著者
吉田 誠 馬渕 浩司 佐藤 克文
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.150-161, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
23

近年琵琶湖では,在来生態系への影響が懸念される外来魚アメリカナマズの捕獲が相次いでいる.しかし,琵琶湖全体での分布の現状は不明で,未報告の捕獲情報もあると推察された.本研究では,本種の過去から現在までの動向を明らかにするため,研究・教育機関をはじめ,釣り人など一般市民の方にも広く情報提供を呼びかけ,琵琶湖における本種の捕獲状況を整理した.また,琵琶湖を含む淀川水系内での本種の分布拡大を予測するため,室内実験により本種の活動可能な水温帯を計測した.提供された情報を集計した結果,過去19年間に計314個体の捕獲が確認された.捕獲地点の大半は,琵琶湖流出部の瀬田川洗堰周辺に集中していたが,一部個体は京都府内の宇治川および木津川,大阪府内の淀川,奈良県内の布目川で捕獲されており,本種が水系内の下流側へ分布を広げつつあると考えられた.琵琶湖北湖では目撃・捕獲例は直近5年で3件と少なかったものの,室内実験で本種が夏季に水温40℃近くでも活動可能と判明し,夏の高水温化が進行しつつある琵琶湖でも,本種の分布拡大に注意が必要である.
著者
三谷 曜子 北野 雄大 鈴木 一平
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.116-122, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
18

北海道周辺におけるラッコは北方四島を除く全域にて,毛皮を目的とした乱獲により姿を消したとされていたが,2014年にラッコの親子が北海道東部(道東)で確認されて以降,徐々に目撃数が増えている.本研究では,道東沿岸域に再定着しつつあるラッコが,生態系に与える影響について定量化することを目指し,ラッコの行動観察による,行動分類と餌生物判別を行い,アラスカ個体群と比較した.ラッコの行動は,陸,および船上から,ある個体を30分間追跡するフォーカルサンプリングを行い,1分ごとに行動を記録した.行動は,採餌,遊泳,毛づくろい,他個体との接触,見回り,休息に分けた.子連れ個体の場合は,子への毛づくろい,授乳についても記録した.採餌していた場合には,潜水時間と海面に持ち帰った餌の同定,及び海面滞在時間について記録した.この結果,同定できた餌のうち,約7割は二枚貝であり,そのほか,ウニやホヤ,カニを食べていることが明らかとなった.餌生物の少ない環境では,潜水時間が長くなると知られているが,個体数の安定しているアラスカ個体群と潜水行動を比較すると,平均潜水時間は半分程度となったため,環境収容力の限界には達していないと推察できる.
著者
石井 信夫 山田 文雄 諸坂 佐利 長嶺 隆 伊藤 圭子
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.295-299, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
9

ペット動物の外来イエネコFelis catusは,わが国でも特に島嶼において,捕食などにより希少野生動物の存続を脅かしており,対策への広範な理解と支援協力が求められている.そこで,ネコ対策が急務である世界自然遺産候補地の奄美大島と徳之島,および東京において議員や行政担当者らとの勉強会や意見交換会を行い,また,東京において2回のシンポジウムを開催した.そのほか,外来ネコ問題に関する翻訳本と分担執筆書籍の2点を発刊した.これらの活動を通じて,普及啓発や情報交換ネットワーク構築が促進できたと評価している.
著者
福島 慶太郎 井上 みずき 山崎 理正 阪口 翔太 高柳 敦 境 優 中川 光 平岡 真合乃 吉岡 憲成 池川 凛太郎 石原 正恵
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.1-13, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
21

西日本でも有数の生物多様性を誇る京都大学芦生研究林内のブナ・ミズナラ天然林では,2000年代に入りシカによる過剰採食が原因で急速に下層植生が衰退した.2006年に防鹿柵で囲んだ集水域,2017年に囲んだ集水域,防鹿柵を設置していない対照集水域の3集水域を対象に,植生・渓流水質・細粒土砂の調査を行い,集水域単位の防鹿柵設置の効果と実用性を検証した.スポット的な植物保全用の防鹿柵に比べ,集水域単位の大面積防鹿柵の設置は,植物保全だけでなく植物-土壌-渓流水一連の生態系全体を保全する上で非常に有効であることが示された.また,2017年柵設置集水域では,2006年柵設置集水域に比べて設置後の植生回復が遅く,生態系機能への影響が長期間継続する可能性が考えられた.2017年柵集水域で回復が遅かった理由として,採食圧の継続によりシードバンクが劣化していたことの他に,シカの侵入を一時的に許してしまったことが挙げられる.柵の経年劣化や,クマの侵入・台風による倒木等で柵が破損することでシカが侵入することを防ぐため,ネットの交換,定期的な柵の見回りや補修を複数の人員が交代して行う体制を整備することができ,集水域スケールの防鹿柵の長期的な維持管理方法を見出すことができた.
著者
木下 豪太 平川 浩文 佐藤 拓真 村上 翔大 成瀬 未帆 米澤 悟
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.11-23, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
19

北海道では国内外来種であるニホンテン(Martes melampus)が分布を拡大しており,在来種クロテン(M. zibellina)の生息域を狭めている.本研究では,現在両種の分布境界となっている石狩低地帯を中心に両種の生息調査を行うとともに,新たなDNAマーカーによる集団構造解析を行った.その結果,石狩低地帯に位置する2 つの丘陵(野幌と馬追)でクロテンの生息を確認し,野幌では両種が2km以内で確認され,境界がほぼ確定できた.本研究で作成したマイクロサテライトを用いて馬追と野幌で収集した糞サンプルのDNA解析に成功した.マイクロサテライトマーカーとMIG-seqにより得られたSNPを用いた解析では,クロテンとニホンテンは遺伝的に明瞭に分けられること,北海道のクロテンは分布の東西で遺伝的な偏りがあることが示された.今後は両種の分布隣接地での生態調査を行うとともに,遺伝的集団構造を踏まえた長期的な分布変化のモニタリングが必要である.
著者
北出 智美 若尾 慶子 Drinkwater Eleanor Outhwaite Willow
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.84-95, 2022-10-14 (Released:2022-10-14)
参考文献数
19

本研究では,両生類の最大の輸入国である米国と日本におけるワシントン条約非掲載種の取引状況を調査し,ペット取引によって存続が脅かされている可能性の高い種・分類群を特定した.米国の輸入記録では267種の非掲載種が特定され,輸入個体数の29%が野生由来,10%が個体数の減少している種であることが明らかになった.日本については,両生類の輸入が近年増加傾向にある中,市場調査で確認された230種(および25亜種)のうち81%が非掲載種,およそ4分の1が保全上の懸念があること(CR/EN/VU/NT)が分かり,亜種も含めた総種数のうち27%の種で野生捕獲個体の表示が見つかった.日本原産の両生類は,39種・亜種で国内販売が確認され,野生捕獲が一般的であることが示されたほか,海外市場でも保全上の懸念のある種が数種特定された.本研究でリスクが特定された種・分類群については,ワシントン条約規制をはじめ,原産国での法的保護や個体群のモニタリングを含む保全策の検討が急務である.
著者
矢後 勝也 平井 規央 小沢 英之 佐々木 公隆 谷尾 崇 伊藤 勇人 遠藤 秀紀 中村 康弘 永幡 嘉之 水落 渚 関根 雅史 神宮 周作 久壽米木 大五郎 伊藤 雅男 清水 聡司 川口 誠 境 良朗 山本 以智人 松木 崇司
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.233-246, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
11

シカの急増に伴う林床植生の食害により国内で最も絶滅が危惧されるチョウと化したツシマウラボシシジミの保全を目的として,a)保全エリアでの実践的な保護増殖活動,b)保全エリア候補地の探索に関する活動,c)希少種保全と農林業との連携に関する活動,の大きく3つの課題に取り組んだ.保護増殖活動では,環境整備やシカ防護柵の増設により保全エリアの改善を試みた他,現状の環境を把握するためにエリア内の林床植生および日照・温度・湿度を調査した.今後の系統保存と再導入のために越冬・非越冬幼虫を制御する光周性に関する実験も行った結果,1齢幼虫から日長を感知する個体が現れることが判明した.保全エリア候補地の探索では,本種の好む環境を備える椎茸のホダ場30ヶ所を調査し,良好な環境を保持した11ヶ所のホダ場を見出した.保全と農林業との連携では,アンケート調査から多くの地権者や椎茸農家の方々は本種の保全に好意的なことや,本種を育むホダ場で生産された椎茸のブランド化に賛成で,協力可能であることなども明らかとなった.
著者
藤田 喜久 下村 通誉 東 和明
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.49-56, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
14

南大東島の洞窟地下水においてダイトウコオイエビ Halosbaena daitoensis Shimomura and Fujita, 2009の生息状況と生態に関する研究を行なった.本研究期間中に南大東島の計13箇所の洞窟(16調査地点)の地下水域にて調査を行った結果,5洞窟(計8調査地点)にて本種の生息が確認された.これらの調査地点のうち,本研究で新たにダイトウコオイエビの生息が確認された洞窟地下水は,4洞窟(7調査地点)であり,本種の分布は南大東島の北部と南部の広範囲に点在する洞穴地下水域に及ぶことが明らかとなった.また,ダイトウコオイエビの生態を明らかにするため,2019年12月~2020年11月までの毎月,南大東島北東部に位置する“洞窟A”において採集調査を実施し,当該洞窟において本種の生息が周年確認できることが明らかとなった.しかしながら,本種の抱卵個体を得ることはできず,本種の繁殖生態については未だ不明である.
著者
小山 明日香 内田 圭 中濵 直之 岩崎 貴也 尾関 雅章 須賀 丈
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.27-35, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
15

霧ヶ峰高原は多くの絶滅危惧動植物の生息地であり,国内有数の観光地でもある.しかし近年ニホンジカによるニッコウキスゲの被食被害が深刻化し,対策として複数の防鹿柵が設置されている.本研究では,亜高山帯半自然草原での防鹿柵設置による生物多様性保全効果を検証することを目的に,植物・昆虫調査およびドローン画像解析を行った.結果,植物の開花種数,開花数および絶滅危惧種の開花種数はいずれも柵内で柵外より多く,チョウおよびマルハナバチの種数・個体数も柵内で柵外より多かった.また,ドローン空撮画像をもとに防鹿柵内外のニッコウキスゲの花数を計測し,防鹿柵による保全効果をより広域で視覚化した.本成果は,防鹿柵の設置が観光資源植物および絶滅危惧動植物を保全するうえで不可欠であることを示している.
著者
今村 彰生 速水 花奈 坂田 雅之 源 利文
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.162-172, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
13

本研究は,環境DNAによりニジマスOncorhynchus mykissの分散ポテンシャルをマップ化し,さらに環境DNAメタバーコーディングにより在来魚群集の生息状況をマップ化することを目的とした.その上で,在来魚群集にとって好適な水系や生息地を抽出し,ニジマスの分散から受けるリスクの大小を視覚化した「ハザードマップ」を作成し,在来魚群集の保全への具体的な指針の提示を目指した.調査地はPNF27期助成での調査地の3地点と29期に合わせて追加した地点の計16地点とした.2018年10月—2019年8月にかけて1ヶ月に1回の環境水の採集を計11回実施しMiFish法によるメタバーコーディングを実施した.その結果,サケ科やコイ科を含め12科36群の魚類を検出した.地点ごとの種数の範囲は12–23種で,フクドジョウBarbatula barbatula,ドジョウMisgurnus anguillicaudatus,ハナカジカCottus nozawaeが全地点で検出され,外来サケ科のニジマスは16地点で検出された.国内外来種であるナマズも2地点で検出された.全体として,ニジマスを除くと在来種の比率は高かった.重点を置いているサケ科については,ヤマメ(またはサクラマス)Oncorhynchus masou sspp.の検出地点が15,アメマス(広義イワナ)Salvelinus leucomaenis sspp.が12,オショロコマSalvelinus malma sspp.が11,サケ(シロザケ)Oncorhynchus ketaが11と,在来サケ科は全地点で検出された.立地条件を加味して調査地点ごとに整理すると,石狩川中流域(旭川市内)でも検出種数は多く,なかでも旭川市の中心の調査地点旭橋では最大の23種が検出された.また,鱒取川やピウケナイ川という石狩川への流入河川と忠別川の調査地点で検出種数が多い傾向が見られたが,石狩川の支流でもオサラッペやノカナンでは検出種数が少なかった.また,忠別ダムの周囲は上流側下流側を問わず,全体として検出種数が少なかった.以上から,忠別ダムの周辺での淡水魚相が劣化傾向にある一方で,忠別川下流および忠別川と石狩川との合流点より下流において淡水魚相が豊かである傾向が示された.ニジマスとの排他的な関係については計画当初の予測に反して検出できず,今後の検討課題である.
著者
木下 豪太 速水 将人 中濱 直之 大脇 淳 喜田 和孝 小山 信芳 Chistyakov Yuri
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.22-34, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
30

アサマシジミ北海道亜種は近年急速に生息域が縮小し,2016年に北海道のチョウ類としては初めて種の保存法に基づく「国内希少野生動植物種」に指定された.本研究では,適切な生息環境の管理方法の模索と集団遺伝学的調査を行った.遠軽町の生息地では,本亜種の保全のための草刈りが実施されている.そこで,草刈りの有無が本種とその資源(食草など)に及ぼす影響を調査した.その結果,本種の幼虫と成虫ともに草刈り区で密度(/m2)が有意に高かった.また,食草であるナンテンハギの開花数も草刈り区で多かった.以上から,草刈りの実施は本亜種の保全に有効であると言える.一方,核ゲノムおよびミトコンドリアゲノムの遺伝的多型に基づく解析により,本亜種は本州・サハリン・大陸の系統とは明瞭に区別できることや,北海道内にも遺伝的集団構造が存在することが確認された.また,本亜種の遺伝的多様度は北海道全体で低く,近年の地域個体群の絶滅によって低下傾向にあることも示された.今後,遺伝的集団構造を考慮した保全管理が推奨される.
著者
杉田 典正 松井 晋 西海 功
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.187-198, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
17

日本ではウミスズメは北海道天売島の海食崖でのみ少数が繁殖する.緊急の保全策が必要にも拘わらず,保護増殖事業は未だ策定されていない.ウミスズメの野外調査が困難なため,保全管理に必要な生態・遺伝情報を得ることができなかったためである.しかし,2016年に営巣地付近で30羽のウミスズメの血液が採取され,天売島繁殖個体群の遺伝的特性の推定が可能になった.ミトコンドリアDNA分析では,天売島個体群とアリューシャン列島個体群は共通のハプロタイプをもっていたが,他の繁殖個体群とはハプロタイプを共有していなかった.この結果は,両個体群は異なる単位で保全管理される必要があることを示している.天売島個体群は,アリューシャン列島個体群と遺伝子流動は活発であり,遺伝的多様性が低いことを示す証拠は無かった.私たちは,天売島個体群の効果的な保全のために,営巣地の保全による管理を提案する.日本近海はウミスズメの越冬場所として重要な海域であり,より広域的な保全管理が必要だろう.
著者
高木 昌興 澤田 明
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.83-93, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
22

本研究は,絶滅が危惧される南大東島におけるダイトウコノハズクOtus elegans interpositus個体群の絶滅リスクを分散させ,北大東島に亜種ダイトウコノハズク個体群を再成立させるための基礎情報を得ることを目的とする.北大東島には,現在,ダイトウコノハズクが生息していないことをプレイバック実験により確認した.南大東島において,狭い区域になわばりが高密度で集中する区域,樹林地に依存しない区域,営巣が不可能だった場所を巣箱により営巣を可能にした区域の特注を解析した.その情報と航空写真,北大東島の現地踏査により,北大東島において潜在的に繁殖可能な区域を定性的に抽出し,繁殖可能なつがい数を推定した.個体群の存続に重要な冬季の餌量を北大東島と南大東島で比較した.その結果,北大東島には49つがいが生息できる可能性があり,主要な餌となるワモンゴキブリ類とアシダカグモ類の生息数は島間で異ならず,冬季にも個体群を消滅させることなく生息し続けることが可能と判断された.
著者
鈴木 紀之 洲合 隼輝 小林 皆登
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.118-125, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
16

ナミテントウは日本国内では北海道から九州にかけて分布しているが,近年になって沖縄本島と石垣島から国内外来種として記録された.南西諸島には近縁種のクリサキテントウが分布しているため,侵入先で競争関係が生じ,在来の群集に影響が出ると懸念される.そこで本研究では,南西諸島におけるフィールドワークにてクリサキテントウの生息環境を調べるとともに,ナミテントウの侵入の程度を調べた.また,形態によって区別できない個体について,遺伝子解析による同定を試みた.南西諸島のクリサキテントウは,本州の個体群と異なり,ガジュマルなどさまざまなニッチを利用していることが明らかになった.また,保管されているサンプルの遺伝子解析をしたところ,ナミテントウの石垣島への侵入が遅くとも2015年までさかのぼることが明らかになった.今後は,さらに安価かつ簡便に種を判別できる遺伝的手法を解析し,ナミテントウの侵入を高い精度で把握していく必要がある.