著者
川村 小千代 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.81-95, 2022-03-20 (Released:2022-03-25)
参考文献数
54

目的:高齢者福祉施設の介護職者には,強いストレスがあることが指摘されている.近年,労働者のポジティブな心理的側面に焦点をあてた概念のひとつとして,ワーク・エンゲイジメントが注目されている.本研究では,職場グループでのポジティブな出来事の筆記と読み上げが施設の介護職者のワーク・エンゲイジメントの向上と職業性ストレスの軽減を図る方策として有用かどうかを検討した.なお,本研究は,UMIN臨床試験登録システムに登録(UMIN30333)して開始した.対象と方法:参加者は,和歌山県の7指定介護老人福祉施設に勤務する介護職者173名のうち研究参加に同意した13グループ57名(参加率32.9%)であった.介入方法は,介入群と対照群の2群2期のクロスオーバーデザインとした.対象者の割り付けは,各施設代表者が施設内で勤務する介護職者で,2群が同人数になるようにグループ単位で群分けをし,研究者で全体のグループ数と人数が同一になるように2群に分けた.介入群は,個人が就業中筆記のできる時間にポジティブな出来事を筆記した.さらに,グループで朝礼の時間などを使用してポジティブな出来事を読み上げた.対照群は通常どおり勤務した.A群(24名)は第1期に,B群(33名)は第2期に筆記と読み上げを行った.実施期間は,それぞれ8週間であった.質問紙は施設代表者に手渡した.参加者は記載した質問紙を封筒に厳封し,施設内に設置した回収袋へ投函した.調査項目は,ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度日本語版(以下,UWES),職業性ストレス簡易調査票(以下,BJSQ),属性であった.介入量の指標として個人がポジティブな出来事を筆記した個数,読み上げを聞いた回数とした.筆記した個数,読み上げを聞いた回数は介入終了時に尋ねた.さらに,介入群と対照群の得点の変化量に有意な差を認めた項目では介入中における得点の変化量と介入量との関連を検討するために,重回帰分析を行った.結果:参加者が介入中に筆記したポジティブな出来事の合計は318個であった.筆記された語句を抽出すると,「ありがとう」「嬉しい」,「笑顔」の言葉が多かった.個人が介入中に筆記した個数の中央値は3個(四分位範囲1個–5個)であった.読み上げを聞いた回数は,「ほとんどなかった」と回答した者が22名(38.6%)であった.介入群と対照群の得点の変化量に有意な差を,UWESの没頭で,BJSQの仕事のコントロール,働きがい,家族・友人のサポートで認めた.重回帰分析の結果,筆記した個数は,UWESの没頭の得点の変化量と,BJSQの働きがいの得点の変化量とに関連を示した.読み上げを聞いた回数はいずれの項目にも関連を示さなかった.考察と結論:就業中にポジティブな出来事の筆記をすることは,没頭を高め,働きがいを改善する可能性がある.職場グループでのポジティブな出来事の筆記と読み上げは,介護老人福祉施設の介護職者におけるUWESの没頭とBJSQの働きがいの向上を図る方策のひとつであることが示唆された.
著者
川村 小千代 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.B14015, (Released:2015-04-07)
被引用文献数
2 1

目的:「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」が新たに創設された.この制度によって家族の負担は減少するが,このサービスを提供する介護職者の負担は増加する.そこで本研究の目的は,このサービスを提供する施設の介護職者の疲労徴候を明らかにするとともに,職場における関連要因を検討することである.方法:無記名の自記式調査用紙を用いて,施設の介護職者96名を対象に調査を行った.質問内容は,蓄積的疲労徴候インデックス,勤務状況,職場における支援,属性であった.解析では対象者を午後6時から午前8時に勤務がある有夜勤者と日勤しかない常日勤者の2群に分け,疲労徴候と勤務状況等との関連を2群間で比較検討した.結果:有夜勤者は47名で,平均年齢42.3歳,平均経験年数は6.0年,前月の訪問介護人数9人(中央値)であった.常日勤者は49名で,平均年齢44.6歳,平均経験年数は5.9年,前月の訪問介護人数9.5人であった.年齢と性別は両者間に有意差を認めなかった.勤務時間とケア内容を除いて,仕事の状況,職場の支援に有意差を認めなかった.両者とも疲労徴候は高く,有夜勤者の身体不調は常日勤者より強かった.仕事の満足,心の健康への教育研修,訪問時の交通安全配慮は両者とも疲労を軽減する要因であった.ここ1年以内に介護の知識・技術を学習した経験,有給休暇のとりやすさは,有夜勤者で疲労徴候と関係していなかった.この点は常日勤者と異なっていた.結論:両者とも疲労徴候に対して対策が必要であるが,有夜勤者に対する対策は常日勤者への対策に加え,さらに有効な対策を探り,実施していく必要がある.