- 著者
-
濱舘 陽子
佐々木 吉子
三浦 英恵
- 出版者
- 公益社団法人 日本産業衛生学会
- 雑誌
- 産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.3, pp.95-107, 2019-05-20 (Released:2019-05-25)
- 参考文献数
- 29
背景:東日本大震災の経験を経て,現在首都直下地震への対策が行われている.千代田区は,日本の政治経済の中枢を担い,人口は昼間約82万人,夜間約5万人という特徴から,災害対策は公助には限界があり,自助,共助の取り組みの重要性が示唆されている.そのため企業側は,社員や顧客等の帰宅困難者の安全や安心の確保や,最低限の医療の知識も必要となる.そこで,看護の視点から企業の災害対策について支援ができる内容を検討したいと考えた.目的:本研究は,看護の視点からの企業の災害対策への支援を検討するため,企業の災害対策の趣旨,その対策や具体的な取り組みの実状について,企業の防災担当者が実際にどのように災害対策を実施しているのか,およびその課題を明らかにすることを目的とした.対象と方法:6名の千代田区内の企業の防災対策担当者を対象に,半構造化面接調査を実施した.得られたデータは,質的記述的に分析した.結果:面接内容より,企業における災害対策のテーマ9つが導かれた.各企業は,自社の【災害対策の方針】の下,自助,共助力に応じた対策に取り組んでいた.その背景には,過去の事故や大震災の経験が,【災害対策の改善や向上の契機】となり,防災担当者の努力をはじめとする【災害対策への推進力】にもなっていた.災害対策は,【従業員とその家族の安心安全のための整備】と【従業員と帰宅困難者のための準備】が行われ,それらの災害対策強化のため,【自社の特徴を踏まえた工夫】がなされ,【関連組織との連携協力】も行われていた.現在企業の災害対策は進んでいるが,その一方で,【進まない地域連携】や災害対策を進める上での【防災担当者の苦悩】など,多数の障壁や課題が存在していた.考察と結論:看護職は,防災意識の啓発を含む教育,傷病者や個別性への対応に関する情報提供や教育,防災担当者への心理的サポートの提案,社員の家族の安否確認強化の提案,地域連携における組織間を繋ぐという役割や支援が可能であることが示唆された.