著者
川岸 弘枝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.170-178, 1972-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
2 3

自己受容及び他者受容は, 対人関係における自己意識 (自己に対する知覚, 感情など) の影響を明らかにするための重要な指標であり, 肯定的態度として測定される。これまでの研究には, 測定スケール, 測定方法, 他者との関係の中に大きな問題点が残されたままになっていた。本研究では, この問題を解決し, 受容について総合的に検討することを目的とし, 主に測度の検討を中心に研究をおこなった。I測定スケールの作製と測度間の関係(1) 多面的に性格を記述する形容詞を選択し, 最終的に141項目からなる受容尺度を作製した。(2) 測定方法としては, 各語について, 社会的に望ましいと思われる語がどのくらいあてはまるか-「社会的受容得点」自己にどのくらい満足しているか-「満足度得点」・個人的に望ましいと思っている枠組みにどのくらいあてはまるか-「個人的受容得点」の3種類の測度について作製した同一の尺度を用いて検討した。その結果, 3測度間に密接な関係が見出されたが, 肯定的態度の基礎としては,「社会的受容得点」がもっとも重要な役割をもつことが明らかにされた。II他者受容との関係と適応についてII-1自己受容と他者受容の関係他者として, 実際に被験者にとって初対面の男女2名に登場してもらい, Iで作製した項目に対して評定を求めた。自己受容各測度との関係を求めたところ, 同性の他者を見る時には, 自己受容得点と関係があるが, 異性の他者を見る時には, 有意な関係がみられず, 性によってちがいが見出された。特に女性の場合, 他者を評定する時, 男性よりも自己に対する態度を反映させる傾向が強いことが示された。II-2適応との関連について自己受容得点の高低と, 他者受容得点の高低とをくみあわせた4つのグループを作り, YGテストの結果から, 特徴を見出そうとした結果, 他者受容の高低とは拘りなく, 自己受容の高い者が適応的, 低い者が不適応の傾向を示し, 防衛的態度を示すと考えられたグループの特徴を明らかにすることはできなかった。将来の課題として, 各個人の評定内容を分析し, 適応理解の手がかりとする研究をすすめる必要があると思われる。