著者
川本 晃平 金澤 浩 白川 泰山
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101846, 2013

【はじめに、目的】 スポーツ選手はスポーツ外傷および障害を予防するために、日々のコンディショニングが必要不可欠であり、その手段の一つとして物理療法が挙げられる。筆者らがコンディショニングに積極的に用いる機器の一つにINDIBA activ(インディバ・ジャパン)がある。この装置の特徴は0.5MHzの周波数を発し、コンデンサーの原理により温熱刺激を発生させるため、皮膚付近にハイパワーの集中照射をせずに、体内深部の組織まで生体刺激を生み出すことができる点である。また骨や腱など抵抗の高い部位に用いるレジスティブモードと軟部組織やレジスティブモードの前処置に用いるキャパシティブモードの2種類のモードがあり、治療目的によってこれらのモードを組み合わせて実施する。筆者らはこの装置を筋緊張の軽減や疼痛の緩和を目的に軟部組織に用いることで、良好な治療成績を得ている。 本研究では、INDIBA activと他の温熱療法とを比較し、軟部組織の筋硬度および筋伸張性への即時効果の有効性を検証することを目的とした。【方法】 対象は、下肢に整形外科疾患のない健常成人男性10名とした。対象の年齢は24.8±1.9歳、身長は170.5±8.7cm、体重は59.8±1.7kgであった。INDIBA activおよびホットパック(Cat-berry、山一株式会社)を用いた2種類の方法と、コントロールを比較した。方法は、ベッド上にて10分間安静腹臥位となり、大腿長の遠位50%部位の大腿二頭筋の筋硬度の評価を軟部組織硬度計 (伊藤超短波株式会社、OE-220)を用いて行った。また大腿二頭筋の伸張性評価として膝関節伸展位における股関節最大屈曲位での他動的股関節屈曲角度(以下SLR)を測定し、その際の大腿二頭筋の伸張痛をVisual Analog Scale(以下VAS)を用いて評価した。評価後、それぞれの方法を20分間実施し、終了後、評価前と同様に3項目の評価を行い、実施前後での各評価項目および各評価項目の変化率の比較を行った。それぞれの方法について、INDIBA activでは始めの10分間はキャパシティブモードを使用し、その後10分間はレジスティブモードを行った。ホットパックでは20分間バンドを用いて大腿部に固定して行い、コントロールは20分間安静腹臥位をとった。実施時の室温および測定時刻を統一し、各施行の間隔は3日以上あけ、順序は無作為にて決定し、1日に1回のみ実施した。また対象には測定2日前より過度な運動は避けさせるようにし、測定時に大腿二頭筋に疲労感がないことを確認した。 統計学的分析にはそれぞれの方法の実施前後の各評価項目の比較に対応のあるt検定を、各評価項目の変化率の比較に一元配置分散分析を用い、危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象にはあらかじめ本研究の趣旨、および測定時のリスクを十分に説明したうえで同意を得た。本研究は、医療法人エム・エム会マッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号MRH120015)。【結果】 それぞれの方法の実施前後での各評価項目について、ホットパックおよびINDIBA activでは3項目全てにおいて実施前後で有意に改善がみられた(p<0.01)。コントロールでは筋硬度およびVASにて有意に変化がみられ(p<0.05)、SLRは変化がみられなかった。変化率について、筋硬度ではINDIBA activがホットパックおよびコントロールに比べて有意な低下がみられた(p<0.01)。またホットパックがコントロールと比較して有意に低下した(p<0.05)。SLRでも同様にINDIBA activがホットパックおよびコントロールに比べて有意な改善がみられ(p<0.01)、ホットパックがコントロールと比較して改善がみられた(p<0.01)。VASについて、INDIBA activがコントロールと比較して有意に改善がみられたが(p<0.01)、INDIBA activとホットパックおよびホットパックとコントロールでは差はみられなかった。【考察】 本研究では、2種類の方法による筋硬度および筋伸張性の即時効果の比較を行った。温熱療法によって軟部組織の温度が上昇すると粘弾性が低下し、軟部組織の伸張性が増加することから(鳥野、2012)、今回の結果より大腿二頭筋に対して十分な温熱刺激を与えることができたと考える。特にINDIBA activでは筋硬度およびSLRがホットパックとコントロールと比較し、有意に改善した。このことからINDIBA activ は2種類のモードを組み合わせて温熱刺激を加えることで、ホットパックと比較して筋硬度および筋伸張性が改善したことが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 臨床で各種物理療法を行う際は、即時的な効果が期待できることが重要である。今回の研究よりINDIBA activが一般的に温熱療法として多用されているホットパックに比べ、筋硬度およびSLRを有意に改善させることが示されたことから、特に筋緊張の軽減やストレッチの前処置などに有用な手段の一つになると考える。