- 著者
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川北 天華
- 出版者
- 京都大学大学院人間・環境学研究科
- 雑誌
- 人間・環境学 (ISSN:09182829)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, pp.101-114, 2018
Charlotte Brontëの『ジェーン・エア』(Jane Eyre, 1847)は出版当初から傑作として高く評価された一方, 話の展開が不自然, また主人公Janeの行動が不自然で一貫性がないといった批判がなされてきた. 特に, Janeが一度Rochesterの元を去りながら, ある日突然遠く離れた彼の呼び声を聞き, 彼のもとに戻って結婚するという筋書きには反発が多い. これらの批判はJaneの行動原理が正しく理解されていないことに起因する. 本稿では, Janeの行動原理を分析する手掛かりとして, 第12章で彼女が口にする"power of vision"という表現に注目し, このvisionの力こそがJaneの求めるものであり, Rochesterとの結婚がその願望を充足させるという仮説を立てる. ここでのvisionは従来視覚の意味で捉えられてきたが, 本稿ではこれに留まらず, 予示, 想像という別の解釈を導入する. これにより, Janeの行動は一貫して不思議な予示の力に導かれていること, また, 彼女の成長は作者Charlotte Brontëの想像力の表現の発展と呼応していることが示される. JaneがRochesterと結婚するのは, 彼となら彼女が求めていたvisionの共有が叶うからであり, またそれは, 読者とvisionを共有したいという作者本人の欲求に根差すものである.