著者
宮本 恵子 今井 具子 瀬崎 彩也子 川瀬 文哉 下方 浩史
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-7, 2018-12-25

【目的】健康上の問題で、日常生活が制限されることなく生活できる期間を健康寿命という。平均寿命と健康寿命との差は日常生活に制限のある「不健康な期間」である。この「不健康な期間」をできる限り短くすることが日本を始め世界の多くの国で最大の健康政策課題となっている。本研究では国際比較研究から平均寿命と健康寿命の差と、それに影響を与える因子について明らかにすることを目的とした。【方法】国別の健康寿命、平均寿命のデータはGlobal Burden of Disease(GBD) 2015のデータベースを用いた。国連食糧農業機関のデータベース(FAOSTAT)を用い、国民一人当たりのエネルギー供給量とたんぱく質、脂質、炭水化物供給量、そして、それぞれのエネルギー比を求めた。FAOSTAT の食糧供給量は生産から消費者に届くまでの減耗を除いた量であり、家庭での消費量を反映している。国別の教育年数は国連教育科学文化機関統計研究所のデータベースから、喫煙率はGBDのデータベースから、肥満率(BMI ≧ 30)は世界保健機関(WHO)のデータベースから引用した。人口、高齢化率(65歳以上の人口割合)、国内総生産(GDP)と国民一人当たりの医療費は世界銀行のデータベースから引用した。データの揃った人口100万人以上の国131ヵ国を解析の対象とした。国別に平均寿命と健康寿命との差と、差に影響を与える因子について、ステップワイズ法による重回帰分析を行った。分析にはR 3.5.0を用いた。【結果】2015年度のデータでは日本の平均寿命、健康寿命はともに世界一であった。平均寿命と健康寿命との差は平均寿命が長いほど大きかった。しかし、日本の平均寿命と健康寿命との差は9.3年で、世界131ヵ国中60位であった。社会経済的指標、生活習慣などの要因を入れたステップワイズ法による重回帰分析では、肥満率、GDP、エネルギー供給量がこの順で平均寿命と健康寿命との差を大きくする要因となっていた。また肥満率、医療費が平均寿命と健康寿命との差の割合を大きくする要因であり、教育年数、高齢化率が差の割合を小さくする要因であった。【結語】平均寿命と健康寿命との差及び差の割合は肥満と最も強く関連していた。日本は平均寿命、健康寿命が世界で最も長いが、先進国中では肥満率が少なく、このため平均寿命と健康寿命との差が短くなっていると考えられる。
著者
阿部 稚里 今井 具子 瀬崎 彩也子 宮本 恵子 川瀬 文哉 白井 禎朗 眞田 正世 位田 文香 加藤 匠 下方 浩史
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.5, pp.23-29, 2019-12-25

【目的】乳癌は女性にとって主要な癌の一つである。これまでに、乳癌と乳製品摂取との関連がメタアナリシスによって検討されているが、一貫した結論が得られていない。その理由として、食事調査の手法や乳製品摂取量の評価が論文間で異なること、調査地域が限られていることが挙げられる。そのため、乳製品と乳癌の関連をさらに明らかにしていくためには、地球規模で同一手法を用いた乳製品摂取量の調査による研究が必要と考えられる。そこで本研究では、現在公表されている国際データを用い、乳癌と乳製品の関連を地球規模による国際比較研究で縦断的に明らかにすることを目的とした。【方法】乳癌発症率および乳癌死亡率は、Global Burden of Disease( GBD) 2017データベースから各国の10万人当たりの年齢標準化された値を入手した。生産から家計までのすべての段階における減耗を除く、各国の食品供給量と総エネルギー供給量は国連食糧農業機関データベース(FAOSTAT)から入手し、乳製品の供給量を求めた。調整変数として、人口、国民一人当たりの国内総生産(GDP)、高齢化率(以上世界銀行データベース)、平均BMI、喫煙率、教育年数、身体活動量(以上GBD データベース)を入手した。全てのデータが得られた100万人以上の人口を持つ139カ国を対象とし、共変量を調整した線形混合モデルを用いて、乳製品供給量と乳癌発症率および乳癌死亡率との1990年から2013年までの23年間の縦断的関連について解析を行った。解析にはR 3.6.1を用いた。【結果】すべての共変量を調整したモデルにおいて、乳製品供給量と乳癌発症率の間に有意な正の関連があった(β= 7.393、標準誤差1.553、p<0.001)。同様に、すべての共変量を調整したモデルにおいて、乳製品供給量と乳癌死亡率の間にも有意な正の関連があった(β= 2.123、標準誤差0.613、p<0.001)。【結論】乳製品供給量と乳癌発症率および乳癌死亡率が正の関連を示すことを、比較的近年のデータを用いて縦断的に明らかにした。このことから、乳製品を多く摂取する食生活は、地球規模において乳癌発症率や乳癌死亡率を上昇させる可能性が示された。今後さらに、乳製品を低脂肪と高脂肪に分けて解析を行うことが必要である。
著者
眞田 正世 今井 具子 瀬崎 彩也子 宮本 恵子 川瀬 文哉 白井 禎朗 阿部 稚里 位田 文香 加藤 匠 下方 浩史
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.5, pp.15-22, 2019-12-25

【目的】全世界で3 億人以上の人たちが抑鬱状態であり、さらに80万人に近い人たちが自殺によって死亡している。抑鬱は身体障がいの最大の要因である。近年、食事と鬱病との関連が注目を集めており、特に抗酸化物質と抗炎症成分が豊富な野菜類は、鬱病の発症予防に有益な効果を持つ可能性が指摘されている。本研究の目的は、野菜類・果実類の供給量と鬱病有病率との22年間の縦断的関連を国際比較研究で明らかにすることである。【方法】生産から家計までのすべての段階における減耗を除く、各国の食品供給量と総エネルギー供給量を国連食糧農業機関データベース(FAOSTAT)から入手し、食品群分類から野菜類の供給量を求めた。鬱病については、Global Burden of Disease( GBD) 2017データベースから各国の10万人当たりの年齢標準化鬱病有病率を入手した。調整変数として、世界銀行データベースから人口、国民一人当たりの国内総生産(GDP)、高齢化率、失業率、GBD から平均BMI、喫煙率、教育年数、国別の中心経度緯度を入手した。データの得られた100万人以上の人口を持つ137カ国を対象とし、共変量を調整した線形混合モデルを用いて、野菜類、果実類の供給量と鬱病有病率との1991年から2013年までの22年間の縦断的関連について解析を行った。解析にはR 3.5.3を用いた。【結果】野菜類供給量と鬱病有病率との関連の縦断的解析では、すべての共変量を調整したモデルで有意な負の関連が認められた(β = -0.058±0.028、p <0.05)。また、果実類の供給量と鬱病有病率についても同様にすべての共変量を調整したモデルにおいて、有意な負の関連が認められた(β=-0.097±0.036、p <0.01)。【結論】野菜類および果実類の供給量は鬱病有病率と有意な負の関連を示した。豊富な野菜類や果実類を摂取する食生活は鬱病有病率を低下させる可能性が示された。Background and objective: More than 300 million people worldwide are depressed and nearly 800,000 people have died from suicide. Depression is the biggest cause of disability. The association between diet and depression has drawn attention in recent years. Among the dietary factors, vegetables and fruits, which are rich in antioxidants and anti-inflammatory components, were hypothesized to play an important role in depression development. The aim of this research is to clarify the longitudinal association of vegetables and fruits with depression rate using 22-year worldwide statistics.Methods: Average food supply (g/day/capita) and energy supply (kcal/day/capita) by country, excluding loss between production and household, were obtained from the Food and Agriculture Organization of the United Nations Statistics Division database (FAOSTAT). Each food was sorted, and supplies of vegetables and fruits were obtained. Data of age-standardized prevalence of major depression per 100,000 people by country were derived from the Global Burden of Disease (GBD) 2017 database. As control variables, population, gross domestic product (GDP) per capita, aging rate, and unemployment rate by country from the World Bank database, and BMI, smoking rate, expected years of education, and central longitude and latitude by GBD database. The 22-year longitudinal associations of fruits and vegetables with major depression were examined in the 137 countries with populations of 1 million or greater controlling for covariates by the mixed effect model.Results: A significant negative association was found by the longitudinal analysis of the relationship between the vegetables supply and the prevalence of major depression in the model controlled for all covariates (β = –0.058 ± 0.028, p<0.05). In addition, a significant negative association between the supply of fruits and the prevalence of major depression was also found in the model controlled for all covariates (β = –0.097 ± 0.036, p<0.01).Conclusions: Vegetables and fruits supply were significantly negatively associated the rate of major depression. Vegetables and fruits may reduce the prevalence of depression.