3時間程度かかり、3本を計測しきるのにかなり時間がかかってしまった。4. 考察 ミクラステリアス・ハーディには水温によって増加の傾向が大きく異なる特性が見られることが分かった。ただ、試験管によって栄養の量が少しずつ違い、増殖スピードがずれた可能性があり、個々の試験管の個体数が変化したのかもしれない。30℃の試験管の8日目から10日目に大きく増殖したことから、増え続ける可能性がるため、10日目以降も調べてみたいと思った。30℃の試験管に多くクンショウモが増殖したことから、クンショウモの適性水温に近いのではないかと推測できた。5. 今後の展望 培養実験で個体数が減少するとは予想出来なかったので今後、深く突き詰めたいと思う。さらに、30℃の試験管でクンショウモが大きく増殖した原因を調査してみたい。また、今年は琵琶湖の呼吸ともいわれる全循環が各地点で十分に行われていないので、鉛直分布調査や観察を続け、ミクラステリアス・ハーディだけでなく琵琶湖のプランクトンやそれを取り巻く環境に及ぼす影響について調査していきたい。さらに、観察していく中で稀に見る奇形のミクラステリアス・ハーディの割合も調査してみたいと、とても興味をもった。沈降実験についても新たな実験方法を模索中であり、実験と同時にミクラステリアス・ハーディの体積なども調査できたらよいと思う。
著者
熊谷 道夫 辻村 茂男 焦 春萌 早川 和秀 秋友 和典 永田 俊 和田 英太郎
出版者
滋賀県琵琶湖研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

地球温暖化の進行に伴い、琵琶湖周辺の気温は過去20年間に約1℃上昇した。これは地球全体の平均値より5倍大きい。このような急激な気温上昇は、結果として琵琶湖周辺の気候を単調かつ安定なものに変えつつある。それに伴って、琵琶湖の深水層でも変化が生じている。平均水温の上昇や、溶存酸素濃度の低下、pHの変化、硝酸態窒素の増加、イサザの漁獲量の低下、塩素イオン濃度の上昇などが挙げられる。このような変化の相互相関はまだ明らかではないが、何らかの有意な関係があることが示唆された。琵琶湖深水層における酸素消費速度を高精度ウィンクラー法によって計測した。それによると、酸素消費速度は冬期に最大となり、8〜28μg/L程度で、夏期には減少した。この値は、見かけの酸素消費速度とほぼ同じであった。2001年〜2004年にわたって琵琶湖北湖の深水層で、自記式の酸素計を用いて溶存酸素濃度を計測してきた。2002年の冬は暖冬で、酸素濃度の回復が十分ではなかったので、その年の秋には、溶存酸素濃度が2mg/L以下になった。2003年の冬は寒く雪が多かったので、酸素濃度の回復が十分で、秋の酸素濃度の低下も小さく5mg/L以上であった。このように冬の気温が十分に低ければ、多くの量の酸素が供給されるので、酸素消費速度が著しく大きくならなければ低酸素にはならない。2004年の冬は暖冬で、全循環が2月までずれ込み、飽和酸素濃度も100%まで回復せず、あきらかな全循環欠損が発生した。このことは、秋に酸素濃度が低くなる可能性があるので注意深い観測が必要である。
著者
中西 正己 紀本 岳志 熊谷 道夫 杉山 雅人 東 正彦 和田 英太郎 津田 良平 大久保 賢治
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1993年の琵琶湖の夏は、記録的な冷夏・長雨だったのに対し、1994年は猛暑と渇水に見舞われた。この気候変動は、琵琶湖の微小生物生態系を大きく変化させた。1993年夏の琵琶湖国際共同観測(BITEX)に続いて、1994-1995年夏の本総合研究において、世界に先駆けて実施された生物・化学・物理分野の緊密な連携のもとでの集中観測結果は、琵琶湖の水環境を考える上での最重要部分である『活性中心』としての水温躍層動態の劇的な変化を我々に垣間見せてくれた。特に注目された知見として、1993年、1995年の降雨は、河川からの水温躍層直上への栄養塩の供給を増やし、表水層での植物プランクトンの生産を活発にしたのに対し、1994年は河川水の流入が絶たれたため、表水層での植物プランクトンの生産は低下し、キッセ板透明度も十数メートルと向上した。その一方で、躍層内での植物プランクトンの異常に高い生産が、詳細な多地点・沿直・高密度連続観測によって発見された。この劇的な理学の変化は、湖の生物・化学・物理全般にわたる相互作用として、従来指摘されていなかった新たな機構についての知見の一つである。