著者
藤野 善久 堀江 正知 寶珠山 務 筒井 隆夫 田中 弥生
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.87-97, 2006 (Released:2006-08-15)
参考文献数
18
被引用文献数
23 30

労働時間と精神的負担との関連についての体系的文献レビュー:藤野善久ほか.産業医科大学公衆衛生学教室―労働環境をとりまく厳しい状況のなか,労働者のストレスやうつ・抑うつなどメンタルヘルス不全が増加していると指摘されている.これに伴い,精神障害等の労災補償に関する請求件数,認定件数ともに著しい増加傾向にある.労働時間,対人関係,職場における支援,報酬などは労働者のメンタルヘルスに影響を与える要因と考えられている.平成16年には厚生労働省が「過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会」報告書を発表し,長時間の時間外労働を行ったことを一つの基準として対象者を選定し,メンタルヘルス面でのチェックを行う仕組みをつくることを推奨した.しかしながら,上で示されたメンタルヘルス対策としての長時間労働の基準は,企業・産業保健現場での実践性を考慮したものであり,労働時間と精神的負担との関連についての科学的な確証は十分に得られていない.一方で,労働時間が様々な労働環境要因,職業ストレス要因と関連して労働者の精神的負担やメンタルヘルスに影響を与えることは,過去の研究からも合理的に解釈できる.そこで本調査では,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連を検討した文献の体系的レビューを行い,労働時間と精神的負担の関連についての疫学的エビデンスを整理することを目的とした.PubMedを用いて131編の論文について検討を実施した.労働時間と精神的負担に関して検討した原著論文が131編のうち17編確認された(縦断研究10編,断面研究7編).それらのレビューの結果,精神的負担の指標との関連を報告した文献が7編であった.また,労働時間の評価に様々な定義が用いられており,研究間の比較を困難にしていた.今回のレビューの結果,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連について,一致した結果は認められなかった. (産衛誌2006; 48: 87-97)
著者
辻 洋志 臼田 寛 高橋 由香 河野 公一 玉置 淳子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.63-71, 2016-03-20 (Released:2016-06-07)
参考文献数
40

目的:現在,日本では少子化に伴う労働力不足を補うために外国人を採用する企業が増加している.米国では移民労働者の労働衛生に関する研究が進んでいるが,日本においてはほとんど報告がない.本調査は,米国における移民労働者の労働衛生の現状と課題,および取り組みを明らかにすることを目的とする.方法:米国誌に掲載された移民労働者の労働衛生に関する先行研究論文をレビューし,米国での移民労働者に対する労働衛生の現状と課題,および取り組み事例の調査を行った.結果:米国では移民労働者の労働衛生は主に健康格差という側面で研究されていた.先行研究レビューにより,健康格差に影響を及ぼすもしくは可能性のある因子は7つに分類された.カッコ内は各因子に対するキーワードを示す.1.職業選択(有害業務,業務上負傷,休業,ブルーカラー,低出生体重児)2.教育(学歴,ヘルスリテラシー,衛生教育),3.文化(配慮,コミュニティー人材),4.環境(劣悪環境,地域差,環境変化)5.アクセス(言語,統計,労災補償,医療保険,受診自粛),6.感染症(結核,エイズ,フォローアップ),7.差別(人種,暴行,ハラスメント).また,共通した課題として移民労働者のデータ不足が指摘された.取り組みの事例調査では企業や地域団体が複数の因子に対して組み合わせて対応することが行われていることがわかった.考察:米国では移民労働者の労働衛生研究が多く行われている.しかし,調査対象である移民労働者のデータが不足していることが課題となっている.先行研究レビューの結果,多くの論文が健康格差を取り上げていた.健康格差に影響を及ぼすもしくは可能性のある因子は7つに分類する事ができ,各因子のキーワードに関連した取り組みが求められていると推察された.取り組みの事例調査では企業や地域団体が複数の因子に対して組み合わせて対応することが行われており,社内外の労働衛生従事者は,7つの因子すべてに着目した柔軟な対応が求められている.日本でも健康格差の原因となりうる因子に関するデータの蓄積および研究の推進と共に,企業や地域の取り組みが喫緊の課題である.
著者
道下 竜馬 太田 雅規 池田 正春 姜 英 大和 浩
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.11-20, 2016 (Released:2016-02-18)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

目的:近年,運動負荷試験中の過剰な収縮期血圧の上昇が将来の高血圧や心血管病の新規発症と関連することが多数報告されている.本研究では,勤労者の職場環境や労働形態,労働時間,睡眠時間,休日数と運動負荷試験中の収縮期血圧の反応との関係について横断的に検討した.対象と方法:某市の健康増進事業に参加した者のうち,安静時血圧が正常であった労働者362名(男性79名,女性283名,平均年齢49.1歳)を対象とした.自転車エルゴメータを使用して3分毎に10–30 wattsずつ漸増する最大下多段階漸増運動負荷試験を実施し,各負荷終了1分前に血圧を測定した.Framingham Studyの基準に準じ,運動負荷試験中の収縮期血圧の最大値が男性210 mmHg以上,女性190 mmHg以上を過剰血圧反応と定義した.また,自記式質問票を用いて,職場の有害環境や労働形態,労働時間,睡眠時間,休日数,通勤時,仕事中の身体活動時間,余暇時の運動時間について調査した.結果:362名中94名(26.0%)に運動負荷試験中の過剰な収縮期血圧の上昇が認められた.有害環境や労働時間,睡眠時間,休日数,通勤時の身体活動時間別による過剰血圧反応発生の調整オッズ比について検討したところ,過剰血圧反応発生と関連する要因は,労働時間が1日10時間以上,睡眠時間が1日6時間未満,休日数が週1日以下であった.労働時間,睡眠時間,休日数を3分割し,それぞれの組み合わせによる過剰血圧反応発生の調整オッズ比について検討したところ,労働時間が長く,睡眠時間,休日数が少ないほど,過剰血圧反応発生の調整オッズ比が有意に高かった.まとめ:本研究の結果より,労働時間が長く,睡眠時間や休日数が少ない勤労者は,将来の高血圧や心血管病発症,過労死防止のため,日常生活や職場,運動負荷時の血圧変動を把握することが重要であると考えられる.
著者
川崎 ゆりか 西谷 直子 榊原 久孝
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.130-139, 2015 (Released:2015-08-20)
参考文献数
36
被引用文献数
2

目的:産業現場ではメンタルへルスの不調を訴える労働者が増加傾向にあるとされ,生産性への影響が危惧されている.しかし,製造業のブルーカラー,ホワイトカラーにおける抑うつに関する調査は十分とはいえない.本研究の目的は特に睡眠状況や生活習慣に注目してブルーカラー,ホワイトカラーの職種別に抑うつと関連する要因を明らかにすることである.対象と方法:製造業A社社員1,963名を対象に,定期健康診断時に同意を得て自記式質問紙調査を実施した.回収できた1,712名(回収率87%)のうち精神疾患の治療中もしくは既往歴のあるものを除いた男性社員1,258名(ブルーカラー674名,ホワイトカラー584名)を分析対象とした.調査票には基本属性,生活状況のほか睡眠状況についてはWHOの「アテネ不眠尺度」,抑うつについては「CES-Dスケール」を用いた.また,生活習慣は健康診断の問診票に記入されたデータを用いて分析した.結果:抑うつがあるとみなされたCES-D16点以上の労働者はブルーカラー,ホワイトカラーともに15.1%で同率であった.アテネ不眠尺度6点以上の不眠者はそれぞれ18.8%,18.3%であった.多重ロジスティック回帰分析で抑うつと有意に関連のみられた要因はブルーカラーでは①「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比:10.93;95%信頼区間:6.12–19.51),②「睡眠で疲労がとれない」(オッズ比:3.36;95%信頼区間:1.85–6.09),③「朝食を週3回以上抜く」(オッズ比:3.10;95%信頼区間:1.42–6.76),④「同居家族なし」(オッズ比:2.08;95%信頼区間:1.05–4.12),⑤「片道通勤時間」(オッズ比:1.01;95%信頼区間:1.00–1.02)であった.ホワイトカラーでは①「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比:14.91;95%信頼区間:7.54–29.49),②「同居家族なし」(オッズ比:2.54;95%信頼区間:1.27–5.09)であった.なお,睡眠時間は両職種に有意差は認められなかった.また,アテネ不眠尺度6点以上の不眠者のうちCES-D16点以上の抑うつ症状がみられたのはブルーカラーで51.6%,ホワイトカラーで53.8%であった.結論:ブルーカラー,ホワイトカラーの両職種ともに抑うつを有する者が同程度にみられ,職種にかかわらず保健対策を行うことが必要であると考えられた.また,抑うつには両職種ともに不眠が最も強く関連していることが明らかになり,職場での抑うつ対策として不眠に注目していくことの重要性が示唆された.職種による生活習慣の特徴と不眠状態に焦点を当てて保健指導に活かすことは意義があると考えられた.
著者
舟越 光彦 田村 昭彦 垰田 和史 辻村 裕次 西山 勝夫
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.235-247, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
34
被引用文献数
4 7

タクシー運転手の腰痛の実態と腰痛に関わる労働要因を明らかにするために, 福岡市内某タクシー事業所の男性運転手を対象に1999年 (n=280名, 以下第1回調査) と2001年 (n=284名, 以下第2回調査) に腰痛と労働実態に関する質問紙調査を実施した. 調査は, 1) 第2回調査時における腰痛の有訴率と腰痛に関わる労働要因についての断面研究と, 2) 第1回調査で腰痛の既往がなく, かつ, 腰痛の訴えがなかった運転手で, 第2回調査時に「最近1年間の腰痛あり」と新規に回答した者を腰痛の罹患例とし, 腰痛の罹患率と腰痛罹患にかかわる第1回調査時点の労働要因について検討した縦断研究である. この結果, タクシー運転手の腰痛の有訴率は45.8%で, 腰痛多発が報告されている他の職業運転手と同様に高率であり, タクシー運転手にとって腰痛が重要な問題であることが示された. また, 2年間の腰痛の罹患率は25.9%と推定された. 断面研究と縦断研究の結果, 腰痛と有意な関連を認めた労働要因は, 「運転席座面 (以下, 座面) の適合性」, 「車両の延べ走行距離」, 「全身振動」, 「職務ストレス」および「タクシー運転手としての乗務経験年数」であった. さらに, 腰痛と「車両の延べ走行距離」の間には有意な量反応関係を認めた. 以上より, タクシー運転手の腰痛に「座面」の人間工学的問題と「全身振動」および「職務ストレス」が関与していることが示唆された. また, 「車両の延べ走行距離」が腰痛に関与しているとの報告例はなく, 「車両の延べ走行距離」が腰痛発症に関与する機序について今後の検討が必要であると考えられた. さらに, 「全身振動」の影響の評価のため, 実車両を対象とした曝露振動の実態把握が必要と考えられた.
著者
森山 葉子 豊川 智之 小林 廉毅 井上 和男 須山 靖男 杉本 七七子 三好 裕司
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.22-22, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
22
被引用文献数
2

単身赴任者と家族同居者における生活習慣,ストレス状況および健診結果の比較―MYヘルスアップ研究から―:森山葉子ほか.東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学―目的:全国に支社を持つある金融保険系企業の男性従業員を対象に,生活習慣,ストレス状況および健診結果について,有配偶単身赴任者と有配偶同居者との比較を行うこととした.対象と方法:2004年の定期健康診断を受診しており,かつ同年に実施した質問票による調査に回答した男性のうち,有配偶であり40代および50代の事務職である3,026名を調査対象とした.質問票の配偶者はいるかとの問いに,「はい」と答えた者を同居群,「はい(単身赴任中)」と答えた者を単身赴任群とした.生活習慣については運動,飲酒,喫煙習慣など12項目を,ストレス状況については,質問票内の職業性ストレス簡易調査票の下位尺度から,活気の低下,イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感,身体愁訴の6項目について喫煙者と非喫煙者を層化してχ2検定で分析した.健診結果についてはBMI,収縮期血圧,拡張期血圧,空腹時血糖,GOT,GPT,γ-GTP,総コレステロール,中性脂肪,HDLコレステロール,赤血球,白血球を用いて,単身赴任との関連を年齢と喫煙を共変量として回帰分析で検討した.結果:単身赴任群は同居群と比較した結果,運動・喫煙・飲酒・食生活・休日日数などの生活習慣が好ましくない者が多く,ストレス状況では喫煙者においてイライラ感と不安感,抑うつ感が高く,健康状況を示す健診結果については,総コレステロール,中性脂肪,白血球数が高かった.結論:本研究は,有配偶単身赴任者において食生活などの生活習慣が好ましくない者が多く,ストレス状況のイライラ感と不安感,抑うつ感が高く,健診結果において脂質関連の数値が高いことを示した.
著者
寶珠山 務
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.187-193, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
42
被引用文献数
7 8

いわゆる過労死は, 医学的な概念ではなく, 過重労働により虚血性心疾患や脳血管疾患など致死的職業性疾病が発症したと判断されて労災補償認定がなされたものを指す. 近年の文献レビューから明らかになったことは, 1) 多くの研究で過重労働は心血管系疾患の発症やリスク因子の増悪を促進することが支持されていること, 2) 過重労働により死亡リスクを直接示した研究報告は今のところなされていないこと, および3) 過重労働による健康障害は労働者の特性により変化し得ることである. いわゆる過労死の最近の認定割合は増加傾向にあり, 1988年度の3.1%から2001年度には20.7%に達したが, これは認定基準の改正と関係があると思われる. 認定基準に盛り込まれた過重労働があるか否かの判断の対象になる期間は, 1987年に示されたものには1週間であったが, 2001年に示された最新のものでは最長で6カ月まで拡張された. 社会学的な分析によれば, 日本の長時間労働は, 労働時間制度だけでなく, 労働に関する社会文化的背景と関係することが指摘されている. 2002年に厚生労働省から発表された過重労働の健康影響の予防対策は, いわゆる過労死の発生予防を目的とした初めての政策であり, 全ての労働者にひと月の残業時間が45時間を超えないように求めたもので, さらに, それが100時間を超えた労働の実態があった場合は, 当該労働者および事業場へ指導が課されることになっている. その政策は全労働者を一律に対象とするPopulation strategyであり, 特定のリスクファクターを有する労働者などを対象にしたHigh-risk strategyではない. その施策の実施にあたって, 弾力性のある活用, 例えば, 高齢労働者や高ストレス状態にある労働者に対し, 職場の生産サイクルと歩調を合わせた管理を強化すること等で, より実効性のある成果が得られるものと思われる. 特に, 産業医や産業看護職などの産業保健専門職は, いわゆる過労死問題の解決への重要な役割を果たし得ると思われ, 政策決定のエビデンスの確立を目指した調査研究への取り組みやさらなる対策への進展にも関与することが期待される.
著者
左達 秀敏 村上 義徳 外村 学 矢田 幸博 下山 一郎
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.67-67, 2010 (Released:2010-04-08)
参考文献数
42

歯磨き行為の積極的休息への応用について:左達秀敏ほか.花王株式会社東京研究所―目的:本研究の目的は,歯磨き行為における積極的休息としての有用性を明らかにすることである. 対象と方法:生理指標としてフリッカー値を,心理指標として主観的アンケートを用いて検証した.まず,17名の健康な若年男女(男性12名,女性5名,平均年齢±標準偏差;22.5±1.5歳,右利き)を歯磨き群と非歯磨き群に無作為に割り当てた後,両群にパソコン上で20分の連続計算課題を実施させた.その後,歯磨き行為を行わせ,その前後でフリッカー値と気分を計測した. 結果:歯磨き群のフリッカー値は,歯磨きをしない群と比べて有意に増加した( p<0.05).一方,気分については,“爽快感”が歯磨きをしない群と比べて有意に増加し( p<0.05),“集中力”,“頭のすっきり感”が増加傾向を示した(p<0.1).また,“倦怠”,“眠気”は,有意に減少した( p<0.01).考察と結論:歯磨き行為による体性感覚刺激や口腔内触覚刺激が総合的に大脳活動を賦活させたと考えられ,また,気分を爽快にする効果が認められたことから,歯磨き行為は,積極的休息として応用できる可能性が示唆された. (産衛誌2010; 52: 67-73)
著者
小松 優紀 甲斐 裕子 永松 俊哉 志和 忠志 須山 靖男 杉本 正子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.140-140, 2010 (Released:2010-06-02)
参考文献数
47
被引用文献数
5 4

職業性ストレスと抑うつの関係における職場のソーシャルサポートの緩衝効果の検討:小松優紀ほか.東邦大学医学部看護学科―目的:本研究は,職業性ストレスと抑うつの関連性における職場のソーシャルサポート(以下サポート)の緩衝効果について検証することを目的とした. 対象と方法:調査方法は無記名自記式質問紙を用いた横断的研究である.対象者は某精密機器製造工場に勤務する40歳以上の男性712名であった.調査項目は,年齢,職種等の属性,抑うつ,職業性ストレス(仕事の要求度・仕事のコントロール),職場のサポート(上司のサポート・同僚のサポート)等であった.職業性ストレスと職場のサポートの測定はJCQ職業性ストレス調査票(JCQ)を用いた.抑うつは抑うつ状態自己評価尺度(CES-D)を用い,得点が16点以上の者を抑うつ傾向とした.職業性ストレス,サポートについては各尺度の得点を中央値で二分し,得点の高い群を高群,低い群を低群とした.職業性ストレスおよびサポートの高低別のCES-D得点の平均値の比較をt検定にて行った.またCES-D得点を従属変数とし,対象者の属性,職業性ストレス,サポート,職業性ストレスとサポートの交互作用項を独立変数として階層的重回帰分析を行った.交互作用が有意であった場合には,年齢を共変量として共分散分析を行い,職業性ストレスの高低別にサポートの高低がCES-D得点に及ぼす効果を検討した. 結果:調査の結果,全対象者のうち抑うつ傾向者は23.2%であった.仕事の要求度の高低別のCES-D得点は,高群が低群よりも有意に高かった.仕事のコントロール,上司のサポート,同僚のサポートそれぞれにおけるCES-D得点は,各低群が高群よりも有意に高値であった.階層的重回帰分析を行った結果,仕事の要求度,仕事のコントロール,上司のサポート,同僚のサポートはそれぞれCES-D得点に対する有意な主効果が認められた.さらに仕事のコントロールと上司のサポートの要因間でCES-D得点に対する有意な交互作用が認められた.また,仕事のコントロールの低い状況でのみ,上司のサポート高群よりも低群のCES-D得点が有意に高値であった. 結論:これらのことから,上司によるサポートは仕事のコントロールの低さと関連する抑うつを緩衝する効果がある可能性が示唆された. (産衛誌2010; 52: 140-148)
著者
吉村 健佑 川上 憲人 堤 明純 井上 彰臣 小林 由佳 竹内 文乃 福田 敬
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.11-24, 2013-02-20 (Released:2013-02-26)
参考文献数
25
被引用文献数
3 2 1

目的:本研究では,職場におけるメンタルヘルスの第一次予防対策の実施が事業者にとって経済的利点をもたらすかどうかを検討することを目的とし,すでに公表されている国内の研究を文献検索し,職場環境改善,個人向けストレスマネジメント教育,および上司の教育研修の3つの手法に関する介入研究の結果を二次的に分析し,これらの研究事例における費用便益を推定した.対象と方法:Pubmedを用いて検索し,2011年11月16日の時点で公表されている職場のメンタルヘルスに関する論文のうち,わが国の事業所で行われている事,第一次予防対策の手法を用いている事,準実験研究または比較対照を設定した介入研究である事,評価として疾病休業(absenteeism)または労働生産性(presenteeism)を取り上げている事を条件に抽出した結果,4論文が該当した.これらの研究を対象に,論文中に示された情報および必要に応じて著者などから別途収集できた情報に基づき,事業者の視点で費用および便益を算出した.解析した研究論文はいずれも労働生産性の指標としてHPQ(WHO Health and Work Performance Questionnaire)Short Form 日本語版,あるいはその一部修正版を使用していた.介入前後でのHPQ得点の変化割合をΔHPQと定義し,これを元に事業者が得られると想定される年間の便益総額を算出した.介入の効果発現時期および効果継続のパターン,ΔHPQの95%信頼区間の2つの観点から感度分析を実施した.結果:職場環境改善では,1人当たりの費用が7,660円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,800円であり,便益が費用を上回った.個人向けストレスマネジメント教育では,1人当たりの費用が9,708円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,920円であり,便益が費用を上回った.上司の教育研修では2論文を解析し,Tsutsumi et al. (2005)では1人当たりの費用が5,290円に対し,1人当たりの便益は点推定値において4,400–6,600円であり,費用と便益はおおむね同一であった.Takao et al. (2006)では1人当たりの費用が2,948円に対し,1人当たりの便益は0円であり,費用が便益を上回った.ΔHPQの95%信頼区間は,いずれの研究でも大きかった.結論:これらの研究事例における点推定値としては,職場環境改善および個人向けストレスマネジメント教育では便益は費用を上回り,これらの対策が事業者にとって経済的な利点がある可能性が示唆された.上司の教育研修では点推定値において便益と費用はおおむね同一であった.いずれの研究でも推定された便益の95%信頼区間は広く,これらの対策が統計学的に有意な費用便益を生むかどうかについては,今後の研究が必要である.
著者
森 晃爾 永田 智久 梶木 繁之 日野  義之 永田 昌子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.145-153, 2013 (Released:2013-10-23)
参考文献数
12

目的:昨今,企業全体で整合性の取れた産業保健活動の展開が必要になってきており,そのためには,活動方針の明確化,活動基準の策定,産業保健スタッフの配置や意思疎通を企業全体で行っていく必要がある.その際,産業保健分野の高度な専門性を有し,統括産業医や総括産業医等(以下,統括産業医)の名称を与えられ,企業全体の産業保健活動をリードする産業医が任命されるようになってきた.しかし,これまで国内において,統括産業医の実態や機能に関する実態調査やそれに基づく検討はまったく行われていない.そこで我々は,統括産業医の機能と企業内での位置づけについての実態を明らかにすることを目的として,実際に大企業において統括産業医として任命されている産業医に対するインタビュー調査を行った.対象と方法:従業員数5,000名以上で,「複数の事業場と複数の産業医が存在する企業において,企業単位での産業保健活動の方針や活動の管理の役割を果たす産業医」を調査対象とし,条件を満たす統括産業医14名にインタビューを行った.インタビューのスクリプトをコード化し,統括産業医として果たしている具体的な機能と企業内での対象者の位置づけについて分析を行った.結果:分析の結果,5つの事項が示唆された.機能としては,1) 統括産業医は産業保健に関する全社的な方針,基準,計画の策定に主体的に貢献していること,2) 産業保健に関する全社方針や基準等は,その実行性を確保するために,事業拠点を統括する本社の事業部門等から出されるとともに,統括産業医が事業拠点の産業医や産業保健スタッフに対して指導や情報提供をしていること,3) 労働安全衛生マネジメントの内部監査や業務監査の一環で実行状況の評価が行われている企業があり,統括産業医が専門的に貢献していること,4) 産業医や産業保健スタッフの会議を主宰するなどの方法で意思疎通を行ったり,基準の技術的事項などについて全社的な研修を行う努力をしていることが示唆された.また,5) 総括産業医が役割を果たすためには,意思決定者である人事担当役員等の職位の経営層に直接または間接的に提案できるような位置づけや関与が重要であることが示唆された.考察:企業全体での整合性が取れた産業保健活動を推進している企業では,企業活動の意思決定や指揮命令等の機能を用いるとともに,統括産業医のもつ産業保健に関する専門的な知識を活用していると考えられた.また統括産業医が,産業保健専門職の確保や意思疎通に大きな役割を果たしていることが考えられた.今後,統括産業医業務の事例収集,統括産業医のコンピテンシーの明確化などを行った上で,研修プログラムの開発と提供が必要と考えらえる.
著者
吉村 健佑 川上 憲人 堤 明純 井上 彰臣 小林 由佳 竹内 文乃 福田 敬
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.E12003, (Released:2012-12-21)
被引用文献数
3 2 1

目的:本研究では職場におけるメンタルヘルスの第一次予防対策の実施が事業者にとって経済的利点をもたらすかどうかを検討することを目的とし,すでに公表されている国内の研究を文献検索し,職場環境改善,個人向けストレスマネジメント教育,および上司の教育研修の3つの手法に関する介入研究の結果を二次的に分析し,これらの研究事例における費用便益を推定した.対象と方法:Pubmedを用いて検索し,2011年11月16日の時点で公表されている職場のメンタルヘルスに関する論文のうち,わが国の事業所で行われている事,第一次予防対策の手法を用いている事,準実験研究または比較対照を設定した介入研究である事,評価として疾病休業(absenteeism)または労働生産性(presenteeism)を取り上げている事を条件に抽出した結果,4論文が該当した.これらの研究を対象に,論文中に示された情報および必要に応じて著者などから別途収集できた情報に基づき,事業者の視点で費用および便益を算出した.解析した研究論文はいずれも労働生産性の指標としてHPQ(WHO Health and Work Performance Questionnaire)Short Form 日本語版,あるいはその一部修正版を使用していた.介入前後でのHPQ得点の変化割合をΔHPQと定義し,これを元に事業者が得られると想定される年間の便益総額を算出した.介入の効果発現時期および効果継続のパターン,ΔHPQの95%信頼区間の2つの観点から感度分析を実施した.結果:職場環境改善では,1人当たりの費用が7,660円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,800円であり,便益が費用を上回った.個人向けストレスマネジメント教育では,1人当たりの費用が9,708円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,920円であり,便益が費用を上回った.上司の教育研修では2論文を解析し,Tsutsumi et al.(2005)16)では1人当たりの費用が5,290円に対し,1人当たりの便益は点推定値において4,400–6,600円であり,費用と便益はおおむね同一であった.Takao et al(2006)17)では1人当たりの費用が2,948円に対し,1人当たりの便益は0円であり,費用が便益を上回った.ΔHPQの95%信頼区間は,いずれの研究でも大きかった.結論:これらの研究事例における点推定値としては,職場環境改善および個人向けストレスマネジメント教育では便益は費用を上回り,これらの対策が事業者にとって経済的な利点がある可能性が示唆された.上司の教育研修では点推定値において便益と費用はおおむね同一であった.いずれの研究でも推定された便益の95%信頼区間は広く,これらの対策が統計学的に有意な費用便益を生むかどうかについては,今後の研究が必要である.
著者
甲田 茂樹 安田 誠史 杉原 由紀 大原 啓志 宇土 博 大谷 透 久繁 哲徳 小河 孝則 青山 英康
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.6-16, 2000-01-20 (Released:2017-08-04)
参考文献数
34
被引用文献数
6 20

運輸労働者の健康問題に影響を与える職業要因を評価するために, 1997年に541名の運輸労働者を対象に労働・勤務条件, 運転労働に係わる職業性要因, 身体の自覚症状や疾病罹患の状況について質問紙法で調査を実施した.有効回答率は85.7%, 134名の集配業務に従事する運転労働者(集配群)と199名の長距離輸送に従事する運転労働者(長距離群), 71名の事務職員を分析対象とした.まず, 三つの群での職業性要因と健康問題を検討するために, 労働・勤務条件や身体の自覚症状や疾病罹患の状況を比較検討した.ついで, 集配群と長距離群における職業要因が健康問題に与える労働関連性を検討するために, ロジステック回帰分析を実施し, オッズ比と95%CIを計算した.健康問題に影響を与える職業要因, すなわち, 不規則交代制勤務, 労働環境, 作業姿勢, 重量物取り扱い, 多い仕事量や長時間労働への不満, 休憩時間の取得困難の要因で, トラック運転労働者の訴え率が事務職に比べて有意に高かった.耳鳴り, 頚の痛み, 腰痛の自覚症状と高血圧, 胃十二指腸潰瘍, 腰背部打撲, むち打ち症, 痔疾の疾患でトラック運転労働者の訴え率が事務職に比べて有意に高かった.ロジスティック回帰分析の結果では, 年齢やBMI, 喫煙習慣を以外の多くの労働関連要因で, 身体の自覚症状や疾病罹患に関する有意に高いオッズ比を認めた.集配群の循環器疾患及び関連した自覚症状に関するオッズ比は, 経験年数, 腰の捻転動作, 振動, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.消化器系疾患及び関連した自覚症状に関するオッズ比は, 狭い作業空間, 車中泊, 長い走向距離, しゃがみ姿勢, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.集配群の自覚症状の耳鳴りに関するオッズ比は, 経験年数, 長時間労働, 狭い作業空間, 車中泊, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.腰痛や頚部痛等の筋骨格系疾患及び関連したに自覚症状に関するオッズ比は, 残業, 振動, 狭い作業空間, 座り姿勢, 少ない休憩時間で有意に上昇していた.疲労症状に関するオッズ比は, 少ない休憩時間, 振動, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.運輸労働者の健康問題を解決するためには, 上記の労働・勤務条件や運転労働に関連した課題を改善する必要がある.
著者
奥野 勉 上野 哲 小林 祐一 神津 進
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.85-89, 2013-05-25 (Released:2013-06-27)
参考文献数
8

目的:ガラス製品を製造する工場では,作業者は,炉,溶融ガラスなどの高温の物体が発生する強い可視光へ曝露される.ブルーライトと呼ばれる短波長の可視光への曝露は,網膜障害(photoretinopahy)を引き起こす可能性がある.本研究の目的は,ガラス製品の製造に伴って発生するブルーライトを定量的に評価することである.対象と方法:クリスタルガラス工芸品を製造する工場において,炉の内部の壁と発熱体,および,炉内に置かれたガラス材料の分光放射輝度を測定した.炉は,2基の再加熱炉,3基の溶解炉,1基の竿焼き炉を調べた.測定された分光放射輝度から,ACGIHの許容基準に従って,実効輝度を計算し,これを許容値と比較した.また,それぞれの光源について,分光放射輝度を黒体の分光放射輝度と比較し,その温度を求めた.結果:測定された実効輝度は,0.00498–0.708 mW/cm2srの範囲にあった.実効輝度は,1,075–1,516 ℃の温度の範囲において,温度と共に急速に上昇した.それぞれの光源の実効輝度は,同じ温度の黒体の実効輝度とほぼ等しかった.考察:炉の内部の壁と発熱体,および,炉内に置かれたガラス材料の実効輝度は,1日の曝露時間が104 sを超える場合の許容値である10 mW/cm2srの十分の一以下であった.したがって,これらの光源を見たとしても,網膜障害の危険性はないと考えられる.ただし,光源の温度が約1,800 ℃以上である場合には,実効輝度は,許容値を超えると推定される.このような高温の光源がガラス製品の製造の現場にある場合には,ブルーライトによる網膜障害の危険性があると考えられる.