著者
川澄 真樹
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.109-144, 2018

現在,我が国を取り巻く世界情勢はますます混乱してきている。このような中で国家の安全を保護するためにはあらゆる面での情報収集が不可欠である。このような情報収集の中でも電子的監視(通信傍受)は相手方の計画や作戦を秘密裏に補足することが期待でき,対外諜報の場面でも有効な手段となり得る。我が国ではこのような対外諜報目的での電子的監視は議論されることがあまり多くはないが,アメリカ合衆国においては,これらの電子的監視は通常の犯罪捜査における電子的監視よりも緩やかな要件で実施されている。さらにアメリカ合衆国では,このような電子的監視の過程で得られた情報がその後,テロ犯罪やスパイ罪等に対する刑事訴追の証拠として利用されることもしばしばであり,一定の場合,刑事法の執行を対外諜報目的の監視の主目的とすることも可能な余地がある。しかしながら,本来であれば,より厳格な要件の下で収集される犯罪の証拠をより緩やかな要件によって収集し,刑事訴追において利用することを全面的かつ無条件で認めることになれば,従来からの法執行のルールが無意味に帰することになり,不合理な捜索・押収を禁じる合衆国憲法第4修正に反するように思われる。このような対外諜報での監視によって得られた犯罪の証拠を刑事訴追で利用することが認められるのはいかなる場合であろうか。本稿は,このような電子的監視を用いた対外諜報と犯罪捜査の関係につき,アメリカ合衆国の対外諜報活動監視法(Foreign Intelligence Surveillance Act of 1978 以下,FISAという)における電子的監視を実施する際に求められる「相当な理由(probable cause)」要件と「監視の目的」要件からの議論を紹介し,関連判例を検討することで第4修正との関係から検討を加え,我が国の将来の議論の足掛かりとなることを目指すものである。