著者
北川 元二 安友 裕子 伊藤 勇貴 日暮 陽子 渡會 涼子 若杉 彩衣
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.5, pp.45-58, 2019-12-25

【目的】女子大学生における鉄欠乏性貧血は学校保健上も重要な問題であり、その栄養摂取状況の実態を明らかにし、適切な栄養指導を実施することは、栄養学の分野においても重要な課題である。今回は、過去10年間の本学女子大学生の鉄欠乏状態と栄養摂取状況の実態を明らかにすることを目的とする。【方法】2010年~2019年のN 大学管理栄養学部1 年生の女子大学生1401名を対象に、身体計測、血液検査、食物摂取頻度調査(FFQ)による食事調査、食行動や健康に関するアンケート調査を実施した。【結果】血中ヘモグロビン低値者は88名( 6 %)、血清鉄低値者は243名(17%)、血清フェリチン低値者は334名(24%)であった。10年間年次別の頻度には有意差を認めなかった。低体重者(BMI<18.5)のうち血中Hb 値低値者6 %、血清鉄低値者16%、血清フェリチン低値者19%であり、普通体重者の頻度と有意差を認めなかった。低体重者と普通体重者との間で血中Hb 値、血清鉄、血清フェリチン値の平均値に有意差を認めなかった。栄養摂取状況は、エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質摂取量については血中Hb 値、血清鉄、血清フェリチン値の低値者と正常者との間に有意差は認めなかった。鉄摂取量と血中Hb 値、血清鉄、血清フェリチン値の間に有意の相関は認めなかった。食品群別摂取量では、Hb 低値者では肉類の摂取量が有意に低かった。血清鉄および血清フェリチン低値者では乳類摂取量が多く、緑野菜摂取量が少なかった。食品群別摂取量と強制投入法による重回帰分析を行ったところ、血中Hb 値および血清フェリチン値は緑野菜摂取量と正の相関、乳類摂取量と負の相関を認めた。また、血清鉄は食品群摂取量との間に有意の相関は認めなかった。【考察】血清フェリチン低値の潜在性鉄欠乏は25%程度みられたが、鉄欠乏性貧血者は5 %程度であった。低体重者において鉄欠乏性貧血者の頻度が必ずしも高い訳ではなかった。鉄摂取量と血清鉄、血清フェリチン値、血中Hb 値との間には有意の相関は認められなかった。食品群別摂取量では緑野菜の摂取が鉄欠乏状態の改善に有効であることが示唆された一方で、乳類の摂取は鉄吸収を抑制する可能性が示唆された。鉄欠乏状態者の栄養を考える際には鉄摂取量のみならず、鉄吸収についても考慮する必要があると考えられた。
著者
宮本 恵子 今井 具子 瀬崎 彩也子 川瀬 文哉 下方 浩史
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-7, 2018-12-25

【目的】健康上の問題で、日常生活が制限されることなく生活できる期間を健康寿命という。平均寿命と健康寿命との差は日常生活に制限のある「不健康な期間」である。この「不健康な期間」をできる限り短くすることが日本を始め世界の多くの国で最大の健康政策課題となっている。本研究では国際比較研究から平均寿命と健康寿命の差と、それに影響を与える因子について明らかにすることを目的とした。【方法】国別の健康寿命、平均寿命のデータはGlobal Burden of Disease(GBD) 2015のデータベースを用いた。国連食糧農業機関のデータベース(FAOSTAT)を用い、国民一人当たりのエネルギー供給量とたんぱく質、脂質、炭水化物供給量、そして、それぞれのエネルギー比を求めた。FAOSTAT の食糧供給量は生産から消費者に届くまでの減耗を除いた量であり、家庭での消費量を反映している。国別の教育年数は国連教育科学文化機関統計研究所のデータベースから、喫煙率はGBDのデータベースから、肥満率(BMI ≧ 30)は世界保健機関(WHO)のデータベースから引用した。人口、高齢化率(65歳以上の人口割合)、国内総生産(GDP)と国民一人当たりの医療費は世界銀行のデータベースから引用した。データの揃った人口100万人以上の国131ヵ国を解析の対象とした。国別に平均寿命と健康寿命との差と、差に影響を与える因子について、ステップワイズ法による重回帰分析を行った。分析にはR 3.5.0を用いた。【結果】2015年度のデータでは日本の平均寿命、健康寿命はともに世界一であった。平均寿命と健康寿命との差は平均寿命が長いほど大きかった。しかし、日本の平均寿命と健康寿命との差は9.3年で、世界131ヵ国中60位であった。社会経済的指標、生活習慣などの要因を入れたステップワイズ法による重回帰分析では、肥満率、GDP、エネルギー供給量がこの順で平均寿命と健康寿命との差を大きくする要因となっていた。また肥満率、医療費が平均寿命と健康寿命との差の割合を大きくする要因であり、教育年数、高齢化率が差の割合を小さくする要因であった。【結語】平均寿命と健康寿命との差及び差の割合は肥満と最も強く関連していた。日本は平均寿命、健康寿命が世界で最も長いが、先進国中では肥満率が少なく、このため平均寿命と健康寿命との差が短くなっていると考えられる。
著者
庄司 吏香 早瀬 須美子 北川 元二 山中 克己 藤木 理代
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.3, pp.53-67, 2017-12-22

【目的】便秘の評価は、一般に主観的に回答する質問票により行われており、客観的な評価法は確立されていない。欧米人について、便秘と呼気中メタン濃度(以下、メタン濃度)との関連が多く報告されている。日本人については、高齢者に関する報告は散見するが、若年女性を対象とした報告はほとんどない。そこで本研究では、女子大学生のメタン濃度と排便習慣、生活習慣、食習慣ならびに食物摂取状況について調査し、メタン濃度が便秘の客観的な指標となりうるかについて検討した。【方法】女子大学生281人を対象に、メタン濃度を、呼気ガス分析機を用いて測定した。排便習慣(11項目)、生活習慣(8項目)、食習慣(5項目)、ならびに食物摂取頻度調査を実施した。解析対象者は記録に不備のなかった235人である。【結果】メタン産生者のカットオフ値は2.73ppm と報告されているが、今回調査した女子大学生の呼気中メタン濃度の平均値は2.40±0.58ppm であった。排便習慣に関する各質問項目について、回答肢ごとに平均メタン濃度を比較したところ、1週間の排便頻度が1日以下、1日あたりの排便量1個以下、便の形状が硬い、ほぼ毎日硬便、おならがよく出る、排便時のいきみが重い、排便時の残便感が重い、腹部不快感・痛み、胃痛、お腹の張りが重い者では平均メタン濃度が有意に高かった。生活習慣については、普段の体調、水分摂取量、生理中であることが呼気中メタン濃度と関連があった。食習慣および栄養摂取状況については関連がなかった。1週間に3日未満の便秘者と3日以上の快便者間との呼気中メタン濃度に有意差は認めらなかったが、便秘の症状である排便時のいきみ、残便感、お腹の張りなどについては、呼気中メタン濃度と関連がみられた。呼気中メタン濃度は便秘の主観的症状を客観的に評価する指標として期待できると考えられた。【結論】対象者は若年者であり、メタン濃度は全般的にかなり低く、分布も狭かった。1 週間に3日未満の便秘者と3日以上の快便者間のメタン濃度に有意差は認めらなかったが、便秘症状である排便時のいきみ、残便感、お腹の張りなどについては、呼気メタン濃度と関連がみられた。呼気メタン濃度は便秘の主観的症状を客観的に評価する指標としては期待できると考えられた。
著者
阿部 稚里 今井 具子 瀬崎 彩也子 宮本 恵子 川瀬 文哉 白井 禎朗 眞田 正世 位田 文香 加藤 匠 下方 浩史
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.5, pp.23-29, 2019-12-25

【目的】乳癌は女性にとって主要な癌の一つである。これまでに、乳癌と乳製品摂取との関連がメタアナリシスによって検討されているが、一貫した結論が得られていない。その理由として、食事調査の手法や乳製品摂取量の評価が論文間で異なること、調査地域が限られていることが挙げられる。そのため、乳製品と乳癌の関連をさらに明らかにしていくためには、地球規模で同一手法を用いた乳製品摂取量の調査による研究が必要と考えられる。そこで本研究では、現在公表されている国際データを用い、乳癌と乳製品の関連を地球規模による国際比較研究で縦断的に明らかにすることを目的とした。【方法】乳癌発症率および乳癌死亡率は、Global Burden of Disease( GBD) 2017データベースから各国の10万人当たりの年齢標準化された値を入手した。生産から家計までのすべての段階における減耗を除く、各国の食品供給量と総エネルギー供給量は国連食糧農業機関データベース(FAOSTAT)から入手し、乳製品の供給量を求めた。調整変数として、人口、国民一人当たりの国内総生産(GDP)、高齢化率(以上世界銀行データベース)、平均BMI、喫煙率、教育年数、身体活動量(以上GBD データベース)を入手した。全てのデータが得られた100万人以上の人口を持つ139カ国を対象とし、共変量を調整した線形混合モデルを用いて、乳製品供給量と乳癌発症率および乳癌死亡率との1990年から2013年までの23年間の縦断的関連について解析を行った。解析にはR 3.6.1を用いた。【結果】すべての共変量を調整したモデルにおいて、乳製品供給量と乳癌発症率の間に有意な正の関連があった(β= 7.393、標準誤差1.553、p<0.001)。同様に、すべての共変量を調整したモデルにおいて、乳製品供給量と乳癌死亡率の間にも有意な正の関連があった(β= 2.123、標準誤差0.613、p<0.001)。【結論】乳製品供給量と乳癌発症率および乳癌死亡率が正の関連を示すことを、比較的近年のデータを用いて縦断的に明らかにした。このことから、乳製品を多く摂取する食生活は、地球規模において乳癌発症率や乳癌死亡率を上昇させる可能性が示された。今後さらに、乳製品を低脂肪と高脂肪に分けて解析を行うことが必要である。
著者
眞田 正世 今井 具子 瀬崎 彩也子 宮本 恵子 川瀬 文哉 白井 禎朗 阿部 稚里 位田 文香 加藤 匠 下方 浩史
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.5, pp.15-22, 2019-12-25

【目的】全世界で3 億人以上の人たちが抑鬱状態であり、さらに80万人に近い人たちが自殺によって死亡している。抑鬱は身体障がいの最大の要因である。近年、食事と鬱病との関連が注目を集めており、特に抗酸化物質と抗炎症成分が豊富な野菜類は、鬱病の発症予防に有益な効果を持つ可能性が指摘されている。本研究の目的は、野菜類・果実類の供給量と鬱病有病率との22年間の縦断的関連を国際比較研究で明らかにすることである。【方法】生産から家計までのすべての段階における減耗を除く、各国の食品供給量と総エネルギー供給量を国連食糧農業機関データベース(FAOSTAT)から入手し、食品群分類から野菜類の供給量を求めた。鬱病については、Global Burden of Disease( GBD) 2017データベースから各国の10万人当たりの年齢標準化鬱病有病率を入手した。調整変数として、世界銀行データベースから人口、国民一人当たりの国内総生産(GDP)、高齢化率、失業率、GBD から平均BMI、喫煙率、教育年数、国別の中心経度緯度を入手した。データの得られた100万人以上の人口を持つ137カ国を対象とし、共変量を調整した線形混合モデルを用いて、野菜類、果実類の供給量と鬱病有病率との1991年から2013年までの22年間の縦断的関連について解析を行った。解析にはR 3.5.3を用いた。【結果】野菜類供給量と鬱病有病率との関連の縦断的解析では、すべての共変量を調整したモデルで有意な負の関連が認められた(β = -0.058±0.028、p <0.05)。また、果実類の供給量と鬱病有病率についても同様にすべての共変量を調整したモデルにおいて、有意な負の関連が認められた(β=-0.097±0.036、p <0.01)。【結論】野菜類および果実類の供給量は鬱病有病率と有意な負の関連を示した。豊富な野菜類や果実類を摂取する食生活は鬱病有病率を低下させる可能性が示された。Background and objective: More than 300 million people worldwide are depressed and nearly 800,000 people have died from suicide. Depression is the biggest cause of disability. The association between diet and depression has drawn attention in recent years. Among the dietary factors, vegetables and fruits, which are rich in antioxidants and anti-inflammatory components, were hypothesized to play an important role in depression development. The aim of this research is to clarify the longitudinal association of vegetables and fruits with depression rate using 22-year worldwide statistics.Methods: Average food supply (g/day/capita) and energy supply (kcal/day/capita) by country, excluding loss between production and household, were obtained from the Food and Agriculture Organization of the United Nations Statistics Division database (FAOSTAT). Each food was sorted, and supplies of vegetables and fruits were obtained. Data of age-standardized prevalence of major depression per 100,000 people by country were derived from the Global Burden of Disease (GBD) 2017 database. As control variables, population, gross domestic product (GDP) per capita, aging rate, and unemployment rate by country from the World Bank database, and BMI, smoking rate, expected years of education, and central longitude and latitude by GBD database. The 22-year longitudinal associations of fruits and vegetables with major depression were examined in the 137 countries with populations of 1 million or greater controlling for covariates by the mixed effect model.Results: A significant negative association was found by the longitudinal analysis of the relationship between the vegetables supply and the prevalence of major depression in the model controlled for all covariates (β = –0.058 ± 0.028, p<0.05). In addition, a significant negative association between the supply of fruits and the prevalence of major depression was also found in the model controlled for all covariates (β = –0.097 ± 0.036, p<0.01).Conclusions: Vegetables and fruits supply were significantly negatively associated the rate of major depression. Vegetables and fruits may reduce the prevalence of depression.
著者
藤山 友紀 立花 詠子 塚原 丘美 草間 実 今峰 ルイ 溝口 麻子 間瀬 創 佐藤 愛 関口 まゆみ 渡会 敦子 中島 英太郎
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.4, pp.9-16, 0208-12-25

糖尿病治療では、良好な血糖コントロールを行う上でエネルギー摂取量の遵守は重要である。しかし、糖尿病治療薬によっては安静時エネルギー消費量(REE)に影響を及ぼすことが報告されている。そこで、sodium glucose cotransporter 2(SGLT 2)阻害薬のREEに及ぼす影響を検討した。外来受診中の2 型糖尿病患者20名を対象に、SGLT 2 阻害薬服用前と3か月後でREE 測定、体組成測定、血液検査、食物摂取頻度調査を行い比較した。結果、REE は服用前後で1554±257kcal/ 日から1491±313kcal/日と低下傾向を示したものの有意差は認められなかった。また、体重当たりのREEも有意差は見られなかった。体重や体脂肪量が有意に低下したが、骨格筋量は有意な変化は見られなかった。以上の結果より、3ヶ月間のSGLT 2阻害薬服用ではREEに影響を及ぼさない可能性が示唆された。今後は症例数を増やした検討が必要である。
著者
渡會 涼子 安友 裕子 北川 元二
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Science (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.4, pp.55-65, 2018-12-25

【目的】若年女性の過度のやせは、貧血、骨粗鬆症、低体重児出産などのリスク因子となる。本研究では女子大学生を対象に健康状態、栄養摂取状況、食行動調査を実施し、低体重者の実態を明らかにするとともに、自己のボディイメージ評価による栄養摂取状況および健康状態について比較検討を行った。【方法】①健康状態については身体計測、血液検査、②栄養調査は食物摂取頻度調査法(FFQ)、③食行動は独自で作成したアンケート調査を実施した。ボディイメージはStunkard によるシルエット法を用いて検討した。【結果】管理栄養学部1 年生女子学生134名を対象とした。Staunkard のシルエット法は体格図( 1~ 9段階でスコアが高いほど体格が大きくなる)から選択してもらいボディイメージをスコアで評価する方法である。BMI による実際の体格とシルエット法によるボディイメージ評価を比較検討した。現在の自己評価によるボディイメージ・スコアは、低体重者(BMI<18.5)4.00±0.92、普通体重(18.5≦BMI<25.0)4.17±0,96、肥満者(25.0≦BMI)4.40±1.34と、低体重者と肥満者との間に有意差は認められたが、いずれもBMI=23に相当する4 点台であった。理想とするボディイメージ・スコアは平均2.93±0.63、健康的であると思うボディイメージ・スコアは平均3.49±0.59と、健康的であると思うボディイメージより、理想とするボディイメージ・スコアが有意に低かった。肥満度別に、「理想のボディイメージ」とエネルギー摂取量を比較検討したところ、低体重者、普通体重者ともに、理想のボディイメージ・スコアが低い者は、エネルギー摂取量が低く、過剰なダイエットをしている可能性が示唆された。自己のBMI による体型を正常に認識している「正常認識群」と自己のBMI による体型を実際より太っていると過大評価している「やせ願望群」で検討を行った。やせ願望群は63%であった。血圧や骨密度、血液検査成績においては、正常認識群とやせ願望群で有意差は認めなかった。エネルギー摂取量は正常認識群1,714±545 kcal、やせ願望群1,583±437 kcal とやせ願望群が少ない傾向がみられたが有意差はなかった。食品群別における主食・芋類摂取量は、やせ願望群の方が有意に低かった。【結論】ボディイメージの誤った認識が過度の痩身傾向に影響している可能性が示唆された。若年女性に対する正しいボディイメージ認識の啓発が重要であると考えられた。