著者
川島 博人
出版者
静岡県立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本申請課題ではヘパラン硫酸の細胞外環境シグナル調節分子としての機能に着目し、その血管内皮細胞における機能解明を目的として研究を行った。具体的には、ヘパラン硫酸伸長酵素遺伝子(EXT1)がloxPサイトで挟まれたEXT1-floxマウスと、Creリコンビナーゼを血管内皮細胞特異的に発現するTie2-Creトランスジェニックマウスを掛け合わせ、血管内皮細胞特異的にヘパラン硫酸を欠損する変異マウスを作製し解析を行った。その結果、この変異マウスは胎生11.5日目以降に致死となることを見いだした。さらに、血管内皮細胞マーカーである抗CD31抗体を用いた胎児のwhole mount免疫染色および、および胎児組織の免疫染色により検討を行ったところ、血管内皮細胞特異的にヘパラン硫酸を欠損する胎児においては血管密度および血管枝分かれ数の顕著な減少が起こることが明らかとなった。また、一部の変異マウスにおいて、出血および浮腫をきたす傾向も認められた。血管新生および血管枝分かれ構造の形成にはヘパラン硫酸結合性を持つことの知られているVEGFやbFGFなどの血管増殖因子のシグナルが必須であることから、以上の結果は、胎児血管内皮細胞に発現するヘパラン硫酸がこれらの細胞外環境シグナル分子の機能調節分子として働く可能性を示唆している。また我々は、マウスの肺組織よりCD31に対する抗体を用いてMACS (magnetic activated cell sorter)により、効率よく血管内皮細胞を精製する方法を確立した。今後はこの方法を用いて変異マウスの胎児より血管内皮細胞を精製し、in vitroにおけるVEGF、bFGFなどの増殖因子に対する増殖反応および血管網形成アッセイにおいてに変化が認められるか否かを検討し、ヘパラン硫酸の細胞外環境シグナル調節分子としての機能をさらに解明したい。